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アメリカ経済のリスクシナリオ

雇用統計が強すぎるため、FRBのタカ派的姿勢が継続する要因に

アメリカの12月の雇用統計は、想定外の強さだった

 アメリカの12月の雇用統計が発表されたが、事前予想を上回る結果となった。非農業部門の雇用者数は、前月比22万3千人増加し、事前予想の20万人を大きく上回るサプライズになった。
 労働市場の逼迫が継続しており、比較的高水準の賃金上昇率が確認された。前月よりは伸び率が低下したものの、前年比4.6%の伸びを記録している。事前予想の5.0%よりは低いとはいえ、4%台後半の賃金上昇率であれば、インフレ要因として意識せざるを得ない。発表直後は、賃金上昇率の低下を好感した動きが市場では見られたが、冷静に考えれば、そこまでスローダウンした数値とは言い難い。
 FRBとしても、依然としてインフレ圧力が存在している以上、引き締め姿勢を転換するわけにも行かないであろう。結果的には、金融引き締め政策の程度と期間が、従来想定以上に厳しいものとなると理解される。
 アメリカ経済のソフトランディングのためには、ある程度のところで、金融引き締めが止まり、さらには、緩和方向に動く見通しが出てこないとならないが、今回の雇用統計を見る限り、その可能性が低くなりつつあると、私は判断する。
 そうなると、俄然、リスクシナリオとしての、アメリカ経済の深刻な不況入りが起こる可能性がクローズアップされてくる。最悪の場合、インフレが収まらないうちに深刻な不況となり、スタグフレーション状態に陥るリスクすら指摘される。
 これは、従来から意識されていたリスクシナリオではあるものの、回避できるのではないかという期待もあった。市場の反応としては、FRBのタカ派的姿勢が後退し、年央からの方向転換シナリオを織り込むものであったが、そこまで楽観視できないと、私は見ている。

低水準の失業率がさらに低下

 今回の雇用統計においても、アメリカの失業率は、3.5%ということで、歴史的低水準といっても良いだろう。横ばい予想であったが、前月の3.7%からさらに低下してサプライズとなった。一部の巨大IT企業などで、大規模な人員整理が伝えられているが、その影響は、マクロ的には、全く感じられない。
 ITエンジニアの雇用環境に関しては、全体としては、依然として人手不足で、仮に失職しても、すぐに次が決まるような状況だと推察される。実際、これまで高度なIT人材を採用したくてもできなかった製造業などからのIT人材に対する求人も多いという声がある。
 さらに、観光、旅行、飲食などの業界では、コロナ禍において、大幅な人員削減を余儀なくされたため、需要が拡大している現在、人手不足が深刻化している。これらの業種については、求人数が求職者数を大幅に上回っている模様であり、採用難といっても良い状況が続いている。
 結果的には、アメリカの失業率は、完全雇用と見なせる水準以下にまで低下しており、労働市場の逼迫感の強さを意識せざるを得ない。

現時点で急激な変化の兆しはない

 雇用に関しては、現時点で、急激に悪化する兆しはない。今後しばらくは、労働市場の逼迫は続いてしまうのだろうと予想される。従って、この面から、FRBが金融引き締め政策を修正する理由はないと言える。
 しかし、将来に渡って盤石かと言えば、そうとも言えない。金融政策の影響は、通常、タイムラグを経て、顕在化するものである。今回の金融引き締め政策にしても、実際に目に見える形での影響が発生するのは、今年の年央になってからだろうと予測されている。

FRBの金融政策転換が遅れる可能性とその影響

 ただ、その影響が見え始めた時点で、FRBが速やかに政策転換を図るかといえば、そうとも言い切れない。過去の経験則に過ぎないが、FRBの政策転換は、遅れることが多い。
 その程度にもよるが、ピークレベルにおける政策金利の水準が、従来のコンセンサスの5.0%-5.25%を超えて、5.5%-5.75%、あるいはそれ以上に達してしまった場合、ある時点から急激な景気後退が起こる可能性も指摘される。
 そのような高水準まで政策金利が引き上げられているとすれば、おそらく高水準のインフレが進行している事態だろうと推定されるが、もしそこで深刻な景気後退で大不況となれば、スタグフレーションのリスクが顕在化することになる。
 スタグフレーションは、非常に厄介な状態で、金融引き締めを行っても、即座にインフレ率が低下せず、景気の落ち込みがひどくなっていく。
 私は、従来、2023年のアメリカ経済は、ソフトランディングに成功し、年後半からは回復を期待する動きになっていくものと予想してきた。しかしながら、現時点においては、やや悲観的なシナリオの実現可能性が高まっているものと判断している。
 アメリカ経済の景気動向と、FRBのタカ派姿勢に変化があるのかどうかという点については、引き続き注視していきたい。

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