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年間ベストムービー TOP10 2022

2022年文化活動総括第2弾(勝手に)映画編。
今年は映画館で映画を見ることがほとんどできなかったのが心残り。映画館、特に名画座・ミニシアターの閉館が相次いだ中、今年9月にオープンした菊川のStrangersでゴダール特集を見れたことは良かったと思う。Filmarksに記録している限りだと、今年新旧含め61本鑑賞した。割合的には新旧3:7くらいだろうか。今年見た映画のうち、特に印象に残っている10作をNoteにもレビューを記載する。

尚ネタバレを含むため、読まれる方は下記目次を参照の上、ご注意いただきたい。

10. リコリス・ピザ(2022)

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
キャスト:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン

1973年、ロサンゼルスのサンフェルナンド・バレーで俳優活動を行う男子高校生ゲイリーは、ある日、10歳年上の女性アラナと出会う。

ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)の最新作。話は一見よくあるボーイミーツガールストーリーだけど、舞台となっている1970年代のLAで実際にあった出来事や実在した人物などPTAらしい小ネタ満載の物語。
映像の質感と作品を彩る音楽がとにかく最高だった。ウォーターベッドを押したときのブクブクする音が心地よい。70sのファッションや音楽、そして最後の全力疾走シーンがエモい。爽やかな余韻に浸りながら、映画館を出た後ポール・マッカートニーとウィングスのLet Me Roll Itを聴いて帰った。

最初タイトルを見た時、「リコリスってあのハリボーの癖の強い黒い渦巻き菓子の味?そんなリコリスとピザなんてコンビネーションあり?」と思ったが、調べたところ、映画の舞台であるサンフェルナンド・ヴァレーにあったレコード店の名前とのこと。なるほど言われてみればあのお菓子はLPレコードに見えなくもないような。後から調べたところでは、リコリス・ピザという言葉自体がアナログレコードのスラングでもあるそう。

主演は未経験ながらも癖の強い名優たちに負けない演技で魅せたアラナ・ハイム(HAIM三姉妹の末っ子)とクーパーホフマン。2人のくるくる変わる表情が愛おしい。クーパーホフマンはPTAの盟友フィリップ・シーモア・ホフマンの息子。ガタイが良く貫禄があるため、15歳の役にはあまり見えなかったけれども笑、これからもPTA作品に出てくれることを願う。

9. わたしは最悪。(2022)

監督:ヨアヒム・トリアー
主演:レナーテ・レインスヴェ

30にして未だ生き方や職について悩んでいる主人公ユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)。彼女は漫画家として成功をすでに収めている年上の恋人アクセルと出会うが、地に足のついた人生の選択を迫られる。嫌気がさしたユリヤは、パーティーで出会った若くて魅力的なアイヴィンを選んでしまうのであった。フェミニズムや環境問題といった議論も包含しながら、理想主義と現実の狭間で揺れ動くユリヤがどのように他者との関係を築き、自己と向き合うかが描かれる。

ノルウェーの奇才ヨアヒム・トリアーの最新作。長編第1作の『リプライズ』(06)、『オスロ、8月31日』、そして今作『わたしは最悪。』を指して「オスロ三部作」とも呼ばれる。本作は第94回アカデミー賞国際長編映画賞、脚本賞にノミネートされたほか、主演のレナーテは第74回カンヌ国際映画祭で女優賞を獲得しており、その高い評価から気になって鑑賞。

美しいカットが多く監督の技量の高さに圧倒される名シーンが多くあった。特に主人公が時の止まった世界から駆け出すシーン、そして最初にパーティー会場で高台からオスロ・フィヨルドを見下ろしていた場面は印象的だ。また久しぶりのノルウェー語に加え、港湾エリアの新開発が不人気であることなど、オスロネタに触れられたのは嬉しかった。
とはいえ、観賞直後はリコリスピザで得られた清涼感とは真反対の、どんよりとした気持ちに。その場では所々に見られる北欧映画ならではの生々しさや、そしてナレーションの主張の強さに若干辟易していたからだろうと分析した。けれども思い返してみると、あのモヤモヤした気持ちはやはり、主人公に共感する点が多く感情移入し過ぎていことから生まれたのだろう。この映画の主題があまりにも耳が痛くてあてられてしまった。
自分なりのこだわりのある理想主義者。方向転換は容易にできるがどれもこれも中々長続きせず中途半端であることに対してコンプレックスを抱き始め、年齢を重ねると共に自分が何者なのかわからなくなってくる。そんな状況に対して努めて楽観的に振る舞うけれども自尊心や自信は削られてゆく一方だ。映画が進むに連れて自己投影した主人公と共に苦しんだが、しかし、主人公が元恋人の病、そして自分自身の妊娠という出来事にしっかり向き合ったことには色々と考えさせられた。

好みのタイプの作品ではなかったが、この先も記憶に残り続ける作品だろうと思う。そのような意味で大切にしたいということでリストに入れた。

8. パーム・スプリングス(2020)

監督:マックス・バーバコウ

パーム・スプリングスという砂漠のリゾート地で行われた結婚式に出席した主人公ナイルズは、花嫁の介添人サラに出会う。しかし突如謎の中年男性より襲撃を受けると、サラはナイルズの忠告を聞かずに近くの洞窟に逃げ込むが、目覚めると結婚式当日の朝まで時間を遡ってしまっていた。

タイムループの理論がしっかりしているのに、ポップでクレイジー。ここのバランスがとれていて面白かった。やはり世界観が緻密に作り込まれている作品は見応えがあって、途中どれだけふざけられてもすんなり受け入れられる安心感がある。

本作は絶望(タイムループから抜け出せない)に対するそれぞれの向き合い方が興味深かった。
まず典型的な反応を示したと考えられるのはロイ(終始ナイルズを殺そうとする中年男性)。タイムループの原因を作ったナイルズに対して復讐にかられるが、作品終盤であは現状の(タイムループの中にいる)世界を受容する。この流れは、事実の否認→怒り→取引(復讐)→(抑うつ?)→受容というキューブラー・ロスの死の受容の五段階に類似しているといえるだろうか。このモデルにそって考えると、ナイルズもどちらかというとロイタイプだろう。

一方、ループ世界に新しく来た女の子サラは希望を捨てない。
否認→怒り→取引(妹に秘密を打ち明ける)→抑うつ→受容までを数日で通り、さらにその先のではこれからどうするか?というところまで一人で突き抜けてしまう。諦めかけていたナイルズの心も動かすような、パワフルで未来志向な彼女は最高にかっこよかった。

そしてこれはリコリスピザにも当てはまることだが、一見個性的な顔をしている女の子たちを物語が進むにつれて魅力的に描くのが上手だった。

7. 私は女である(1961)

監督:ジャン=リュック・ゴダール
キャスト:アンナ・カリーナ、ジャン=ポール・ベルモンド、ジャン=クロード・ブリアリ

ストリッパーのアンジェラ(アンナ・カリーナ)は同棲中のパートナー、エミールに子供がほしい、結婚してほしいと訴える。しかし、子供にも結婚にも興味のないエミールは拒否し、互いの意見の相違から喧嘩へと発展してゆく。

初ゴダール。とにかくアンナカリーナの魅力に首ったけになるような作品。
予想外のカットアップ感覚や突然始まるミュージカルに振り回されながら、エミールとアンジェラの喧嘩を堪能する映画。ジャックドゥミのような洗練されたミュージカルではなく、都会的で粗野な荒々しい美しさがまた素晴らしい。

アンナカリーナのファッションや佇まいがとにかく可愛いし、エミール役のジャン=クロード・ブリアリのセクシーさも魅力。夢みたいな映画だ。

6. 三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜(2020)

監督: 豊島 圭介
ナレーター: 東出昌大

1969年5月13日東大駒場キャンパスの900番教室にて行われた三島対東大全共闘の討論の記録映像を用いたドキュメンタリー。学生運動が過激化し、当時最も武闘派と呼ばれていた東大全共闘へ、文学者三島由紀夫は単身乗り込み、1000人を超える学生を前に真摯かつ白熱の討論を繰り広げた。

当時物理的な戦闘状態に置かれていた大学において、言葉を介して展開された日本国民としてのイデオロギーを巡る戦いを、熱量と緊張感そのままに迫ることのできる良質なドキュメンタリー。インタビューや解説も充実していて全共闘時代をリアルタイムで知らない我々のような若い世代にも分かりやすい。東大生たちの質問に威厳を持ちながら、しかしユーモアを交える三島のバランス感覚には脱帽。質問内容に対し、さらに二歩三歩進んだところを見据えながら話す三島の姿からは、人柄とそのカリスマ性がたしかに画面を通して伝わってきた。個人的に議論という思考・論理化・言語化における瞬発力が求められる場はかなり苦手なのだが、あの一触即発状態の場で繰り広げられた生きる命題とプライドをかけた議論の応酬には最早見惚れる。中でも芥との応答は見応えあり。

5. ムーンライト・シャドウ

さつき(小松菜奈)は、愛する恋人等(宮沢氷魚)を不慮の事故で失ってしまう。等の弟・柊もまた、兄と恋人のゆみこを同時に失った。深い喪失感にくれながらもにそれぞれの方法で哀しみと向き合う残された2人のもとに麗という謎の女性現れた。麗の導きのもと、さつきと柊は会いたい人の影を求めて「月影現象」を見に、川辺へと行く。

マレーシア出身のエドモンド・ヨウ監督、小松菜奈・宮沢氷魚出演。
原作は吉本ばななの短編小説「ムーンライト・シャドウ」(新潮社、1988年)であり、吉本の日大卒業制作として発表された本作は連作短編集『キッチン』に所収された。

全体を通してコンセプショナルでコンテンポラリー。原作を読んでいないと、導入からいきなり始まる抽象的な展開についていけなくなるかもしれない。それでもやはり、吉本ばななの描いた死と再会を映画なりに再構築するかなり面白いアプローチだった思う。原作を読んだ時のような川の流れを、映像でも追体験できて面白かった。
一つ違和感を抱いたのは唐突に「ひとつのキャラバンが終わり、また次が始まる」以降の台詞の入れ方。小説では世界観の核を形成する台詞であることは確かだけど、それをせっかく再構築された映画の世界観にそのまま挿入してしまう形式に少し戸惑った。

本作にて長編映画初主演を飾ったさつき役の小松菜奈は言わずもがな、柊役の俳優、佐藤緋美の演技がとても良かった。臼田あさみも持ち前の透明感と神秘性を存分に活かしていて麗役にぴったり。
東南アジア系の方が手掛けていた音楽も相まって、個人的には結構好みであったため、Filmarksでの評価の低さには少し驚く。
冬の澄んだ空気が、ぴりっと頬に刺さるような、厳しいけれど前を向けるような美しい映画だ。

4. お早う(1959)

監督: 小津安二郎
キャスト:佐田啓ニ、久我美子、笠智衆

新興住宅地に住む林一家とその近隣の物語

3. 自由が丘で(2014)

監督: ホン・サンス
キャスト:加瀬亮、ムン・ソリ、ソ・ヨンファ

愛する女性に会うためソウルへやってきた日本人男性のモリ。 モリは彼女の帰りを待ちながらゲストハウスやカフェ「自由が丘」で人々と対話し、ソウルの街中を歩く。

ホンサンス監督作品を初観賞。
加瀬亮と韓国人たちがお互い母国語ではない英語を使って素朴なコミュニケーションを取るのが良い。シンプルだけど、本質的な内容をついた、会話のやり取り。
作品としては時間軸の刻み方・構成と独特なズームアップが印象的だった。
特に良かったのは主人公モリの持つ哲学。自分を曲げずに、嘘をつかずに生きるには、周りとの衝突が避けられないことが容易に想像できる。旅先での出来事に翻弄されながらも、研磨された哲学を抱えた彼のもとでは、あるべきところに物事が収まっていく。この辺りの感覚は、村上春樹のダンス・ダンス・ダンスにかなり近しい論理で動いているように思った。
韓国のエリックロメールとも言われるだけあって、とても好みな作風だ。

2. サイコ(1960)

監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:ジョセフ・ステファノ
キャスト:アンソニー・パーキンス、ヴェラ・マイルズ、ジョン・ギャヴィン、ジャネット・リー

言わずと知れたヒッチコックの代表作。シャワーシーンのマッチカットはあまりにも有名すぎるだろう。

1. 眺めの良い部屋(1986)

監督:ジェームズ・アイヴォリー
キャスト:ヘレナ・ボナム=カーター、マギー・スミス、デンホルム・エリオット、ジュリアン・サンズ

イギリスの良家の令嬢ルーシー(ヘレナ・ボナム=カーター)は、旅先で訪れたフィレンツェで型破りでやんちゃな青年ジョージ(ジュリアン・サンズ)と出会う。イギリスへ戻った後、理知的で教養深い婚約者シシル・ヴァイスと情熱的なジョージとの合間でルーシーの心は揺れ動く。

Call Me By Your Nameの脚本で再注目された監督、ジェームズ・アイヴォリーの代表作。『シネマ・パラダイス』を見た時と同じく、OPで心を掴まれた。OPで流れるプッチーニ『私のお父さん』よりアリア「O mio babbino caro」 は元々大好きでSpotifyやYoutubeなどでキリ・テ・カナワとロンドンフィルのものをよく聞くのだが、この映画のサントラだったとは!思いがけず聞けて序盤から感涙しそうになる。

若かりしヘレナ・ボナム=カーターがとにかく美しい。そして個人的にはマギー・スミスは、ハリーポッターシリーズでの厳格なマクゴナガル先生としてのイメージが強いため、おっちょこちょいで少しうざったい感じの役どころは新鮮であった。

見目麗しい若い男女がポリッシュなイギリス英語で叙情的に語らう姿は、それだけでロマンティックなのに、さらに古都フィレンツェとイギリスの田舎風景がそれを彩るため、ワンカットすべてが絵画のように美しい。自分に忠実に生きる、という主題もとても良かった。

おわりに

総じて、フランスのヌーヴェルバーグの映画に触れられたこと、ヒッチコックの最上級サスペンスの衝撃、ホン・サンスとエリック・ロメール作品を何本か見れたこと、小津作品を引き続き鑑賞できたことが鮮明に記憶に残っている。
旧作を多めに見れたことは良かったが、その分今年公開された新作はほとんど見れなかったので、来年はもう少し新作を映画館で見るよう心がけたい。

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