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#小説 記事まとめ

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note内に投稿された小説をまとめていきます。
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#私の作品紹介

【短編小説】終便配達員

 バイト先のコンビニで一緒に働いている五十歳のおじさんは、半年前に突如深夜シフトに現れた僕と働くことを喜んでいるようだった。  バイトを始めて一ヶ月が過ぎたころ、好きな作家が同じだったから、二人で記念にホットスナックを食べた。  二ヶ月が過ぎたころ、僕が通っている大学を教えたら「立派だ」と言ってセブンスターを買ってくれた。  三ヶ月が過ぎたころ、もう会えない息子がいることを教えてくれた。会えない理由は教えてくれなかったけれど、僕に優しい理由はなんとなく分かった。  四ヶ月が過

【短編小説】メロン三姉弟

 しゅわしゅわと小さな泡たちが足元から喉元までせり上がってくる。 「うぇっぷ、苦しいよぉ」  俺は苦しげにもがく。  生まれた瞬間から俺はこの泡たちに悩まされてきた。  悩みは尽きない。次から次へと下から喉にやって来る。苦しいことこの上ない。そんなことを思って俺はちらりと隣の姉に視線を送った。 「いいよなぁ、お姉ちゃんは。ちゃんとした帽子があってさ」  俺が言うと、姉がちょっと得意げに笑った。  冷たい帽子と冷たい欠片とが触れ合っているところはシャリシャリと凍りつき、

【短編小説】苺と俺

 コトリと俺の目の前にピンク色の飲み物が置かれた。  ある朝のことだった。  制服は出発直前に着るとして、俺はパジャマのままテーブル……ちゃぶ台と言われた丸いやつの前に正座をしていた。ついさっき朝ごはんを食べ終えたタイミングだった。  姉が俺に飲み物を手渡してきた。 「飲みなさい」 「え?」 「いいから、飲みなさい」  なんで命令するんだ。俺はムッとした。  姉はいつもこうだ。俺だってやればできるのに、いつもああしなさい、こうしなさいと母親の如く色々言ってくる。母親が二

【短編小説】つるつる

 フィギュアスケート選手が一面純白の氷上を軽やかに舞っていた。 「すごい……!」  幼い私は彼ら彼女らの美しさに見惚れた。  ライトアップが煌めく、光輝く衣装、爪の先までしなやかに形作られた長い手指、曲に合わせて変化する妖艶な表情……。  くるくる、くるくると踊り舞う。  氷の上の妖精みたく……。 *  *  *  私の住む北海道では、冬の体育授業で本州とは違うことをするらしい。雪が多い地域ではスキー、もっとしばれる(寒い)地域はスケート。広い道内ならどちらもしない地

短編小説 「昼下がりの君へ」

コトッ、昼食のタンパクサンドを食べ終え、庭でくつろいでいると、芝生に金属製の球体カプセルが降ってきた。見上げるといつもの赤い空が見え、飽きもせず太陽が輝いていた。僕が産まれる前は空は青かったらしい、とはいえ、金属が落ちてくるのは珍しいことだった。 こういう時は、ダンの出番だ。ダンは僕の友達、そして、僕の家族。ダンは家の二階全フロアを自分の部屋として使っていた。僕の部屋は一階のこの庭に出入りしやすいダイニングだった。狭くはない、絵を描ける32インチのテーブルが置けているから。

【短編】『春の訪れ』

春の訪れ  森の奥深くの洞穴に眠るヒグマはツバメの鳴き声を聴くなり寝返りを打つ。誰もいないはずの湖のほとりにつがいのシマリスが現れ、風で飛ばされた木の実を求めて草をかき分ける。それを遠くの水面からじっと見つめるカバは水中へと潜って再び水面に顔を出すと、鼻から水を勢いよく吹き出す。シマリスは突然のことに身を震わせて森の方へと去っていく。再びツバメが鳴くとヒグマが寝返りを打つ。どこからか怪物が唸り声をあげながら近づいてくる音がする。白いボートだ。船上には二人の人間が立っている。

短編小説 「未発掘の本」

ある日、僕はいつものように図書館に足を運んだ。図書館は僕にとって、静かで落ち着ける場所だ。ここでは、誰もが読書に没頭している。その静けさが、僕の日常に平和をもたらしてくれる。 目的は少し変わっている、もちろんそれは本を借りることである。普段は人気のある新刊や話題の作品を手に取ることが多いが、今日は違う。誰も借りたことのない本、つまり「未発掘の本」を読んでみたいと思った。それが最近の僕の小さな趣味になっている。友達には時間の無駄だと言われたがそれでも構わない、それは人気の本も

【短編小説】雨水と共に流れるは

雨は、嫌いだ。 しとしと、とんとん、絶え間なく続く音も素敵だとか思ったことないし、傘差してても濡れるし。 あとは梅雨でも寒い時はめっちゃ寒いし。 昨日買ったばかりの白いスニーカーが歩く度に汚れていくのをみて、これまた俺はイライラした。 スーパーへ買い物に行く前は曇ってたのに、店出たらこれだ。念の為傘持ってたのがせめてもの救いだろうけれど。 布製の買い物バッグはそれなりに濡れるんだろうな、と思うとため息が出た。 所沢裕太、大学三年生。一人暮らし。 単位はもう入学してがっつ

連載小説「オボステルラ」【幕章】番外編2「ゴナン、髪を切る」(1)

<<番外編1(4)  || 話一覧 ||  番外編2(2)>> 第一章 1話から読む 第三章の登場人物 番外編2 「ゴナン、髪を切る」(1)  「ゴナン、髪が伸びたね。前髪が目にかかってきてるよ」 二人での野営から帰ってきた翌日、ツマルタにある拠点で、リカルドはゴナンにそう声を掛けた。いつも前髪を短く切り込んでいるゴナン。しかし、鉱山に閉じ込められたり療養があったりで、1ヵ月以上髪を切れずにいた。 「あ、そういえばそうだね。これで切るから、大丈夫」 そう言って、

ほどよく傲慢なあなたへ|小説|エイプリルフール

新着メッセージ 1件 from:小錦「死ぬほど困ってます😭😭😭」 またかよ。 クソ上司のパワハラに耐えながら、なんとか終業時間を迎えて駆け込んだシャトルバスの中、ため息がこぼれる。 冷え切ったスマートフォンの新着メッセージを目にした瞬間、疲労がどっと押し寄せたように感じた。 しかめっ面を隠そうと、思わずマフラーに顔をうずめてなんとか取り繕う。だけど抑えきれず、隠しきれない目元に苦虫を噛み潰したようなシワが寄った。 まだ救いだったのは、このメッセージが私個人ではなく、グルー

短編小説【田々井村から】

《あらすじ》 山村の田々井村から都会に出てきた私は、あるとき地図を拾う。都会は美しく、ふるさとは違う。そう思いながらも、自然豊かな情景が書かれた地図に興味をひかれる。地図がきっかけで、田舎の美景を目にした私は、田々井村にもそれがあったと気づきはじめる。        『田々井村から』  大学の門を出ると、秋の虫が鳴いていた。田舎では毎日鳴いていたから、うるさかった。都会だと珍しいからか、新鮮にさえ思えた。ついこの間まで明るかったのに、いつのまに日の入りが早くなったのか、

【短編】『読書するぼく』

読書するぼく  美容院で髪を切り終わった後、たまたま次の予定まで微妙な時間が空いてしまったため、僕は喫茶店で本を読みながら時間を潰そうと思った。お店に入ると、そこら中に人がごった返しており、席が空くまで待機する必要があった。いくら待っても皆席を離れようとはせず、まるでここが喫茶店ではなく、会社のオフィスにいるかのようにそれぞれが自分の決まった席を持っているようだった。僕はなぜここまで長時間席を独り占めしては新たに注文をするわけでもなく、ただ自分の時間に没頭している者たちを店

【掌編小説】勘違い

 密かに好意を寄せている人から、バレンタインデーにチョコレートをもらったら、大抵の人は大喜びするだろう。  僕もその点に関して半分は同意する。  あと半分は……疑いを持つ。どの程度の気持ちなのか、と。  と言うのも、僕がもらったのは明らかに義理チョコっぽいものだったのだ。  谷口弥生さんは、僕が勤める会社の2年後輩で、隣りの部署に所属している。  笑顔がかわいらしく誰にでも親切で、多くの同僚から慕われている。  “堅物眼鏡”と揶揄される僕にも、丁寧な物腰ながら親しく話しかけ

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【創作】歌う大聖堂 第1話

(※前シリーズはこちらから)   私がカストルプ氏と一緒に、旅をして回るようになったのは、『カサノヴァの夜』の絵画を探して一か月後に呼び戻されてからでした。私はそれを心の底で望んでいたに違いありません。彼からチケットが贈られて、飛行機でミュンヘンに渡る際も、何の疑いもなかったわけですから。   私が居間で待って居ると、カストルプ氏と、一人のメイドがやってきました。そのメイドは、あの『カサノヴァの夜』があった小屋の村にいたマルガレーテ=インゼルでした。彼女は、あの後、カストル