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新作に飢えたファイアーエムブレムファンに贈るSRPG「ティアリングサーガ」


 初代プレイステーション(以下PS1)のシミュレーションRPG「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記(以下 TS)」を今さら遊び、先日遂にクリアした。前評判通り非常に面白いゲーム、いわゆる神ゲーであった。
 総プレイ期間は約2ヶ月、クリアまで要した時間は約45時間。満足どころか満腹で動けなくなってしまうほどの大ボリュームだ。
 本稿ではそんなTSについて、主に“TSを遊んだことがない「ファイアーエムブレム(以下 FE)」ファン”に向けた文章を綴っていきたい。


1、「ティアリングサーガ」とは


 本作は任天堂が発売しているシミュレーションRPGであるFEシリーズの生みの親:加賀昭三氏が2001年に手掛けた、事実上FEの兄弟作品と言っても差し支えない作品となる。
 しかしその対応機種は任天堂ハードのスーパーファミコンでもニンテンドウ64でもなく、なんとライバル会社のソニーから発売されたPS1。かつて在籍していたインテリジェントシステムズ(数多くの任天堂のソフトを開発している)から独立し、角川系列のエンターブレイン社を発売元としてPS1から発売されるに至ったのである。なお本作以降、加賀氏はFEシリーズ(具体的には2002年発売の「FE 封印の剣」以降の作品)に携わっていない。




 本作はFEシリーズとの直接的関連性※を匂わせたことやゲームの類似性の強さにより、任天堂と裁判で争ったことでも有名である。その件や判決の是非については本稿で触れないので、気になる方はWikipediaの「ティアリングサーガに関わる問題」をご参照いただきたい。
 ゲームは映画や舞台と同じような“総合芸術”である。よってこの一件は、「総合芸術は誰の所有物なのか?」という問題を考えさせられる事例であったように思える。なお、判例の詳細が気になる方は、裁判所WEBサイトの「裁判例検索」をしてみるのも良い。「ファイアーエムブレム」と検索すれば、すぐに判例のPDFを読むことができる。


 ※当初の予定ではFEシリーズの某重要キャラクターが登場する予定であったり、タイトル自体も「エムブレムサーガ」と銘打たれていた。裁判の結果“FEとは全くの別物”という体で販売されるに至ったわけだが、発売された本編においても明らかにFEの世界観との繋がりを想起させる設定が垣間見える。詳しくは本稿では述べないが、隠しエンディングにて語られるとある伝説は、どう見てもあの作品を連想せざるを得ない。FEファンなら必見。


2、俺と「ティアリングサーガ」


 俺はFEシリーズの大ファンであるが、今まで本作を遊んだことがなかった。本作の続編にあたるPS2のソフト「ベルウィックサーガ」は過去に遊んでいるが、あまりに凶悪な難易度に打ちのめされて序盤で投げ出してしまい、このシリーズに対し苦手意識を持ってしまっていたせいだ。
 そんな俺がTSを遊んだ理由──それはシリーズ最新作が2019年発売の「FE  風花雪月」以降いつまで経っても発売・発表されず、新作日照りに喘いでいたためである。




「FE  風花雪月」は豪華なグラフィック・豊富かつ練り込まれたテキスト・尋常でないボイス量からも解るように、過去のシリーズとは比較にならない程の超大作ゲームであった。その前作を越えようと、製作陣は人員・予算・期間を費やして努力に明け暮れているはずだ。新作の発表が中々出ない理由も、“前作より凄いものを作ろう!”と気合を入れているからだろう。
 とはいえ、発売から二年も経てば流石にそろそろ新作の続報が欲しくなる。ニンテンドーダイレクトがある度に「また発表されないのか!」と落胆することにも慣れてしまった。最新作である「風花」も、計150時間も使って全四ルートを遊び尽くしてしまっている。
 そうなれば、あとはまだ遊んでいない過去作──FEの兄弟たるTSを遊ぶしかない。俺は数ヶ月前「聖剣伝説4」を遊ぶため引っ張り出したPS2に、中古で買ったTSのディスクを挿入した。



3、「ティアリングサーガ」の魅力




 大前提として、本作の基本システムは「FE」シリーズ、特にスーパーファミコン版「FE 紋章の謎」と九割九分同じである。マス目となっているフィールドマップ上でキャラクターをボードゲームのように動かすゲーム性は勿論、ファンタジー世界を舞台にした戦争という題材、ユーザーインターフェースや操作感、マップ・キャラクターのデザイン(イラスト担当者は「FE トラキア776」の広田麻由美氏)等を見てもFEそのものである。FE経験者であれば一切の違和感なくプレイできることだろう。




 本作の特徴は二人の主人公:リュナン(画像右の黒髪)とホームズ(画像左の金髪)がそれぞれ率いる二部隊を交互に操作し、クライマックスにおいてようやく両者が共闘する点にある。さながら「FE外伝」とそのリメイク作「FE  ECOES」を彷彿とさせるシステムだ。
 リュナン編は高難易度のマップが続き、自由な寄り道(キャラクター育成やお金稼ぎのチャンス)は無し。対してホームズ編は比較的優しい難易度のマップが多く、寄り道による自由な経験値・お金稼ぎも可能。さながら「FE if  暗夜王国」「FE if  白夜王国」の二バージョンを同時並行して遊ぶ感覚に近い...と言えば、FEファンの方々に上手く伝わるだろうか。




 部隊毎でゲーム性が違えば、それぞれキャラクターの成長度合い・軍資金の豊富さに偏りが発生してくる。つまりホームズ部隊に対し、リュナン部隊がどうしても貧弱になってしまう。それを解消するのが、物語の道中で計三回行われる二部隊の“合流イベント”だ。
 この合流イベントでは、二部隊のメンバー・アイテム・軍資金を自由に移動させることができる。この要素は類似作の「FE外伝」「FE  ECOES」にも存在しないため、本作の白眉と言ってもよいだろう。
 ホームズ隊で育てたキャラクター・入手した軍資金をリュナン隊に送り込み、難所の攻略を楽にする。一方リュナン隊のキャラクターにいまいち経験値が足りていない場合は、ホームズ隊に移籍させてじっくり育成させる。この部隊間のやりくりの楽しさこそ、TSの面白さの肝となる。
 また、単純にキャラクターの強さの数値だけ見てチーム分けを判断すれば良いというものでもなく、個性豊かなメンバー同士の支援関係※(家族・恋人・友人同士が側にいると戦闘が有利になったり特殊イベントが発生する、FEでもお馴染みのシステム)も考慮しつつチーム編成を行う必要性もある。更にメンバーの強さ(成長率)にはプレイヤー毎に偏りが発生するので、必ずしも編成方法に正解が無いあたりも実に面白い。




 なお、クリア時セーブデータは“対戦用”のデータとして保存できる。本編で存分に成長させたキャラクターを、メモリーカードを持ち寄り友達同士で戦わせられるのだ。流石にこのご時世では不可能だが、発売当初に大いに盛り上がった方も多いのではないだろうか。




※TSはメンバー間において(異母・異父・義理も含めた)兄弟姉妹の関係にある人物が異常に多いのも特徴の一つである。海外大河ファンタジードラマ「ゲーム・オブ・スローンズ 」よりも家系図・人物相関図が複雑だ。
 更に、なんと義理のきょうだい間で恋愛関係に発展するキャラクターまで存在する。加賀氏の作品はこの毛色が濃い(例えばFE 聖戦の系譜」では近親愛とその悲劇を描いていた)と感じていたが、TSを遊ぶことでこの思いが確信へと変わった。


4、ここが惜しいよ「ティアリングサーガ」



 本作の練り込まれた世界観、そして様々なバックボーンを持つキャラクターが織り成す群像劇は非常に魅力的であった。その反面、固有名詞の量が膨大過ぎて、それらを解説するための説明台詞が妙に多いことが気に掛かる。登場人物同士の会話というよりも、“テレビの向こうにいる俺”に対して話してくれているようにしか感じられない、違和感のある部分が多々感じられた。
 加賀氏が手掛けたもの・そうでないものも含めたFEシリーズでは、大概バトルの開始前に戦場の立地関係・あらすじ等の“状況説明ナレーション”が挟まれている。今にして思えば、この形式のおかげで我々プレイヤーは架空戦記に没頭できたのだろう。TSでもこのようなFEの形式を踏襲すべきだったように思える。
 また、同じくPS1時代のシミュレーションRPGの名作「ファイナルファンタジータクティクス」のように一度登場したキャラクター・地名などを確認するための“辞典”的な機能が導入されていれば、物語理解をより深めることができたであろう。




 ストーリー面に関しては、戦争とともに“四つのリング”を巡るシナリオにも関わらず、そのうちの二つしか大きく関わらないのも勿体なかった。後の二つ乃至その関係者にまつわるイベントも無くは無いが、明らかにボリュームが足りていない。どうやら予算や納期の関係でイベントを削らざるを得なかったらしい。道理で終盤にかけてストーリーが駆け足になったわけだ。本来の構想通りであれば、もっと濃い群像劇を見ることができたはずだ。


5、「ティアリングサーガ」を遊ぶために




 最後に、TSを遊ぶためのちょっとしたハードルについて触れておきたい。
 俺自身は問題なく動作するPS2(初期型)を所持していたため、TSを問題なく遊ぶことができた。しかし耐用年数の問題もあり、今現在PS1を動かせる旧世代ハード──PS1・PS2・初期型PS3を所持している方は少ないと思われる。このように、本作は現在遊ぶ方法が限られていることが非常に勿体ない。中古で上記のハード(動作確認済み)を購入すれば済む話ではあるのだが……。
 また権利関係がややこしそうである点・原作者である加賀氏が現役引退を表明している点により、本作の現行ハードへの移植やリメイクは絶望的と言わざるを得ない。TSを遊びたければ、旧世代ハードを引っ張り出すしかないのである。



 とはいえ、個人的には旧世代ハードを引っ張り出してでも遊ぶ価値は十分にあると思っている。FEの新作が待てずTSを遊んだことがない方は、是非とも躊躇せずPSとソフトを発掘して遊んで頂きたい。タイトルに「ファイアーエムブレム」を冠していなくても、シリーズの魂は込められているのだから。


【余談】

 なお、加賀氏は引退後も、趣味としてシミュレーションRPGを製作している。こちらはFEやTSの続編ではないが、似た雰囲気と重厚なシナリオを味わうことはできそうだ。Windows専用ソフトであるため、Macユーザーの俺は未だに遊べていない…。



※サムネイル画像はAmazon商品ページより引用しました。

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