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パンケーキと、愛。

わたしはこの大型連休中に絶対にパンケーキを焼くと心に決めていた。「絶対にパンケーキを焼くぞ」という意思を固めてから、連休に入った。4月30日の出勤中、わたしの頭の中はほとんどパンケーキで埋め尽くされていたといっても過言ではなかった。彼の家にメイプルシロップ(10年前にお土産でもらったもの)はあるとして、それとは別ではちみつも買った方がいいのだろうか。彼は嫌いだけれどわたしの好物であるホイップクリームは買うべきか、付け合わせのフルーツは何にしようか、など、わたしの中での「パンケーキ構想」がどんどん膨れていった。パンケーキだけに。



4月30日。仕事を終えて、最寄りのスーパーで市販のホットケーキミックスと卵と豆乳とお豆腐とヨーグルトとりんごとバナナを買った。お豆腐とヨーグルトを入れるとふわふわになるという記事を読んだので、とりあえず買ってみた。 (たしか卵と牛乳(水/豆乳)の代わりに、お豆腐とヨーグルトを入れるという文脈だった気がするが、怖いので卵も豆乳も入れて作ることにした。)

5月1日。彼との話し合いで、朝ご飯を食べた後に散歩に繰り出すことになったので、パンケーキ作りは諦めた。パンケーキ作りにはどうしても時間がかかるし、後の用事のことを考えながら作るとなるとどうしても気が散ってしまう。できれば全ての意識を集中させ、気合いを入れて作りたかったので、散歩の前には作れない。とりあえず今日は諦めて、明日リベンジすることにした。


5月2日。朝目覚めたら炊飯器が鳴っている。彼に訊くと、『玄米を炊いた』と言われた。炊きたての玄米は最高の朝ご飯だ。この日もパンケーキ作りは諦めた。わたしが、「今日こそはパンケーキを作ろうと思っていたのに」と落ち込んでいると『ごめんね。でも先に言ってもらわないと』と言われた。確かに、この日にパンケーキを作ると明言はしていなかったのかもしれない。ただ、スキップをしながらパンケーキの材料と付け合わせのフルーツを買って帰ったわたしの姿を見て、パンケーキ作りのタイミングを伺っていることくらいは察してくれ、と思ったが、まあ仕方がない。所詮は他人だ。気を取り直して、「明日はパンケーキを作ります」と宣言した。

この日、たまたま出先で紀ノ国屋のパンケーキミックスと出会った。既にスーパーで売られている名もない(失礼、名はある)パンケーキミックスを買っていたが、味を比べてみたかったので、購入した。パンケーキミックスを鞄に閉まったあとに飲食持ち込み禁止のイベントに行ったが、止められることはなかった。スタッフの方に「これはまだ食べ物ではないので大丈夫です」と、わかるようでわからないことを言われた。


5月3日。ついにパンケーキを作ることに成功した。作れないまま大型連休が終わってしまうのではないかと焦ったが、無事に作り上げることができて安心した。市販のパンケーキミックスと紀ノ国屋のそれを1袋ずつ開けて、それぞれに卵と豆乳とお豆腐とヨーグルトを入れて生地を作る。熱したフライパンの上でバターを溶かし、濡れた布巾の上にフライパンを5秒置いて、再び弱火にかける。少し高めの位置から生地を落とし、表面にぷつぷつと穴が開き始めるまで弱火で熱する。フライ返しを上手く使ってひょいっとひっくり返し、弱火で3分加熱して、お皿に盛り付ける。この行程を4回繰り返す。カットしたバナナとりんごを添えて、バターをちょびっと乗せて完成。


1枚目は絶妙に失敗していたが、4枚目はお店に出せるほどには上手に焼けた。わたしが試行錯誤している姿を寝室から眺めていた彼は、運ばれてきたパンケーキをみるなり『完璧ですね。さすがです。』と言い、一口目を口に入れて『焼き加減もベストです。』と褒めてくれた。彼がわたしのことを大袈裟に褒めるたびに、わたしは、「甘やかされているなぁ」と照れ笑いをしてしまうのだが、毎回『「甘やかされている」のではなく「愛されている」んです』と訂正される。甘やかしているのではなく愛しているのです、と言わないところが彼らしい。


わたしはメイプルシロップを、彼ははちみつをたっぷりとかけて、パンケーキを腹一杯食べた。文字通り"腹一杯"になった後、「もうしばらくパンケーキは食べたくないね」と笑い合った。

ちなみに、スーパーで売っている市販のものより紀ノ国屋のパンケーキの粉のほうがもちもちしていて美味しかった。予想通りでつまらない。でも「比べてみないとわからない」程度の差だった。






じっとパンケーキの断面を見つめる彼に『ここ、生焼きじゃないですか』と言われたので、「それはお豆腐だよ」と教えると目をまんまるくして『パンケーキにお豆腐を入れるのですか?さすがだ、君は何でも知っている。そして挑戦してみるところが素晴らしい。』と大袈裟に褒められた。



パンケーキを作っただけなのに、愛された。





それではまた。

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