禅が教えてくれる美しい人をつくる「所作」の基本 (枡野 俊明)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
気になるタイトルの本です。
いつも行っている図書館での予約の長い待ち行列の末、ようやく借り出しました。
著者の枡野俊明氏は、多摩美術大学教授でもあり庭園デザイナーでもあるという異色の禅僧です。その著者が語る美しい所作の数々のヒントの中から、ちょっと気になったものを書き止めておきます。
まずは、禅の考え方を踏まえ、「所作」の意味づけを明らかにしているところから。
仏教では、よい「縁」を結ぶことで、いつでも人生を幸せな方向に変えられると説いているとのこと。そこでは「縁起(縁を結ぶこと)」が大切になります。よい「縁」を結ぶための教えが「三業」です。
「所作」は、自らを正すものであることに止まらず、利他の精神の発露でもあるというです。したがって、全ての所作は「他」をも意識したものとなります。
たとえば、周りの人に対する「あいさつ」。人と人とをつなぐ大切な所作のひとつです。
この「あいさつ」という単語ですが、これはもともと禅語(挨拶)とのこと。そして、この挨拶のポイントは「言葉」と「形」です。
お礼の言葉を言いながら頭を下げるのに比較すると、落ち着いた風情の一味違う所作で、確かに、相手を大切に思う気持ちがより強く伝わりますね。
もうひとつ、新たな気づきになったのは「日本料理のもてなし」について語っているくだりです。
先の2020オリンピック招致活動の中で流行語ともなった「おもてなし」ですが、特別の設えの部屋で種々の器に盛り付けた季節の「日本料理」を供することは、まさに「おもてなし」そのものでもあります。
過去・現在・未来というときの流れを表し、そのなかでの「一期一会」を大切にするという精神の発露なんですね。
このあたり、供する側の料理に込めた心を解する、こちらの受容力が試されます。ダメですね、私は全く自信がありません。
さて、本書を読んでの感想です。
著者の人柄に拠るのでしょうが、とても穏やかな語り口で、多くの気づきを与えてくれました。
ただ、正直なところ、ちょっと私が期待していたものとは違っていましたね。もう少し、深堀りした「禅」の教えも「所作」の背景として触れられているのかと思っていたのですが・・・。その点からいえば、少々物足りない印象です。