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風の噂。


風の噂って何だろうな。
聞き耳を立てるということなんだろうか。

まぁとにかく聞くところによると、近所に小説家なる珍しい職業の方がいると聞いたのだ。

一体なんて名前だったかもあまり覚えていないが、私は確かに会った。

その近所の家に挨拶回りをした時のことだ。

ピンポンを押せど鳴らせど人は出てこない。
というかピンポンは壊れているのか音はしない。

でもドアが網戸になっているし、さすがに人はいるのではないだろうか。

テレビの音もしているから、やはり人はいるんだろう。

すみません、と声をかけてみたが、なしのつぶて。

私は挨拶回りというミッションを遂行する為に、というか早くこのイベントを終わらせたくて声をかけ続けた。

すると人がゴソゴソ動いているような音が聞こえてきた。

お、やっと重い腰を上げたみたいだぞ。

「はい?」

第一声には訝しんでいる気持ちが如実に現れていた。

見た目には無頓着そうな中年以上の男性が出てきた。

最近越してきたもので挨拶をしにきた、
挨拶の品を受け取って欲しい、と説明する。

「私はここには住んでいないので、あまりこの辺のことは分からない。」

この家は別荘的な感じなのだろうか。

あまり人と関わりを持ちたくなさそうな空気を感じ取り、早々に挨拶を切り上げる。

しかし申し訳ないことをしたかもしれない。

きっとその方は周りの目を気にすることなく心の安寧を持つことができる場所と時間だったのかもしれない。

それを私がほんの少し邪魔をしてしまったようなバツの悪さがあった。

喧騒からエスケープしてのんびりと過ごせる家なのかもしれない。

人と必要以上に関わりを持たない姿はまさに芸術家のようだ。

小説家もまた然り。
何かを生み出すものというのは得てして普通の人とはどこか違うものなのかもしれない。


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