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坂の途中




自転車をこぐ私の前を、

小学生の男の子が歩いていた。

小さな体で、大きなランドセルを背負って。

昔よりもランドセルが大きいと感じるのは、

気のせいではないと思う。




私は荷物が多い。自他共に認める。

「荷物多いですね」

わざわざ面と向かって、

そう言われることも多々ある。

「それ、今言わないといけないやつかな?」

胸の内でメンチ切ってみるが、

言わずにいられないほど多いのだろう。




肩にかけるメインのトートバッグ。

財布に手帳に筆入れ、ハンカチちり紙、

ウェットティッシュにハンドクリーム。

鍵やリップや目薬の入った小さなポーチ、

万が一、事故に遭遇したときを想定して、

笛と小さな小さな懐中電灯も納めている。

手持ちのサブバッグのほうには、

いつでも書いたり読んだりできるように、

Bluetoothのキーボード、本を2~3冊、

釧路地図、バス時刻表、除菌セット、

なぜかイオンのフロアガイド、飲み物、

非常食という名の飴やチョコレートなど。

ん。たった今から旅に出られそうだ。




最近ハタチの女の子ふたりに、

バッグの中身を伺う機会があった。

驚愕。持ち物が4つか5つしかない。 

スマホ、財布、イヤホンが共通していて、

ふたりともハンカチちり紙は持っておらず、

驚いてほかのものは忘れてしまった。

鼻血が出たらどうするのだろう?

よく鼻血を出す私は勝手に心配になる。

ふたりの持っていた小さなバッグ。

私の財布も入らないサイズだった。

なんて身軽。うらやましい。



話がそれてしまった。

そんな具合に私はいつも荷物が多い。



私の前を歩く男の子。

身長と雰囲気(?)から察するに、

おそらく1年生と思われる。

首から下がランドセル2つ分のサイズで、

野球帽をかぶり、短パンをはいている。

自分の体の半分もあるランドセルを背負い、

右手に習字セットらしきものと、

左手にも大きな紙袋をさげている。

中身はわからない。



大変だなぁ。

まだあんなに幼くて体も小さいのに、

オトナの私よりも荷物が多いなんて。

少年は体を左右に揺らしながら、

なにごとかボソボソつぶやきながら、

細い道の真ん中を千鳥足で進んでいる。

ひとりの帰り道なのに、

ずいぶんと楽しそうだ。

後方2mまで自転車が迫っていることに、 

まるで気づかないくらいに。



少年には少年の、

大切な世界があるのだと思った。

自分自身がかつてそうだったように、

彼らは誰に頼らなくても、

ちゃんとひとりで、機嫌よく、

その時その場を自分好みに楽しむ。

『荷物が多くて困る』

そんな些末なことは気にも留めていない。

『荷物を持っている』

という意識すらないのかもしれない。




釧路という街は坂が多い。

少なくとも私の実家からは、

必ず坂を上ったり下ったりしなければ

目的地へたどり着くことができない。



行くときは下りが多く、

「きーもーちーーーっ(*´∇`*)♪」

と、爽快な風を感じながら小さく叫ぶ。

「ありがとーっ」とか、

「安全運転でーっ」とか、

頼まれてもいないのに気分がいいので

すれ違う車に感謝を伝え、注意を促す。

そうして自分で言っておいて、

自分が事故るんじゃないかと足がすくむ。



行きは下りなので、 

帰りは上らなければならない。

しんどいのでうたを口ずさむ。

大好きなスガシカオさんの。

自転車を押し、うたいながら歩くので、

よけいゼーゼーするのだけど。








うしろを見ないで  のぼること

あせらないで  のぼること

休まないでのぼること




君ならできるよ




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