見出し画像

23時間40分!6万円のマウンテンバイクで1日378kmをひた走っただけの話

普段は自転車のメカニックとして働いている私。
自転車の販売はもちろん、お客さんの自転車の修理やカスタマイズ等もしています。
メカニックとして自転車に触れるのは楽しいことですが、自分で仕上げた自慢の愛車で走り回るのも大好きです。

ところで、スポーツバイク乗り(特にロードバイク)の間で言われている『ロングライド』について言いたいことがあります。
1日で何km以上走ったら『ロングライド』と言えるのかという基準は人それぞれです。
「1日で走る距離が2桁(99km)以下はロングライドじゃない。」
という人もいますし、
「昨日は30kmのロングライドをしてきたよ。」
という人もいます。
繰り返しますが、ロングライドの距離に明確な定義はありません。
とは言うものの、スポーツバイク(特にロードバイク)で1日の走行距離目標として、多くの人が3桁(100km)以上を掲げているようです。
3桁ならロングライドと言っても界隈では変な顔をされることはおそらくありません。
ただし、自転車に興味の無い人に
「昨日、自転車で100km走ってきたよ。」
なんて言ったら変態扱いされます。
たぶん。

それと、『走行距離マウント』は無視して下さい。
これは他人と張り合いたい人はともかく、基本的には他人と比べるものでもありません。
1日でたくさん走れたら偉いわけでもないので、特に気にする必要も無いと思います。

この記事ではたくさん走ったことを書いていますが、他人に対してマウントを取る意図はありません。
読んで下さった誰かが、
「そうだ、自転車に乗って出かけよう。」
そう思うきっかけになってくれることを願って書きます。
当時使っていたスマホはすでに壊れていて写真もバックアップを取っていなかったため、写真はありません。

前置きが長くなりましたが、いよいよ本編開始です↓


■きっかけは年齢と…

2015年06月28日。
当時の私は30歳。
愛車は【GIANT】ROCK 29ER(2014年式)。
その日は勤務先で朝から夕方まで普通に勤務し、お客さんの自転車の修理や組立等をしていました。
翌日から2連休。
何となく明日は『ROCK 29ERの日』(ロック・トゥーナイナーの語呂合わせ)だなと勝手に記念日を制定し、せっかくだからサイクリングでも楽しもうと企てていました。
仕事終わりに自転車仲間と焼き肉を食べながら、自転車談義に花を咲かせていると、
「人間って自転車で1日何km走れるんですかね?」
「車種(自転車のカテゴリー)にもよるだろうけど、300kmとか。」
なんて会話になりました。
ロードバイクなら100kmは当たり前という人も多く、私の大師匠はマウンテンバイクで300km走破したという話も聞いています。
せっかくなら、おそらく誰もやったことがないチャレンジをしてみるのも面白いかもとも考えました。
当時の私は、自転車ではマウンテンバイクしか持っていません。
ロードバイクならともかくマウンテンバイクで200kmならやりがいもあるかも。
いや、それなら大師匠の記録は超えたい。
300km?
200マイルってことにして320km?
いや、キリよく400km行ってみるか?
そういえば広島から下関(山口県)まで200kmだったな。
1日で往復すれば400km行けるじゃん!

そうだ、下関へ行こう。

こうして帰宅後、カノジョ(現在では我が家の絶対神である妻)に
「ちょっとコンビニに行ってくるわ。」
と言って出かけることにしました。
(どこのコンビニとは言っていない)

■30歳児の大誤算

サイクリングの合計時間をカウントしやすくするため、6月29日になった瞬間(つまり午前0時ジャスト)から出発することにしました。
コンビニに行くだけなのに、ビンディングシューズとサイクリングウェアを着ていた私を見て、妻は察した様子。
これまでも『ちょっと最寄りのコンビニへ行ってくるわ』くらいのノリで市外へでかけることも多かったので、もはや隠すこともありません。
「せっかくの休みだから、下関まで行ってくる。」
と告げ、それなりに準備をして出発。

片道200km、往復400km。
時速20km/hで移動すれば24時間の内4時間余る。
3時間は睡眠、1時間はフグでも食べよう。
そういう計算でした。

ところが、実際はそうもいきません。
サイクルコンピューター(スピードメーター、以下、『サイコン』)を見るとアベレージ(平均速度)28km/h。
仕事終わりから寝ていないとは言え、焼き肉パワーが炸裂しているのかペースは快調そのもの。
ホルモンで油分を摂取したから、脚の動きも滑らかだぜー!
なんてアホなことを考えながら午前1時。
ちょうど1時間走ったところで、走行距離をサイコンで見てみました。
さてさて、何km進んだかな~?
…20km。
え?
1時間でたった20km?
アベレージ28km/hだったのに?

この時、ノーリー君(30歳児)は大切なことを忘れていました。
信号待ちの時間やコンビニでの補給やトイレ休憩等、そこで時間を消費するという事実を。

こうなると予定が狂います。

■ネカフェも無い

午前2時。
サイコンによると走行距離40km。
このあたりで頭の悪い私でも疑惑が確信に変わります。
コンビニ休憩とか信号待ちとかの時間を計算に入れていなかったこと、そしてこのままのペースでは3時間の睡眠は取れないということ。
ここからはコンビニでの補給やトイレ休憩は必要最小限にすると決めました。

廿日市市、大竹市を過ぎ、ついに山口県岩国市へ入った頃には、のんびり楽しむ余裕はありませんでした。
国道2号沿いを進むと一つの峠にさしかかります。

私の愛車はマウンテンバイク。
と言っても街乗り系の仕様で、『ルック車』ではないもののサスペンションの性能もお粗末なもの。
ペダルを踏み込んだ力を安いサスペンションが吸収してしまうため、駆動効率は非常に悪いわけですよ。
上位のサスペンションだとそうはなりません。
また、サスペンションの上下運動機能をオフにするロックアウト機構も付いていないので、ペダルを踏んでも踏んでも思うように進んでくれないことで体力を削られます。
登坂中に何度、
「サスペンション死ね!」
と叫んだことか。
完全に八つ当たりです。
深夜の峠道でこんなやつに出くわすと、恐怖を感じてしまうかもしれませんね。

こうして峠のピークを越えると見えてきたのが、広島県民の多くが運転免許を取ったら訪れる名所のひとつ、いろり山賊 玖珂店です。

『運転免許取ったら山賊へ行こう』となりがちな広島県民でもある私ですが、結局クルマで訪れたことはありません。
自転車でしか訪れたことがないので、いつかはクルマで訪れたいものです。今回はそんな想いを胸に、素通りして下ります。

そのままどれほど走り続けたか…。
街灯も無いような道も走り抜け、気付けば午前5時。
前日はフルタイムで労働し、一睡もせずここまで走ってきたので睡魔に負けそうになります。
大きな道路沿いのコンビニで補給食と飲み物を購入し、近くにネカフェが無いか探してみました。
ところがありません。
せめて15分だけでも仮眠したいですが、どうしたものか…。
ふと、歩道橋が目に留まりました。
この時間帯なら歩行者に遭遇しそうにない場所。
致し方無く、愛車を担いで歩道橋の階段を登り、歩道橋で仮眠を取ることにしました。
端から見れば完全に変質者です。
運良く他人と遭遇しなかったのか、通報されることもありませんでした。

■のんびり観光なんてできやしない

リアルに15分の仮眠を終え、また走り出します。
眠気覚ましに道中の自販機で初めて見かけた缶コーヒーを買ってみたら、無糖ブラックだけど香料を含むやつでした。
私にとってはハズレです。
『高級豆使用』とか『豆にこだわった…』とか表記しているなら香料なんて使わないでくれ!
と言いたくなります。
心の中で盛大にツッコミを入れて目が冴えました。
朝日を背に、車の通りが少ない大通りを走るのは実に気持ちが良いものです。
時刻は午前10時過ぎだったでしょうか。
広島市から見ると下関市の手前、山陽小野田市にあるドライブイン みちしおが見えました。

道の駅みたいな施設です。
お目当てのフグは無かったので今回はスルーしちゃいました。

そしてついに下関市へ到着!
したものの、日付が変わるまでに帰宅するためには、もはやフグ料理を楽しんでいる時間など残されていませんでした。
往路はここで終わりです。
長府エリアを徘徊してみたものの、この状況にちょうど良い飲食店を見つけられずに帰路に就くこととなりました。
復路の始まりです。

■出会い

結局、下関市では何もできず、すぐに山陽小野田市へ入った最初のコンビニでランチタイムを過ごすことにしました。
時間が無いときにサッと食べられるコンビニの存在はありがたいものです。
ふと、駐車場を見るとロードバイクの両サイドに大きなバッグ(パニアバッグといいます)を付けているサイクリストが見えました。
車体の不調か、何やら困っている様子。
メカニックのおせっかいが発動し、声をかけてみることにしました。
「こんにちは。
私は自転車の整備を生業としています。
何かお困りですか?」
すると彼は挨拶を返してくれてリアの変速が上手く動かないことで困っているようでした。
どうやら自転車店から新車を買って組立もしてもらったそうですが、診てみると明らかに整備不良です。
初期伸びという新車ならではの一時的な不具合発生は実際にあるものですが、そもそもワイヤーの通し方も合っていません。
本人は触っていなくて車体の転倒等も無く、実際に外的な力によるダメージも見当たらないので、眺めながら原因を考え込んでいるようでした。
自転車はどこで買うかが重要と言われますが、これは最終組立を担当するメカニックの技術や経験の差、理念等が車体に反映されるからです。
同じ車種・年式でも初期の組立がイマイチだと、その後もイマイチのまま…どころかいろいろと悪化していきます。
もちろん、乗り方(使い方)や保管状況等も影響はありますが、自転車の場合は最初の組立というのがとても重要です。
携帯工具は持っていたで、その場で直してあげることにしました。

よく聞けば、彼は自転車で本州縦断の旅をしている途中だそうです。
ロードバイクを1ヶ月前に購入し、鹿児島県から青森県を目指すと言っていました。
ロードバイク歴も1ヶ月だそうで、いきなりムチャするなぁと思いながらも、ついつい応援したくなってしまいました。
こういう元気が有り余っている若者、嫌いじゃないです。

無事に愛車が直り、変速もスパンスパン決まるようになったので、彼も喜んでいました。
「ありがとうございます!
これで坂を登るのも楽になります!」
そしてなぜかなつかれたようで、
「広島までついていきます!」
なんて言われてしまいました。
旅は道連れ世は情けってことで、承諾して一緒に広島市へ向かって走り始めました。

私はスピードを出すことには向いていないマウンテンバイク。
彼はスピードを出すのに向いているロードバイク。
とは言っても荷物の重量もかなりあるようで、思うように進みません。
休憩をこまめに取りつつ、道路脇で少し離れて寝そべって身体を休めたりしながら、23時には広島市に到着しました。
彼も宿泊先が見つかったようで一安心です。

■中途半端な結果

自宅に着いたのは23時40分。
サイコンのデータによると走行距離は378km。
残り20分で22kmを走れそうにはなく、おとなしくこれにて終了。
ついつい人助けをしていしまい、ついつい置いていけずペースを落としたことを少し後悔はしましたが、これもまたサイクリングの楽しみだとも思います。
帰宅後、妻に今回のサイクリングの出来事を話し、
「次に挑戦する時は人助けはせずに目標を完遂するッ!」
と宣言したものの
「とか言ってもどうせ自転車で困ってる人を見たら、いつも通りほっとけないんでしょ。」
なんて返されてしまいました。
否定できません。

当初、目標としていた数字には届きませんでしたが、自転車での旅もいいものです。

峠道から見える工場地帯の景色。
真っ暗闇の道路脇にある木々が風に揺れる音。
他にもたくさんの景色や音を楽しむことができました。

歩くよりは速いので退屈はしないし、クルマよりは遅いので景色も楽しめます。
エンジン音が無いので道中の音や愛車の変速操作や車輪にお音を楽しめるのも自転車の魅力です。
自分の脚で来たという達成感もあり、自転車どうしだからこその出会いもあります。

身体的に問題が無い限り、私はまた自転車で遠出もするでしょう。
ただし、次はちゃんと計画的にペース配分も考慮します。

ここまで読んで下さった皆さんも、旅はある程度計画的かつ安全にお楽しみ下さい。

サポート(投げ銭)を頂いたら活動費に使わせていただきます。