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日本経済アップデート

2023年2月の消費者物価指数が発表された

2月のCPIコアコア指数は前年比3.5%上昇だった

 本日、2023年3月24日、2月の消費者物価指数統計が発表された。総合指数は、前年比3.3%、生鮮食料品を除くコア指数は、同3.1%の伸びとなり、前月実績に比べると鈍化していることが明らかにはなっている。これは、電力・ガスといった公共料金の伸び率が、政府の物価抑制策の効果で、前年比0.1%の上昇にとどまったことが大きい。
 一方、生鮮食料品とエネルギー価格の影響を除いた、コアコア指数に関しては、前年比3.5%上昇となり、依然として上昇傾向が続いている。インフレを一時的なものとして認識して良いのかどうかは、これから数か月の趨勢が重要となろう。ただ、3.5%の上昇率自体は、それほど問題視する必要はないと考えられる。これが、年央に2%台半ばに落ち着き、年末までに2%以下の水準に収まるとすれば、経済にダメージをもたらすものとはならないであろう。

コストプッシュ型インフレに金融引き締めは無意味

 現時点における物価上昇は、基本的にはコストプッシュ型のものであり、経済が過熱し、超過需要が発生することで起こるディマンドプル型とは、質的に異なるものである。ディマンドプル型であれば、過熱している経済を冷やすために、金融引き締めを検討することになるが、コストプッシュ型であれは、それは、ほとんど効果を期待できない。むしろ、さらに需要を減退させ、経済の不均衡を拡大させることになりかねない。経済成長による豊かさの実現を目指す上では、財政政策の積極化などで、需要拡大に努めるべきであろう。
 なお、コスト上昇という意味では、既に、国際商品市況はピークアウトしているため、数か月以内に、コスト上昇要因の少なくとも一部は解消するものと考えられる。為替レートも円高傾向になっているため、輸入物価の上昇による影響も限定的であろう。現時点では、過去のコスト上昇分を価格転嫁している過程にあり、数か月はその影響が続くものと考えられるが、いずれにしても、一巡すれば、落ち着くものと予想される。
 したがって、現時点で金融政策を転換する必要性は、全くないものと判断される。今後、数か月でどのような変化が生じるのかという点が焦点になる。

サービス価格がどの程度上昇するのか

 消費者物価指数を財とサービスに分解した場合、財の上昇率は、1月の7.2%から5.1%に低下したが、サービスの上昇率は1月の1.2%から1.3%にわずかながら上がっている。ただ、年率1.3%の上昇率は、依然として低水準であり、これが、趨勢として緩やかなインフレ実現に向けた動きになるのかどうかが注目される。
 サービス価格上昇の後押しをする要因としては、賃上げの効果が挙げられる。この春の賃上げが寄与してくる4月以降のサービス価格動向如何によって、経済の温度感を測ることになる。その意味でも、賃上げが中小企業も含めて、どこまで広がっていくのかが非常に重要な要因となる。

現時点ではインフレ高進とは言えない

 現時点においては、インフレがコストプッシュ型であることに加えて、賃上げによる需要拡大がどの程度になるのかという点が不透明であり、長期的なインフレ率予想が、目標とする2%を継続的に達成できるという見通しにはなっていない。
 経済政策に求められるのは、需要拡大を促すことであり、インフレ抑制のために金融引き締めをする時期ではないと判断される。日銀が金融緩和政策を継続するのは、当然のことであろう。同時に、政府に対しては、さらなる財政出動によって、需要拡大を図るように求めたい。
 それがあって初めて、中小企業も含めた広範な賃金引上げの機運が高まるものと考えられる。現状、大企業については、比較的大きな賃上げを実現しているものも目立つが、中小企業については、先行きの景気に対する不透明感等から、抑制的になっているものと見られる。景気の見通しが明るくならなければ、広範な賃上げを実現するのは、困難であろう。

世界経済の見通しはさらに不透明感が強まっている

 アメリカのシリコンバレーバンクの破綻に端を発した、世界的な金融システムに対する不安は、ようやく一応の落ち着きを見せているが、まだ、完全に収束したわけではない。
 シリコンバレーバンクに続いて、シグネチャーバンクが破綻し、アメリカでは、地方銀行を中心に金融機関の経営に不安感が広がった。さらに、それが飛び火する形で、ヨーロッパでも、世界的な金融機関クレディ・スイスの経営危機が表面化した。結果的には、UBSによる救済買収によって、事態を収拾することになったが、その過程でクレディ・スイスのAT1債が無価値になるという衝撃的な出来事もあり、未だにその余波は収まっていない。
 アメリカでも、一部の地方銀行に関しては、経営不安がささやかれており、FRBが利上げを継続したこともあって、まだ、完全に不安感が払しょくされたわけではない。時間経過とともに徐々に落ち着きを取り戻すものと見ているが、大きな危機につながるリスクもゼロではないため、警戒を続けるべきであろう。
 世界経済の動向に関しては、中国の落ち込みが明らかであるため、牽引車どころか足を引っ張る可能性が高い。ヨーロッパについても、ウクライナ戦争が重石となり、エネルギー問題も絡んで、再浮上するシナリオが描き難い。
 最後の砦というべきアメリカ経済についても、金融システムの動揺が収まるまでは、不安定な状況が想定される。金融引き締めによるインフレ抑制と、金融システムの安定性を強化するための政策は、一部矛盾する面もあるため、FRBは非常に難しいかじ取りを求められている。この微妙なバランスが崩れた場合、アメリカ経済がハードランディングする可能性が高まるため、要注意である。
 世界経済の見通しは、非常に不透明になっており、投資家に対しては、慎重なスタンスを勧めたい。金などの貴金属を始めとした、安全資産への一時的な資金シフトをしておくのも良いアイデアであろう。

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