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233.ああ、生きるって、こういうことなんだね…。

1.悲しみよ 悲しみよ 本当にありがとう!



今から44年前の話ですが、どうしても忘れられないことがあります。それは、coucouさんがまばたき詩人・水野源三『悲しみよ、ありがとう』」というテレビ番組を見たときのことです。
昨年末の病院生活の中でふと、鮮明に思い出したのでここに記することにしました。

当時の水野さんが、なぜテレビに取り上げられたかといえば、詩の素晴らしさはもちろんだが、その前に驚いたことは、動くこともできない、語ることもできない身の上ということ。

けれど、その人生は輝き、多くの人の心に生きる希望を与え、心の灯をともしていることでした。

Posted on 2015年8月12日 by ichiro in 聖書の話 // 1 Commentより

作家の三浦綾子さんは番組の中で次のように語りました。

「私たちは毎日、とにかく生きておりますけれど、ある時、人に〈あなたにとって生きるということはどういうことですか〉と聞かれますと、生きるとはこういうことなんです、と答えることができるでしょうか。でも、私たちがある時、本当に真実に生きる人の生活にふれた時に、ああ、生きるとはこういうことなんだと改めてはっきりと知らされるような気がいたします…」

このテレビ番組は、こんな街頭インタビューから始まりました。

「もしも、あなたが何かの病気で、一生、体中、ぜんぜん動かすことができなくなったらどうしますか?」

実際は、ほとんどの人が答えられませんね。
それは、生きるとか死ぬとかを考えていない人が多いからです。

水野さんは長野県生まれ、子どもの頃はとても元気でした。

しかし、小学4年生のとき赤痢にかかり、42度の高熱が続き、結果、脳性マヒで手足の自由とことばを失ってしまうのです。

彼は、この頃から、死ぬことだけを考えていたといいます。

そして、14歳のとき、水野少年はあることがきっかけで生きる喜びを見つけました。
それは、この町の教会の牧師さんとの出会いでした。

この牧師さんが置いていった聖書を、水野少年はむさぼるように読むことによって、わずかだが希望が生まれたのです。

しかし、読むといっても自分ではページをめくれない。
しかたないので目の前に本を立て、洗濯ばさみではさみ、母が合間に走ってきてはページをめくる方法で読み続けました。

そして、水野さんは聖書によって生かされていることを知る、そして生きていることに感謝をし始めたのです。


その後、水野さんが〈まばたきの詩人〉とよばれるようになったきっかけは、ちょっとしたことでした。

「悲しみよありがとう」著訳者など: 林久子:文 水野源三:詩 小林惠:写真 出版社: 日本キリスト教団出版局より



2.まばたき詩人


診療所の医師が水野さんを診察するとき、「はい」というときは目をつぶりなさい、ということがヒントになり、母親のうめじさんは、それを返事にだけでなく、心の思いを表現するときにも使うようにさせたのです。

「水野源三さん」と母堂うめじさん弘前福音キリスト教会通信より

たとえば、母が50音表のア段を横にすべらせる、「た」のところで水野さんは目をつぶる、次はタ行を下に行き「と」で目をつぶる。

「り」も同じようにして、ラ行から下におり「り」で目をつぶる、するとこれで「とり」ということばが形になります。

しかし、膨大な時間と忍耐を必要とする作業です。
このようにして、水野さんはまばたきで自分の意思を伝えるようになりました。

そして15歳のとき、母親が50音表で文字を拾い、「ニワスミノ カンギクニ ユキフリカカル」

『庭すみの寒菊に雪降りかかる』という句が誕生させました。

母親うめじさんは泣いてしまいました。
とても嬉しかった。
我が子に何かをつくり出す力を感じたからです。

その日からうめじさんと水野少年の心を表現する共同作業が始まりました。水野さんの心につぎつぎと詩や歌が泉のように湧き、母と子の対話が始まり、次々と作品を生んでいくのです。

3.今日一日も

 

〈今日一日も〉

 『新聞のにおいに朝を感じ

 冷たい水のうまさに夏を感じ

 風鈴の音の涼しさに夕ぐれを感じ

 かえるの声ははっきりして夜を感じ

 今日も一日終わりぬ

 一つの事一つの事に

 神さまの恵みと愛を感じて』

 

1968年、父が癌で亡くなり、1972年、今度はうめじさんが癌の宣告を受けました。

その年の冬、現代の奇蹟ともいわれた詩集が生まれた。

そして、1975年に出版され、それを喜ぶかのように一週間後、母うめじさんはその詩集を抱いて天に召されていきました。
この詩集の感動は人からひとに語り継がれ、1978年、NHKテレビで紹介され、さらに全国に反響が広がりました。

4.苦難は乗り越えるためにある


この番組で三浦綾子さんは、
「私は、苦難はうちひしがれるためにあるのではなく、乗り越えるためにある、という言葉が好きです。小指一本痛めても私たち顔をしかめたくなるものです。なのに水野さんは口もきけない、手も足も自由がきかない生活の中で、あのような喜びに満ちた顔をして、あのような感謝にあふれた作品ができる…」

このテレビ番組「悲しみよありがとう」は、水野さんと一人の少年の出会いを見せました。

それは、神奈川県に住んでいる小学校3年生の清水くん。
一見普通の男の子ですが、小さいときからゼンソクで苦しみ、最近、突然片目の視力を失ってしまいました。
原因不明だといいます。
さらにもう片目もいつ見えなくなるかわからないという状況でした。

朗読教室に通い始めた頃、水野さんのことを知るのです。
お母さんから水野さんのことを聞かされ、やがてお母さんに連れられて、長野県に住む水野さんを訪ねるのです。

もちろん、水野さんは、この少年に語りかけることはできません。

しかし、この少年の苦しみの意味を一番よく知っているかのように、やさしいまなざしでその少年を迎えました。

じっと見つめるだけの少年。
その少年に水野さんはまばたきで語りかけます。

「ホカノヒト ト クラベナイ ヨウニ シテ イキテ イッテ クダサイ」そっと、そう語りかけました…。

5.悲しみよ 悲しみよ 本当にありがとう

 

〈悲しみよ〉

 

『悲しみよ悲しみよ 本当にありがとう

 お前が来なかったら つよくなかったなら

 私は今どうなったか

 悲しみよ悲しみよ お前が私を

 この世にはない大きな喜びが

 かわらない平安がある。

主イエス様のみもとにつれて来てくれたのだ』

 

これは水野さんの30代の頃の作品、「悲しみよ」です。

生きるって、何なのでしょうね?

母親うめじさんは亡くなるまで精一杯に生きました。
わが子が心を表現することで生きる意味、生きる希望をもちました。

30代になると水野さんはさらに創作意欲を増し、新聞の俳句や詩の投稿欄に次々と発表し、やがて作品が紹介されるようになるのです。

さらに、もっと学びたいという意志で、婦人雑誌の文芸講座を申し込み、創作の基礎や技法を学び続けました。

30代に入ると、キリスト教の雑誌などに投稿するようになり、多くの人々に共感を与えていくようになります。

水野さんの作品のほとんどが、「ありがとう…」という感謝の言葉、自然の美しさ、まわりのごく普通の出来事も、すべて感謝と祝福しかありません。
それが彼の生きる目的となったからです。

その奇蹟の詩集が『わが恵み 汝に足れり』という本でした。

そして、47歳で、天に召されるまで彼は奇蹟の詩を書き残し続けたのです。

坂城町にある源三さんの歌碑

『ありがとう』


物が言えない私は

ありがとうのかわりにほほえむ

朝から何回もほほえむ

苦しいときも悲しいときも

心からほほえむ


今でこそ、電子化が進み、まばたきだけでパソコン文字が打てる時代になりましたが、これらの作品は、母うめじさんとの共同著作物、母と子の著作物なのです。

『 ほかの人と 比べない ように して 生きて いって ください 』

悲しみよありがとう。
人は誰もが恵まれている…。

人は誰もが幸福の光の中に導かれている。

きっと、多くの人々にこのことを伝えたかったのでしようね。

少なくとも、coucouさんには十分に伝わっています。

あれから44年経った今、再び思い出したのですから。

coucouです。みなさま、ごきげんよう!
44年前のテレビ放送でしたが、現在はビデオやYouTubeなどで見れます。改めて見直すと、水野さんの命がけの願いというものを感じます。

あえて、説明や感想などいりませんね!

お時間のある人は、coucouさんのお気に入りの水野さんの言葉を添えてみました。

では、またあした!

みんな、ありがとう!


どこからか
落葉をはく音が
聞こえてくる
落ち葉を焚く
煙りと臭いが
漂ってくる
こんな朝は
消しても
消しても消えない
亡くなった母の姿が
母の涙が
母の祈りが



神様の
大きな御手の中で
かたつむりはかたつむりらしく歩み
蛍草は
蛍草らしく咲き
雨蛙は雨蛙らしく鳴き
神様の
大きな御手の中で
私は
私らしく
生きる


梅雨にぬれた 野の花が
こんなに すばらしいとは
すばらしいとは 知りませんでした
こんなに 美しいとは 知りませんでしりませんでした
主よあなたに お逢いし たくて お逢いしたくて 早起きしてきました」

(「お逢いしたくて」1975 年作)


幾たびもありがとうと声だして

言いたしと思い今日も日暮れぬ  (47歳の最後の短歌)





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