冷凍の鮎を14匹いただいた。 私の家族は、私と息子と娘の3人だ。 3で割り算をすれば、二人が5匹で、一人が4匹の分け前となる。 困ったな……。 私たち家族は鮎が大好きすぎて、自らを犠牲にして 「私は4匹で構わないよ」 だなんて口が裂けても言えないメンバー揃いだ。 ならばここは、母親である私が1匹少ない分け前で我慢するしかないようだ。 私は鮎を上手に焼いた。 皆で食す。 かなり美味い!! ああ、父親が生きていた頃は、鮎釣り名人と言われるほどの、鮎をボコボコ釣る特技を
なんだ、この臭さは。 とある大きな木の下で思った。 かなりの日数を掃除されてない公衆トイレは、こんな異臭を漂わせるのだろうか……。 足元には割れた木の実が幾つも転がっている。 昔子供の頃、お寺にあったの木の下で見たものと同じだ。臭さに懐かしさを覚えたのはそのせいか。 銀杏の実。 友達が、おばあちゃんに銀杏の実を採ってきてと言われ、臭いから嫌だといいつつ採りに行った。私もそれに付き合った。 銀杏は臭いけど、茶碗蒸しの中に入っている銀杏は美味しくて臭くない。おばあち
窓ガラスにノーマルカメムシが2匹くっついている。 ノーマルカメムシとは、この地域に出没する焦げ茶色のポテッとした形状のものだ。 向こう側だからまだいいけど、換気をしたくても開ける勇気を阻まれた。 昨日も玄関のドアを開けたら、隙間に潜んでいたイケメンカメムシが我が家へと侵入しそうだったので、デコピンして外へと吹っ飛ばしておいた。 イケメンカメムシとは、今シーズン初めて見る、Googleレンズに通してもヒットしない種だ。 ミルクティーベージュといった上品な色で、形状はシ
金木犀の香りは分かる。 トイレの芳香剤に金木犀の香りがあるから。 けれど私、金木犀がどんな花なのか、見たことがなかった。 昨日、とある公園へと行った時、すごく大きな木が何本かあって、それだけで嬉しくなった。 その木へ近づくにつれ、金木犀の香りがしてきて……。 「まさかこれが金木犀……?」 金木犀って、こんな大きな木に咲くんだと知った。 普通にプランターとかに生える百合ぐらいの大きな花だと想像してたから、意外だった。 私は初めての出会いに嬉しくなって、金木犀の木の
食パンなどの袋を止めるプラスチック製のあれ、それにはちゃんと名前があったみたい。 バッグ・クロージャー。 カッコイイ名前だな。 ミドルネームとかあったらもっとカッコイイのに。 私、最近それが捨てられずにいる。 大分前に見たネットの情報に、『捨てるのはもったいない! 便利な活用法!』みたいなことが書かれてあって、それを見てからと言うもの、集めるクセができてしまった。 子供が昔、ガチャガチャのおもちゃを集めたり、アニメのカードを集めたりしてた。エナジードリンクのカラフルな
また食材の買出し中に知らないおじさんに馴れ馴れしく話しかけてしまった。 「じゃがいもがクソ高い! こんな高いの買えないわ! ポテサラたんまりと作りたかったのに!」の途中まで。 私の半径30センチメートル以内におじさんが居たのが原因だ。連れも黒いTシャツで、おじさんも同じ黒の服を着ていた。まんまと引っかけ問題の罠にかかったようなものだ。 私はよく人を間違える。 一番酷い時は知らないおばさんを母だと勘違いし、軽く見積もって10分は共に買い物の品定めをしたことがある。 「こ
食事の途中、二杯目のウイスキーの水割りを作ろうとしてキッチンの作業スペースを見ると、この世のものとは思えない黒い物体が目に入った。 まるで目だ。 私は招かれざる客に目を凝らした。 たった一滴の甘辛醤油ダレを囲んでアリが群がっている。 私はゾゾッとしながらも、一方では懐かしい気持ちにさせられた。なぜなら小学校の国語の授業で習った、とある物語を思い出したからだ。 その名はスイミー。 主人公のスイミーは小さな黒い魚だった。 怯えた小さな赤い魚たちと固まって泳ぐことで大きな
水曜の朝は、金曜の朝かと勘違いするほどの倦怠感がある。去年までは木曜がそんな感じだった。水曜に前倒しになるほどに私の体力は落ちているのだろうか。 月火金金金……。 近頃はそんな感覚で平日を過ごしている。 そこで私は水曜を休日に変えてみることにした。 月火日木金……と。 というわけで、今日は休みだ。 なぜだか休日となると水曜なのにシャキっと早起きが出来た。特に楽しみにする予定は無いのに不思議とわくわくしてしまう。 子供たちが学校へ行く頃には朝の家事全てが終わっていた。これ
優柔不断な空だと思った。 雨降りかと思えば日が差して来て、晴れたと思えばポツポツ雨が降り出す。 おかげで蒸し暑さが増し、さらにマスク着用必須の職場だから不快指数が上乗せされる。 この湿度の高さとマスク内の湿度の不快さと言ったら罰ゲーム並だ。さぞかし身体は真夏だと勘違いしていることだろう。 早くクールミントのヒヤッとした汗ふきシートで思い切り身体を拭いてこのTシャツを脱ぎ捨てたい。そして混じり気のないフローラルブーケの香りがするTシャツに着替えキンキンに冷やしたペットボトル
これは勝手な想像なんだけど、私たち人間からすると、米俵を背負って歩くぐらいかな? 彼らは呼吸をし続ける間、ずっと、ずっと、米俵を背負ったような負荷が当たり前で、それに気づかず平和に過ごしているのかもしれない。 ある日私がそんなふうに気になりだしたのは、鳥たちのこと。 彼らの身体に対して脚の細さは、人間からすると米俵を背負ったぐらいの負荷がかかってるんじゃないのかな? ……違ってたらごめんなさい。 だって、鳥って身体のわりに脚が細いもの。 あの細い脚二本で身体を支えるだ
約束事が苦手な私は、美容院の予約は当日予約を好む性分だ。しかしそんな我儘もいけないと少しはオトナになり、1週間前予約をしていた。 さあ、伸びてきた髪を程良く整えてもらおうとして行きつけの美容院へと出陣したのだが、その後の私の心の中では嵐が吹き荒れ、暴風警報は未だに現在進行形である。 私のオーダーの仕方がまずったのか……。 確かに髪を切られている時、私は一切口を開かずにいる。何かを問われれば応えるが、大抵施術中は瞑想時間として時を有効活用している。その日は双方一言も話をし
職場の利用者様と塗り絵をしたら、思いのほか楽しくて驚いた。それに、集中しすぎて頭の中が凪になる。塗り絵には私を心地良い時の中へと引っ張り込む威力があると気付いた。 それからというもの私は、手が空いた少しの時間でも利用者様と一緒に色鉛筆を手にするようになった。 「ここは何色でぬればいいんかね?」 花の塗り絵に取り組む利用者様に、 「好きな色でいいと思いますよ」 と応えた。それでも「わからない…」と困っている様子だったので、私は赤の色鉛筆を差し出した。 毎回彼女は丁寧
ゴールデンウィークは実家で過ごした。 静まり返った夜中、突然ガタガタと神棚が揺れ出した。 実家の仏間で息子と娘と川の字になって床につき、しばらくしてからの事だった。 夢なのか現実なのか、神棚は怒り狂ったように揺れている。 私はそれを夢うつつで聞きながら違和感を覚えた。 地震にしては、私の身体は少しも揺れてはいない。 しばらくガタガタしたかと思うと、私の頭近くにドス! と何かが落ちてきた。 私はひどく驚き、布団から身を起こした。 左横を見ると、スマホゲームをしていた息子が唖
娘が、「鼻をフン! とやったらこんなん出てきた!」 と言って見せてきた。 鼻から出たにしては大きすぎる物体だった。 軟骨のような細い塊がティシュの中にあり、私はひどく驚いた。 スッキリしたと言う娘の顔は清々しい。 しかし私は、こんな大きな塊が鼻から出てくる非現実っぷりに心の臓が高鳴った。 私はオエオエ言いながらそれを観察してみた。 訳の分からない物体は鼻クソだろうと決めつけてゴミ箱に捨て去るだけなら簡単だ。 しかし私の心が納得しなかった。 これは別パラレルから転送された
スーパーでアサリを買い、砂抜きをしていて困ってしまった。 塩分濃度は3パーセント。 バットにアサリを入れ、ひたひたの塩水を入れる。しばらくすると貝からは本体がにょきにょきと飛び出してきた。 カタツムリに似ている。 いくつかの個体が目を出すかのようににょきにょきと飛び出してきて、一番活きのいい個体がピュっと塩水を吐き出してきた。 同じアサリでも個体によっては貝の柄も大きさも色も違う。個性があるんだと思った。 冷凍物のあさりの貝は全て色も柄も区別できないほどに揃っていたの
最近カラスを近くで見る機会が多い。 毎朝職場の秘密基地のベンチに腰掛け、スマホを触りながら、就業10分前まで時間を潰す。 それから厨房の外壁とフェンスの間の細い道を歩いて職員玄関へと向かうのだ。 その時、大抵カラスが通り道に止まっている。 毎朝カラスは私の姿を確認すると、とても親切にフェンスへと退いて私に道を譲ってくれるのだ。 今日はそんなカラスが二羽もいて、私は嬉しいような怖いような、そんな気分で彼らの前をゆっくりと歩いた。今日こそはじっくりと彼らを見てやろうと決心し