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菅田将暉氏とリンクした「仮面ライダーW」主人公の成長

 菅田将暉氏のことを知ったきっかけは、TVドラマ初出演・初主演作の「仮面ライダーW」だった。優れたデザイン性や脚本の巧みさ等、あらゆる点において俺が一番好きな仮面ライダーシリーズだ。
 彼は一年間にわたり、その主人公の一人:通称フィリップ※を演じていた。

 ※作中で吉川晃司氏が演じたベテラン探偵:鳴海荘吉から付けられた渾名。その本名は番組本編にてご確認下さい。



 まず始めに、「仮面ライダーW」の紹介をしたい。
 「仮面ライダーW」は、バディもの・探偵/推理ドラマの要素を含んだヒーロー番組だった。桐山漣氏が演じたもう一人の主人公:左 翔太郎が犯人=怪人に関する情報を収集し、異能の力で膨大な知識を持つ安楽椅子探偵:フィリップのデータと照合して、容疑者を絞り怪人の正体に迫る。そして怪人と対峙した際は一方の身体に一方の魂を乗り移らせ、“二人で一人の仮面ライダー”となって戦うのである。
 そんな「仮面ライダーW」は、探偵/推理ドラマとヒーロー特撮をMIXさせ、ほぼ矛盾がなく伏線を回収しきった見事な傑作だった。漫画「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」の原作などで知られる脚本家:三条陸氏の仕事の賜物だろう。対象年齢となる子ども以外、例えば放送当時高三〜大学一年生だった俺でさえ、この番組の虜になってしまった。
 そんな物語に彩りを加えたのは、もちろん役者の方々である。



 これまでに平成仮面ライダーシリーズは計十二作品観てきた。「ディケイド」以外は基本的にどの番組も一年間通じて放送されていたので、最初は危なげだった演技の役者が終盤には見違えるように成長していた…というケースをよく見かける。一年間一人の役に向き合い続ける仕事が、彼らを役者として成長させるのだろう。
 あくまでも俺の私見かつ鑑賞した作品内に限った話だが、放送中の成長が最も目覚しかった主演俳優は菅田将暉氏だったのではないか?と感じている。





 松田優作氏を意識した“昭和の探偵”風の翔太郎に対し、菅田将暉氏が演じたフィリップは“漫画『DEATH NOTE』のL” と “ドラマ版「ガリレオ」の湯川学”を足して二で割ったようなアクの強いキャラクターだった。
 そんなフィリップは物語開始時において、喜怒哀楽の“喜”と“楽”…つまり謎を解き知識を欲することの喜びと楽しさしか知らない、悪い意味で無垢な少年として描かれた。人情派探偵である翔太郎の感情(いわば人間臭さ)が理解できず、捜査の過程で対立し怒りをぶつけられることもあった。しかしフィリップは翔太郎の怒りの意味さえ知らず、へらへら笑う事しかできない。



 元々役者として活動していた桐山漣氏の熱が込もった演技に対し、駆け出しの役者だった菅田将暉氏は明らかに棒読み気味で、感情もどこか一本調子に思えた。これは明らかにマイナスポイントであるように思えるが、撮影開始時の菅田将暉氏と感情が欠落した序盤のフィリップは奇跡的なシンクロを果たしていた。初々しい演技によって、かえってキャラクターの存在感・生々しさが増していたのである。
 当然ながら、キャラクターも演技もこのままでは終わらない。“彼ら”の成長と変化こそ、「W」の魅力の一つなのだ。


 物語が進むにつれ、フィリップは多くの経験を積んでいく。様々な依頼人と関わり、友情や恋愛を知り、多くの敵と対峙し、出生の秘密と自身の正体を知り…。こうして様々なエピソードの中で、彼は次第に様々な感情を見せるようになる。
 物語終盤の幕間エピソードに当たる劇場版「運命のガイアメモリ」は、特にその描写が顕著だった。デリカシーの無い発言をした翔太郎や極悪非道な敵に対しては怒りを爆発させ、とある大切な人を喪ってしまった際には深い哀しみにくれる。かつて“怒”と“哀”を知らなかった少年は、一年経って立派な成長を遂げていた。
 また、最終回一話前のエピソード「永遠の相棒」では、とある人物と永遠の別れを覚悟した際に繊細な演技を見せる。あの別れのシーンは今でも忘れられず、俺は番組放送時の録画をずっと消せないままでいる。


 先に述べた作中のフィリップの精神的成長は、菅田将暉氏の演技力の上達とリンクしているように感じられる。キャラクターが役者を成長させると同時に、役者がキャラクターを成長させた…。その相互作用が結実したのではないか、と俺は思っている。非実在感たっぷりなアクの強いキャラクターは、菅田将暉氏の演技力によって実在感を帯びるリアルな存在となったのだ。
 …いや、これは俺の単なる思い込みで、菅田将暉氏は撮影開始時から演技達者な人で、あえて“感情が欠落した演技”を行っていたのかもしれない。だとすれば、それはそれで素晴らしい人だ。



 今やベテラン演技派俳優として大活躍し、映画やドラマで堂々とした姿を見せてくれる菅田将暉氏。彼を単なるイケメン若手俳優だと感じる人は、もはやごく少数だろう。今度の新作では沢田研二氏と二人一役(青年時代)を演じるというから驚きだ。
 そんな彼のスタート地点には名作ドラマ「仮面ライダーW」、そして“二人で一人の名探偵”フィリップの存在があったことを、俺はずっと忘れない。

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