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資本主義の終焉と歴史の危機 (水野 和夫)

(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)

 ちょっと堅いタイトルですが、かなり話題になった著作です。私も遅まきながら読んでみました。

 本書で訴える著者水野和夫さんのメインメッセージは「資本主義の終焉」です。著者は、今や資本主義の基本理念である「利潤の追求」「資本の拡大再生産」にしがみついてはならないと警鐘を鳴らします。

(p12より引用) もはや利潤をあげる空間がないところで無理やり利潤を追求すれば、そのしわ寄せは格差や貧困という形をとって弱者に集中します。・・・現代の弱者は、圧倒的多数の中間層が没落する形となって現れるのです。

 資本主義が限界に至っていくプロセスはこうです。

(p56より引用) 1974年以降、実物経済において先進国が高い利潤を得ることができるフロンティアはほとんど消滅してしまいました。「地理的・物的空間」の拡大は困難になり、資源を輸入して工業製品を輸出する先進国の交易条件が悪化し、「地理的・物的空間」に投資をしてもそれに見合うだけのリターンを得ることができなくなった。

 この最初の壁にぶつかった先進国は、資本主義を機能させる空間を別次元に求めたのです。

(p57より引用) 利潤率の低下に耐え切れなくなった先進国、とくにアメリカが目論んだのが、新たな利益を得られる「空間」を創造することでした。・・・アメリカは「電子・金融空間」を創設することによって、その後、30数年にわたって「延命」させてきたのです。

 この「電子・金融空間」は経済活動の地理的制約を取り払うものでした。
 新たな空間で生み出されたバブルの資金は、近代化を促す投資機会を求めるという形で新興国市場に流れ込みました。そしてBRICS諸国にみられるように、一時的にはそれらの国々に経済的急成長をもたらしました。
 しかしながら、新興諸国の成長モデルが「輸出主導」であるがゆえにその成長はすでに鈍化しつつあり、その停止が資本主義の最終着地点になると著者は説いています。

 このグローバリゼーションの環境下においては、貨幣を増加させても、すなわち「金融緩和政策」を採っても、デフレ脱却の効果は期待できません。

(p118より引用) 貨幣数量説から導かれる「インフレ(およびデフレ)は貨幣現象である」というテーゼは、国民国家という閉じた経済の枠内でしか成立しないのです。・・・
 ・・・貨幣が増加しても、それは金融・資本市場で吸収され、資産バブルの生成を加速させるだけです。そしてバブルが崩壊すれば、巨大な信用収縮が起こり、そのしわ寄せが雇用に集中するのはすでに見た通りです。

 もうひとつの方策である「積極財政政策」はといえば、すでに経済が需要の飽和点に至っている状況下においては、こちらも過剰設備を維持するための固定資本減耗の増加を招くという結果に止まってしまいます。

 著者は、「金融緩和政策」「積極財政政策」により資本主義流の成長を求める=資本主義を延命することは既に不可能な段階に至っているとの現状判断に立っているのです。

(p135より引用) 「脱成長」「ゼロ成長」というと、多くの人は後ろ向きの姿勢と捉えてしまいますが、そうではありません。いまや成長主義こそが「倒錯」しているのであって、結果として後ろを向くことになるのであり、それを食い止める前向きの指針が「脱成長」なのです。

 本書において、著者は改めて「資本主義」の発生・発展の歴史を振り返り、その研究から「資本主義の本質」とそこから導かれる「資本主義の終焉」を指摘しています。

(p164より引用) 資本主義とは、ヨーロッパの本質的な理念である「蒐集」にもっとも適したシステムです。・・・
 資本主義の性格は時代によって、重商主義であったり、自由貿易主義であったり、帝国主義であったり植民地主義であったりと変化してきました。IT技術が飛躍的に進歩し、金融の自由化が行きわたった21世紀は、グローバリゼーションこそが資本主義の動脈と言えるでしょう。しかし、どの時代であっても、資本主義の本質は「中心/周辺」という分割にもとづいて、富やマネーを「周辺」から「蒐集」し、「中心」に集中させることに変わりありません。

 この国家の内側にある “社会の均質性”の消滅 により発生した新たな “周辺” が「格差」であり「貧困」なのです。

 そして、この空間的な拡大が限界状態にあるグローバル資本主義の世界において更なる「収奪」を望もうとすると、今度は “時間軸” すなわち「未来からの収奪」に踏み込むことになります。公共事業への財政出動は「将来の需要の先取り」であり、金融緩和による過剰投資は「エネルギー消費の増大(化石燃料の加速的枯渇)」を招くことになるのです。

(p179より引用) 資本主義は、未来世代が受け取るべき利益もエネルギーもことごとく食いつぶし、巨大な債務とともに、エネルギー危機や環境危機という人類の存続を脅かす負債も残そうとしているのです。

 こういった「資本主義の終焉」に直面して、著者は為すべきこととして「脱成長」を基本テーゼとした「ゼロ成長社会」へのソフト・ランディングを提唱しています。

 その点では、まさに、「ゼロ金利」「ゼロ成長」「ゼロインフレ」に突入した今の日本の進む道が、「強欲な資本主義」に続く世界を拓いていく試金石になるとの考えです。

(注:本書を読んだころから10年近く経た今日(2023年)、最後のパラグラフの結末は、どうも著者の期待どおりのものではなかったようです。この10年の金融政策は、日本にとって相対的退行をもたらしました。)



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