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禅が教えてくれる美しい人をつくる「所作」の基本 (枡野 俊明)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 気になるタイトルの本です。
 いつも行っている図書館での予約の長い待ち行列の末、ようやく借り出しました。

 著者の枡野俊明氏は、多摩美術大学教授でもあり庭園デザイナーでもあるという異色の禅僧です。その著者が語る美しい所作の数々のヒントの中から、ちょっと気になったものを書き止めておきます。

 まずは、禅の考え方を踏まえ、「所作」の意味づけを明らかにしているところから。
 仏教では、よい「縁」を結ぶことで、いつでも人生を幸せな方向に変えられると説いているとのこと。そこでは「縁起(縁を結ぶこと)」が大切になります。よい「縁」を結ぶための教えが「三業」です。

(p21より引用) 三業とは、「身業」「口業」「意業」の三つ。・・・
 一番目の「身を整える」とは、所作を正しくする、ということ。・・・正しい法(教え)にしたがって、できるだけ他人のために自分の体を惜しみなく使う。・・・
 次の「口を整える」とは、愛情のある親切な言葉を使うことです。・・・
 「この人にはどんな言葉で伝えたらいいのだろう?」
 それをつねに考えていくのが口業を整えることになります。
 最後の「意を整える」とは、偏見や先入観を排し、ひとつのことに囚われることなく、どんなときも柔軟な心を保つことです。

 「所作」は、自らを正すものであることに止まらず、利他の精神の発露でもあるというです。したがって、全ての所作は「他」をも意識したものとなります。

 たとえば、周りの人に対する「あいさつ」。人と人とをつなぐ大切な所作のひとつです。
 この「あいさつ」という単語ですが、これはもともと禅語(挨拶)とのこと。そして、この挨拶のポイントは「言葉」と「形」です。

(p141より引用) 気持のいいあいさつの言葉は、形が整うことで所作として完成されるのです。・・・
 形でいえば、「語先後礼」という作法を覚えておくといいでしょう。つまり、相手をきちんと見てまず「おはようございます」の言葉を述べ、そのあとに丁寧に頭を下げるのです。

 お礼の言葉を言いながら頭を下げるのに比較すると、落ち着いた風情の一味違う所作で、確かに、相手を大切に思う気持ちがより強く伝わりますね。

 もうひとつ、新たな気づきになったのは「日本料理のもてなし」について語っているくだりです。
 先の2020オリンピック招致活動の中で流行語ともなった「おもてなし」ですが、特別の設えの部屋で種々の器に盛り付けた季節の「日本料理」を供することは、まさに「おもてなし」そのものでもあります。

(p160より引用) 日本料理では「素材」そのものにも、もてなしの秘密があります。旬の素材を七割(六割)、旬が過ぎ去っていく名残の素材を一割五分(二割)、これから旬を迎える素材、すなわち、走りを一割五分(二割)という割合で使う。そうして旬の時期の異なる三品をそろえるのが最高のもてなしとされています。

 過去・現在・未来というときの流れを表し、そのなかでの「一期一会」を大切にするという精神の発露なんですね。
 このあたり、供する側の料理に込めた心を解する、こちらの受容力が試されます。ダメですね、私は全く自信がありません。

 さて、本書を読んでの感想です。
 著者の人柄に拠るのでしょうが、とても穏やかな語り口で、多くの気づきを与えてくれました。
 ただ、正直なところ、ちょっと私が期待していたものとは違っていましたね。もう少し、深堀りした「禅」の教えも「所作」の背景として触れられているのかと思っていたのですが・・・。その点からいえば、少々物足りない印象です。



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