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人生の旅に必要なものは?① #18

このエッセイは、2017年、約4か月にわたり韓国の有機農家さん3軒で農業体験取材を行い、現地から発信していたものです。2018年以降に書いた関連エッセイも含めて、これから少しずつnoteに転載していきます(一部加筆、修正あり)。

2018/02/20

 数日前、懐かしい人からメッセージが届いた。「minaさん、お元気ですか?私たちは韓国に戻ってきました」。昨年の農業体験取材で2度もお世話になった、韓国・全羅北道長水チャンス郡の農園「백화골 푸른밥상ー100flowers farm」の조계환(ジョ・ケファン)さんだった。昨年11月中旬からこの2月初旬まで、ソウル、フィリピン、マレーシア、タイ、日本の対馬を夫婦で旅し、ついに韓国へ帰ってきたのだという。

 先月中旬には、ジョ・ケファンさんの農園で3週間共に暮らした2人からも連絡があった。スロバキア人女性・ラドゥカと、フランス人男性・フランソワ。彼らは結婚して2年目という新婚カップルだった。昨年7月、2人は当時暮らしていたイギリスを経ち、モンゴルやキルギスタンなどを経て10月に韓国入り。全羅北道の農園で過ごした後は釜山へ。その後、フィリピン、タイなど東南アジアの農村を訪れ、1月には東京・長野・金沢を1週間旅する予定だと聞いていた。

 「mina!今日日本に着いたよ。1つ質問があるんだけど“hello”は日本語で何と言うの? 私たちは、“ありがとう、どこですか、好きだ、タマネギ、さよなら”しか知らなくて」とラドゥカ。2人が知っている日本語のほとんどは、私が農園で教えたものだった。「東京にいる人たちはみんなきれいで、とてもスタイリッシュ!農業用ブーツを履いて来る場所じゃないね(笑)」。農作業をするためにモンゴルで買ったと言っていたあの黒いブーツと、最小限の荷物を背負い、代官山をキョロキョロしながら歩く彼らの姿が目に浮かんだ。

 すべての旅を終えた後は、フランスで小さな農園とゲストハウスを始めたいと夢を語っていた2人。「だから今回の旅は、農園の生活を体験することと、東洋の文化に触れることが大きな目的なの」。ラドゥカとフランソワがいつか本当に農園とゲストハウスを始めたら、フランスまで訪ねてみたい。それが私の、新たな夢の1つになった。

【追記】
その後、彼らはフランスの田舎で農園を始めようとしていたものの、難題が浮上し、イギリスへ。子どもが誕生し、お父さんとお母さんになったそうだ。

▲左からフランソワとラドゥカ。2017年11月4日(土)、収穫したばかりの白菜50個を2つに割って水洗いした後、塩漬けし、2日間かけて1年分のキムチを作った

 ラドゥカとフランソワは、共に20代後半。30代半ばに達した私より年下だったわけだが、精神年齢は随分と高い気がした。彼らと別れて数か月経った今でも、2人の笑顔や語りかけてくれた言葉、手料理のおいしさや掃除の手際良さ、感謝の表現の豊かさ、知性あふれるユーモア、心遣いなど、多くのことを思い出さずにはいられない。

 スロバキア語が母国語のラドゥカと、フランス語が母国語のフランソワの共通語は「英語」だった。夫婦のコミュニケーションには何の支障もないが、互いの家族と会話ができるようになりたいと、2人は旅をしながら相手の国の言葉を学び合っていた。それのみならず、フランソワは農園に来た初日、ジョ・ケファンさんから2時間だけ韓国語を教わり、ハングルが読めるようになっていた。野菜の発送作業をしていた時も、2人はタマネギやネギを指さし、「これは日本語で何というの?」と積極的に尋ねてくれた。

「言葉がわからなくても“話したい”と接する勇気。それが大切と、ラドゥカ、フランソワが教えてくれた」。

 彼らと出会ってから3日目の日記に、私はこんな言葉をつづっていた。4日目には「昼、英語を学ぼうと決意」と書いてある。その日から5日後、私は夕食前の1時間だけ2人の部屋にお邪魔し、ラドゥカに何度か英語を教えてもらうことになった。彼女はたくさんの小さな紙に、絵や英文を1つずつ書いて、手製のカードゲームを用意してくれていた。紛らわしい文法の説明も、絵で表現したり、豊富な例文を挙げたりしてわかりやすく教えてくれた。

 残念ながら、習った表現の全てを自由に使いこなせるまでには至っていないのだが、私は今後「I can't speak English.(私は英語が話せません)」というフレーズを封印しようと心に決めている。母国語ではない英語を120%の力で教えようとしてくれたラドゥカ先生の気持ちに、この先も何とか応え続けていきたいと思うからだ。

 農作業の合間の休憩中、実がトロトロに熟した甘い柿を食べながら、彼女からこんなことも教わった。柿(かき)は、スロバキアでもフランスでもKAKI(かき)と言うらしい!

▲韓国語で柿は「감(カム)」だが、完熟した渋柿は「홍시(ホンシ)」と呼ばれ、10~11月頃になると市場に多く出回る。冷凍して食べてもおいしいそうだ


▲エッセイ『韓国で農業体験 〜有機農家さんと暮らして〜』 順次公開中

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