【短編小説】雨水と共に流れるは6
今、この街を荒らす台風の気圧よりも俺の機嫌の方が低いと思う。
目の前の男は明らかに動揺していた。とりあえず拭きなよ、と渡されたタオルが俺の気持ちを落ち着けようとしているように甘い香りを放っていた。
「さっきのメッセ、なんですかこれ」
自分のスマホをずいっとせいた兄さんに押し付ける。今日の日付の下には『羨ましい』の四文字。
女友達から「所沢は察しが悪いよねー」と言われる俺でもこれくらいは分かる。
でも、きっと、俺が動画編集の手伝いを始めることになったあの雨の日。せいた兄さん