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のざわちかこ/古典を未来に
2023年10月15日 12:44
須磨の秋 廊に立つ3人。左端が源氏の君です。目の前には庭の草花が咲き乱れ、沖には小さな舟、空には雁が列をつくって飛んでいるのが見えます。耳をすませば、舟人の歌声、雁の鳴き声、舟をこぐ楫の音‥‥。 絵になる景色ですねえ。ーーーーーー 須磨には、ますます物思いをつのらせる秋風が吹き、海はすこし遠いけれど、行平の中納言が、『関吹き越ゆる』と詠んだという浦波が、夜な夜な実にとても近くに聞こえて
2023年9月6日 10:52
内大臣家(弘徽殿女御の実家)で催された藤花の宴。遅咲きの桜も2本描かれています▼。ところで源氏の君、何をなさっているの?(左端)花宴の夜の出会い宮中で花宴が催された夜、源氏の君は、弘徽殿で出会った姫君と結ばれました。いつもの〈源氏も歩けば美女にあたる〉的な展開と思いきや、この出会いが、あとあと源氏の君が都から逃げ出す原因になっていきます。美しくも危険な出会い。その続きを。夜明けが近
2023年9月3日 14:18
照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき(月の光が明るすぎることもなく、暗すぎることもない、春の夜の朧月夜に優るのものはない)月がぼんやりと霞んで見える春の夜に、「朧月夜に似るものぞなき」と有名な和歌の一節を口ずさみながら、弘徽殿の細殿を歩いてくる姫君、それを見つめる源氏の君。どきどきする場面です。宮中の花宴 旧暦の2月20日、内裏の南殿(紫宸殿)の左近の桜の前で花見の宴が
2023年8月23日 15:43
六条御息所、京を離れる大河ドラマ「どうする家康」(2023)の6月の放送〈第23回〉で、瀬名と於愛の方が、「六条御息所との別れの場が大好きで」「藤壺との逢瀬は?」「あ、もうやだ、あそこ何度読んでも胸がどきどきして、顔が熱くなってしまう……」などと『源氏物語』についてキャピキャピ話していましたが、この絵は六条御息所との別れの場面です。御簾の中に半分身体をさしいれているのが、源氏の君。後ろを向
2023年7月9日 12:20
中の品の女性と中川の家で帚木の巻の冒頭、〈雨夜の品定め〉で男たちから経験談を聞かされて、源氏の君は中の品の女性に興味をもちます。父の桐壺帝の意向により宮中で育てられた源氏の君は、帝のお妃たちや宮中でお仕えする女房たちにいつも囲まれ、亡き東宮のお妃だった六条御息所ともお付き合いして、北の方は左大臣の娘の葵の上。中の品の女性となら、もっと気楽な恋愛ができると思ったのでしょうね。「帚木」巻の後半と「
2023年5月5日 16:32
葵祭は賀茂祭賀茂祭は、参加する人が葵を身につけるので、葵祭ともいいます。その起源は奈良時代ですが、平安時代に入ると、内親王の中から選ばれた賀茂斎院が祭に奉仕しました。平安時代の文学作品にも、賀茂祭の行列を見物する場面が描かれています。紫式部や清少納言の時代の斎院は、村上天皇の皇女、選子内親王です。円融天皇から後一条天皇までの五代、50年余りの長きにわたって斎院をつとめたので、大斎院と呼ばれ
2023年4月9日 10:17
御忍び歩きのついでに 『源氏物語』夕顔の巻はこのようにはじまります。ーーーーーーー 六条あたりの邸(六条御息所の邸)にひそかに通っているころ、内裏から退出してそこに向かう途中に、大弐乳母がひどく体調を崩して、尼になってしまったのを見舞うため、五条にある家をお訪ねになった。 六条御息所の邸に通うついでに、乳母を見舞う源氏の君。〈ついでかぁ〉と思ってしまいますが、尼君(大弐乳母)はもちろん
2023年3月12日 15:57
源氏の君の元服 十二歳になった源氏の君は元服します。現代では、成人年齢が十八歳に変更されましたが、十二歳で成人というのは、かなり早すぎますよね。物語の創作?いえ、平安時代は、皇子や摂関家の男子の元服を十一歳ぐらいから行ったそうです。 平安時代の成人式は「加冠の儀」ともよばれます。元服前の男子は角髪を結っていますが、まず理髪役の人が角髪を解き、髪を一つに束ねて元結で結び、笋刀という小刀で毛先
2023年3月26日 21:14
賀茂斎院の行列 葵祭にかかわる賀茂斎院のおでましは三回。祭に先立つ賀茂川での御禊、祭の当日の上賀茂神社・下鴨神社への参拝、祭の翌日の斎院への還立(祭のかへさ)。その行列は、どれもが大勢のお供を連れたはなやかなものだったので、経路にあたる大路には、いつもたくさんの見物人が集まりました。『源氏物語』葵巻の車争い 『源氏物語』葵巻の車争いは、斎院の御禊の日に起きました。このときの斎院は、桐壺
2023年3月3日 15:44
方違え 梅雨の晴れ間の蒸し暑い夜、源氏の君は久しぶりに葵上がいる左大臣邸を訪れますが、この日は、内裏から左大臣邸への方角が凶、「二条院〈源氏の君の邸〉も同じ方角だもの、どこに方違えをすればいいの。暑くてだるいよ」(二条院にも同じ筋にて、いづくにか違へむ。 いとなやましきに)とおっしゃって寝てしまおうとする源氏の君に、供の者たちは「そば近くお仕えしている紀伊守の、中川のあたりの家は、最近、川から
2023年2月24日 15:55
この絵の舞台は左大臣邸。左大臣は、結婚してから時間がたつのに、源氏の君と姫君の仲がよそよそしいままであることに胸を痛めながらも、帝が物忌中*なので、宮中で宿直している源氏の君のもとに、着替えをとどけさせるなど、細やかにお世話します。 帝の物忌がようやく終了したのでしょうか、源氏の君は、この日、ひさしぶりに左大臣の邸を訪れました。*「物忌」怪異や悪夢を見ると陰陽師が占って期間を定め、人の出入
2023年2月23日 10:53
高麗の相人と対面 この絵は、『源氏物語』桐壺巻で、桐壺更衣の忘れ形見の皇子の行く末を案じた帝が、高麗のすぐれた相人(人相をみる人)に皇子を占わせる場面です。場所は、外国使節の客舎である鴻臚館、中央の置畳に座っているのが皇子、元服前なので冠はつけていません。高麗の相人と向かい合って座っている、束帯姿の人は右大弁*です。*「右大弁」弁官は国の行政機関の事務局で、大弁はその長官。左右に分かれてい
2023年2月19日 09:51
笛と琴の合奏 この絵は『源氏物語』帚木(箒木)巻の「雨夜の品定め」で、左馬頭が語った体験談の中の一場面です。簀の子に腰かけて、笛を吹いている束帯姿の男性、右上に池、水面に映っている月、庭に散った紅葉。築地(土で作った塀)の一部が崩れています。この場面、『源氏物語』ではこのように書かれています。ーーーーーーー 神無月(旧暦十月、冬のはじめ)のころ、月が美しかった夜に、宮中から退出しますとき
2023年2月16日 15:09
『源氏物語』帚木巻冒頭帚木巻冒頭は、語り手の「女房」の独白ではじまります。ーーーーーーーーーー光源氏は、その名ばかりが大げさで、とがめられることも多くおありとうかがっているのに、そのうえ、このような女性たちとの浮ついた話を後世に伝えて、軽はずみなご気性という評判を立てようと、人目を憚って隠しておられたことまで語り伝えるひとの、なんとおしゃべりで性悪なことよ。ーーーーーーーーーーいった