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無口な歌詞

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あの日から、やめられない作詞。 歌い出してくれたら嬉しいのに。
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2022年1月の記事一覧

スプーン

スプーン

決めかねる僕に
手を差し伸べるのが
いつもの光景だと
安心してしまうなんて
情けないね
.
真ん中に切った
キウイを半分こずつ
スプーンで掬って食べる
.
何を埋めるでもなく
深く深く掘り進めれば
そのうち見つかると思っていた
斜めに浮かぶ月と
くすんだ街灯
どっちが眩しかったっけ
今さら窓を開けて
確かめるほどでもないから
また続きから始めよう
.
.
抱き寄せる時に
目を伏せているのも
見慣れ

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割愛

割愛

落ちる涙が凍る前に
拭い取って欲しかった
瞬きが止まるまで
待ってはいられないから
.
食べすぎた幸せを
もどしてしまうような
莫迦はしない
.
風は何も知らない
風は何も語らない
そんなこと
ずっと前から
判っていたはずなのに
情けにでも縋るような声を
何処からか上げては
割愛した優しさ
.
.
落ちる涙が乾く前に
奪い去って欲しかった
輝きが消えるまで
待ってはいられないから
.
読みすぎた顛

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ドキュメンタリーの台本

ドキュメンタリーの台本

歌いたい歌があるのに
歌えないなんて
テレビのないリモコンとか
火種のない煙草のようで
やるせない
.
あなたの引力を借りて
遠くまで連れて行ってほしい
.
泣けば泣くほど
澄み渡ってゆく夜更け
矛盾に入ったひびに
塗り込むハンドクリーム
知れば知るほど
晴れ渡ってゆく夜明け
台詞に戻った箇所に
書き足すドキュメンタリー
.
.
掴みたい夢があるのに
掴めないなんて
終わりのないルーチンとか
理由

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最後の試着

最後の試着

色のない夢を見ては
思い出に浮かぶそれらと
比べてしまう癖が
まだ抜けていないから
落ち込む羽目になる
.
きっともうこれで
最後の試着
そう独り言ちるたびに
.
オートクチュールの溜め息
他人のせいにはできない
今さら似合わなかったなんて
口が裂けても言えない
手鏡の中から微笑む
あなたにだけは好かれたかった
そんな声にばかり
照明が向いたとしても
ここに立って
くるっと回って
自分のままで居る

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乳歯

乳歯

隣りの人と
目を合わせるには
鏡を見つめることの他に
ないのだろうか
.
泣いたりして
大人なのにごめんなさい
.
ハッピーエンドから
始まる物語にも
掻い摘まれた
なりゆきが一つはあって
ハッピーエンドたる
瀟洒な花吹雪より
取り除かれた
輝きの一つはきっと
懐かしい人肌の温もり
.
.
知らない人と
待ち合わせるには
名前を偽ることの他に
ないのだろうか
.
拗ねたりして
大人なのにごめんなさ

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ルーム・アローン

ルーム・アローン

時々思い出すんだ
小さな頃に観た映画
面白かったのだけれども
どこか淋しくて
怖かった
.
赤い服の勇敢な少年が
僕の心の中にも居て
時折見せる弱さと対峙する
.
大層な武器はなく
他にない閃きも
ちょっとしたユーモアも
持ち合わせていないこんな僕にも
輝ける瞬間があると
笑わないで思っていられる
本当の敵の存在に気がついた時
立ち向かえるくらいの
ちょうどいい勇気が欲しかっただけ
.
.
何度も

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キャノチエ

キャノチエ

僕には歌えなかった歌を
あなたが愉しそうに歌っている
それは悲しいとはまた違って
だけれどもちょこっと苦い
.
トレードマークの帽子
やっぱり見つけられないらしい
.
熱に濡れた体が
奪ってゆく湿度を
これでもかと抱きしめる
泣けたらいいのにね
それでもまだ
冷たいままの指の先で
なぞる硝子
独りぽっちだと
思ってしまう時ほど
爪が光る
.
.
僕には似合わなかった花を
あなたが嬉しそうに咲かせて

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newcomer

newcomer

君に奪われた静寂が
空っぽの瞳で
僕の胸を正確に貫いてゆく
.
色を塗った途端に
世界を見つけた気がして
.
選ばれたのは
newcomer
散々迷った挙句の果て
譲り合うなんて
.
選ばれたから
newcomer
段々上がったにわかの雨
隣り合うなんて
.
空々しく歌いたくなる子守唄
.
.
僕に任された結末が
そのままの形で
君の傍へ唐突に運ばれてゆく
.
髪を結った仕草に
答えを見つけた気が

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hanabi

hanabi

あなたとすれ違わなかった未来を
想像して怖くなることがある
それは等しくとても平凡で
故に説得力があった
.
爆発する前に
火を消せないのならば
せめて美しく散らせてなんて
.
もう今はない
星空の背景
ぼーっと眺めながら
目に浮かべている
輝きの残像から
差し引いたワンダフル
あぁ好きだ
もっと好きな
明日を抱きしめる
.
.
あなたが振り返らなかった未来を
想像して泣いていることがある
それは

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満月

満月

今はつまらないことが
たまらなく愛おしいのです
.
.
歳は確かに取りましたが
背もたれはまだ使わないと
何故か誇らしげに
言い切ってしまった
.
あれは強がりというよりもきっと
もっと軽い独り言の続き
.
何もかもが消える夜
落とし物の中で
誰かを待っている
様々な物に紛れながら
少し思ったこと
今はつまらないことが
たまらなく愛おしいのです
.
.
いつか怖がりというよりもずっと
もっと長い独

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切る莫迦と切らぬ莫迦

切る莫迦と切らぬ莫迦

抗ってみたものの
どうにもならないことが
確かにあると知るのに
この日々は浅く
.
外の洗濯物のように
すっかりと
乾いてくれたらば
.
ついつい忘れてしまう
先に延ばしてしまう
切るべきその枝を
今日も嬉しそうに眺めては
ごめんなさいと
小さく零す唇の上
似合わない赤
優しい白
.
.
拘ってみたものの
どうにもならないことが
幾つかあると知るのに
この声は軽く
.
長い反省文のように
うっかり

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明けるぞ私

明けるぞ私

外堀を埋めてゆく
ただ一つの道が
予めあったかのように
とぼけた顔で
待っているのは誰か
.
好き嫌いの枠からも外れて
見向きもされなかった存在に
急遽当てられたスポットライト
.
今宵は三時間SP
予告も程々に
引っ張ったまま入るCM
言いたいことは言えたのか
どういった締め括りにするのか
決めかねている間に
終わってしまう
今だけの
今日だけの
煌めきだっていいじゃないか
さあ、明けるぞ私
.

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そうではない

そうではない

アナーキー・イン・ザ・実家暮らし
退屈につけたジャムとマーガリン
焼き過ぎたから焦げたのか
隠したかった何かがあったからなのか
.
みんなが帰った後の公園
生まれ変わる訳でもないのに
知らない場所のよう
.
うんともすんとも言わないデイズ
掛け違えたボタンも一周回って
収まるところに収まった
兎にも角にもこんな駄文に
意味も理由も疑問も答えも未来もない
そろそろ気づいていることに気づいてさ
しない

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Identity Candy

Identity Candy

昔話にできるまで
もう少し黙っていさせて
開けてしまった炭酸は
早い内に飲み干して
.
「肌寒い」と
羽織ったタオルケットには
平仮名で書かれた名前
.
Identity Candy
この口の中の甘さは
転がしていると溶けてなくなる
Identity Candy
この日々の中のよすがを
味わってみてもやがて忘れる
Identity Candy
この街の中の私も
繰り返しながら今に間違う
.
.

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