俺は人を助けない

カズオは人を助けない。
昔は助けた。
でもそれは本人の為にならないと、大人になって気が付いてからは助けなくなった。
助けてくれと言われてもすぐには助けない。
まずは考える。
助ける必要があるのかを考える。
そして自力で何とか出来そうならば助けないが、助言ぐらいはすることもある。
別にカズオは冷酷無比なわけではないのだ。
相手の為にならない助けはすべきでないという考えが根底にあるから、考えるだけの話だ。
カズオが人を助けないのは、人は痛みによってしか真の学習を得られないと考えているからだった。
本人が痛みを知る前にカズオが手を貸すことは、相手のせっかくの学習機会を奪うことになる。
せっかく痛い思いをし、身にしみる体験をするまさにその時に、そのチャンスを奪うことは優しさではない。
それは偽善だ、あんたの自己満足だ。
カズオはそう思っていたのだった。
人は究極に堕ちて初めて真にもがく。
しかし人は優しい。
そのもがく前に助けの手を差し伸べる。
まだ海に放り出されたばかりの時にすかさず手を差し伸べる。
助けられた方は有り難くはあるが、真の命拾いを経験したとはいえない。
だから海に落ちた死の恐怖を胸に刻めない。
本当の優しさとは、死の間際に手を差し伸べること。
死の直前に接した時、人はそこで初めて生きることを知る。
カズオはそれこそが人を助けることの意義だと思っていた。
人はカズオのことを人でなしだと言う。
かつて親しい友人にこのことを話したが、人間性を疑われてしまった。
カズオの思考は誰からも全く理解されなかった。
でもカズオの中ではただ一つ、誤解を解きたいことがあった。
「人は俺のことを人間ではないと言うが、しかし俺は人を傷つけてはいない。仮に助けないことで傷つく人がいたとしても、でもそれはあまりに身勝手だ。それがもし自分の過ちの結果ならば、逆恨みもいいところだ。」
カズオは自らの過ちで堕ちた人間に対しては手厳しかったが、不運な運命への助けはいくらでもした。
もちろん見返りを求めず、自分の気が済むまで助けた。
でもカズオの周りの人間は誰もそれを知らない。
カズオという人間は、当然、どんな人間も助けないものだと誤解されていたのだ。
それはカズオの周りの人間が全て自らの過ちで堕ちた人間ばかりだったから。
カズオはそういう人間は助けなかったから。
「自らの過ちで痛い目を見たのならば、それを胸に刻み付け、前に進め。」
それはカズオの優しさだったのだ。
でも人は誰もその優しさに気付かない。
人がその優しさに気付く時、それはきっと、もうカズオがこの世にいない時だ。
カズオは死して真の優しさを残すのだ。
その時、もう誰もカズオの優しさを一身に受ける事は出来ない。

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ごめんなさいね〜サポートなんかしていただいちゃって〜。恐縮だわぁ〜。