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#エッセイ 記事まとめ

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noteに投稿されたエッセイをまとめていきます。
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#日常

ガソリンを入れる、コロッケを揚げる

夏には少し早いけれど 夏は夜、だと思う。 高校生で、初めて枕草子を読んだときは感動した。 春はあけぼの、夏は夜、秋は夕暮れ、冬はつとめて。 ああ、まったくその通りだ。 春になったら使い倒そうと思っていたバルコニーは、早々に午後の日差しに焼かれてしまった。 極端に、暑いか寒かで、なかなか快適には使えないなあ、と思っていたけれど この季節の夜。 夕暮れの、少しあと。 太陽の残り香と、デスクライトで照らされたバルコニーの幸福たるや。 仕事が終わって、体力が残っているそのときに

あの値段が気になるから、もう1杯だけ。

私のよく行くバーにはプロジェクターが置いてある。 ワールドカップなどの試合があるとそこに写してみんなで観戦したりするのだ。 スポーツバーというわけではなく、使っていない時もあれば「フジロック流してます!」だったり、BGMは他にかかっているけどアニメや映画などが無音で流れていることもある。 要するにみんなでお酒を飲みながら楽しめるものであればなんでもよいのだ。 先日はWBCを流していた。 そして試合が終わった後、普段は消すことが多いのだがその日はなぜか消音にしてテレビの映像だ

スリーシャンはしたくない

たまに浴室から叫び声が聞こえることがある。 怒りと嘆きが入り交じった息子の声だ。 「なんでこうなるんだよ!」 一体何に対して文句を言っているのか、毎回聞くのを忘れ、長い月日が経っていた。   入浴時、私はとある事が気になっていた。 洗髪にツーシャンを心がけている私は、丁寧に頭皮マッサージを行い、すすぎをし、さあコンディショナーで仕上げようと髪に塗布すると、また頭が泡立ち始めるじゃないか。 我が家の暗黙のルールとして、左にシャンプー、右にコンディショナーが定位置になって

人生で初めて買った化粧水は、半分しか使えなかったけれど

YouTubeのおすすめで流れてきたショート動画『【保存版】2022年ベストコスメランキング』を観ていて、ぼくは10年前のある日のことを思い出していた。 人生ではじめて「化粧水」を買った日のこと。 その化粧水は半分しか使えなかった。 でも不思議と満ち足りた気持ちになった。 そんな昔の話を、今日は書きます。 *** 京都の繁華街、四条河原町の一角にあるドラッグストア。ぼくはこの日、人生ではじめての「化粧水」を手に入れるべく、コスメコーナーに立っていた。 当時19歳の

厳格な父と「チキンフィレサンド」

1年に1回はケンタッキーの「チキンフィレサンド」を食べます。べつにすごく好きというわけでもありません。ただ疲れているときや、元気がないときに、ふと食べたくなるのです。 そして食べたその一口で、一気にとある過去の一点に引き戻されます。 それは小6の1月、中学受験で埼玉のある学校の入試を終えたあと、迎えに来た父と一緒に車中で「チキンフィレサンド」をほおばる景色です。 このとき初めてケンタッキーの「チキンフィレサンド」を食べました。 ケンタッキー独特の油の匂い、マヨネーズの

切り離す過去

 髪の毛は大切だ。  ありすぎても鬱陶しいし、少なすぎても悲しくなる。  髪の量が多いか少ないか。長いか短いか。  その差で周りから見られる印象は大分変わる。実年齢と見た目年齢もそれで左右されるものだ。  自分の一部のそれにハサミを入れて切り離しても痛みは感じないが、本当に痛くないのだろうか。  感じようとすれば、心はざわつくものなのかもしれない。    私はその髪について、美容院へと行った翌日に「髪切った?」と聞かれるのがものすごく苦手だ。  髪を切ったという質問の後にプラ

パンケーキと、愛。

わたしはこの大型連休中に絶対にパンケーキを焼くと心に決めていた。「絶対にパンケーキを焼くぞ」という意思を固めてから、連休に入った。4月30日の出勤中、わたしの頭の中はほとんどパンケーキで埋め尽くされていたといっても過言ではなかった。彼の家にメイプルシロップ(10年前にお土産でもらったもの)はあるとして、それとは別ではちみつも買った方がいいのだろうか。彼は嫌いだけれどわたしの好物であるホイップクリームは買うべきか、付け合わせのフルーツは何にしようか、など、わたしの中での「パンケ

玄鳥至

「あーーー、腰が…」 去っていくバスの駆動音を聞きながらキャリーケースから手を離し、ぐっと両手を空に向かって伸ばす。 鈍い音が節々でなっているのを無視して脱力すれば、先ほどよりかは幾分軽くなった体。 首を回すついでに辺りを窺うが、時が止まっているのではないかと思う程に記憶の中の風景と相違ない。 錆ついた看板の精米機、色あせたポスターの張られた美容室、崩れないのが不思議なほど朽ちている野菜の無人販売所。 砂利道にキャリーの足をとられながら何とか歩き続けていると、ようやく実

理念的パスタのゆくえ——食べるを考える(1)

料理とは、つくるものであって食べに行くものではなかった——ほとんどの場合。 大学生になり、はじめて一人暮らしをはじめたぼくは、母の苦労も知らずとにかく料理できることが嬉しくて、ほぼ全財産をキッチン用品に投入し、生きるためでもあるけれど、毎日なにかをつくっていた。 なかでも昼食はほぼ毎日パスタだった。 ともかくたまたまコンビニや本屋で目にとまったレシピ本を買っては、見よう見まねというか、読みよう読みまねというか、下手なりにひたすらにつくったのだった。 読んではつくり、食

地球は自転し回ってる、いつまでも

 半年ぶりくらいに、いつもお願いしているカメラ屋さんを訪れて以前預けていたフィルムの現像を取りに行った。ついでと思ってフィルムを8本預けたら、なんと諭吉さんが一枚吹いて消えた。突然のことすぎて、声を出す暇もなかった。久しぶりに現像に出しに行って忘れていたが、こんなに現像するのにお金がかかったんだっけ?と若干震える手でクレジットカードを差し出す。 *  緊急事態宣言だから、と自分に言い聞かせてこのところフィルム現像を取りに行くことをサボっていた。昔は少なくとも1ヶ月に1回く

間違えた道の先で、素敵な花に出逢えるかもしれない

分かってくれる人がいてほしいだなんて、 おこがましいのかな。 例えば、あの映画のあのシーンがグッとくるとか 例えば、あの曲のこの歌詞に泣けるとか。 自分と同じ人間なんていないと分かっているのに、どこか通じ合える人を心から求めてしまう夜がある。 たぶん私は、心の深い部分を分かってくれる人を常に求めているんだろうなぁ。 そしてそんな人はなかなかいないから、分かってくれる人が現れると軽率に好きになってしまう。 そういうとこ、ある。 心の深い部分というのは、 その人の本質を表

見習いたい物事の捉え方

「生きてる限り、失敗するのは当たり前。」 常日頃からそう思っている私ですが。先日、盛大にやらかしてしまい落ち込む出来事がありました。 ことの発端は、とある平日の朝。いつものように洗濯物を洗濯機に放り込み、洗剤を入れてスイッチオン。洗濯を回してる間に諸々の家事をこなし。洗濯物を干そうと洗濯槽からピンク色のタオルを手に取ったところでピタリ、と動きが止まりました。 「…ピンク色?」 我が家にピンク色のタオルなんてあったっけ?いや、なかったはず。え?どういう事? 軽くパニッ

『明日、世界一周に行く』という人生

2020/9/24@八王子 『 人は幸福になるために生きているけど、幸福になるようにデザインされてない。』 って本で読んだ。 『 お金は鋳造された自由だ 』 とドストエフスキーは言った。 明日、世界一周に行くこの言葉が胸にあれば、生きていける。 人生の軸である。 歩くための背骨である。 " 明日、世界一周に行ける " 自分になるために、今日の自分がある。 自分になるために、今日の自分がある。 湯浅教の誕生である。 絶対的な教えがあれば、宗教は作れる。 教典は、『 幸

笑うって、すごい

ここ数日、ちょっと靄がかかったような日々だった。 もう、全部ヘルペスのせい。 そして、あいつの登壇を許してしまった自分のせい。 自分のせい、って思ってるから、あいつがきちゃったんじゃないか。 もう、堂々巡り。 だから、ヘルペスって嫌い。 もう、全部ヘルペスのせい。 近年稀に見る大きさまで成長してしまってはいるけれど、日に日に収束に向かっている。 水ぶくれのような状態から、いまはカサブタになって、あとは剥がれてゆくのを待つだけだ(かゆいけど)。 それでも、下唇に何かをぶら