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中央線小説傑作選 (南陀楼 綾繁 編)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 会社帰り、国立駅内のモールにある書店にちょっと寄ってみた折に、店頭に平積みされていたので目につきました。
 私はまさに中央線沿線の住人で、もう20数年間通勤で利用しているので、このタイトルが気にならないわけがありません。

 内容は、中央線沿線を舞台にした短編小説を11編採録したものです。
 馴染みのある作家もいれば、いままでその作品を読んだことのない作家もいます。

 いずれにしても小説なので、内容に入らない程度に印象に残ったところを書き留めておきます。

 まずは、太宰治の「犯人」
 じとっとした湿気を含んだ “太宰流サスペンス作品” といった印象です。
 太宰の作品は、ご他聞に漏れず高校・大学のころお決まりの有名な小説をいくつか読んだ以外、最近はほとんど手に取っていませんが、この作品はちょっと意外なテイストで、なかなかに興味深いものでしたね。予想外に楽しめました。

 もうひとつは、黒井千次の「たまらん坂」

(p210より引用) 「駅は国立で降りるんだ。でもそれがおかしな坂でさ、五百メートルもあるかないかなのに、登っているうちに国立市から国分寺市に変って、あっという間に今度は府中市になる。」

 この作品のピンポイントの舞台が私が通勤で使っている「国立駅」の近辺なので、風景描写のディーテイルが無暗に気になりました。
 タイトルになっている「多摩蘭坂」をはじめとして、「旭通り」「大学寮前」「坂の途中の鉄塔」・・・、鮮明に風景が浮かびます。地元のヒーロー「忌野清志郎」さんのアルバムも登場して、一味違う楽しみ方ができましたね。

 そして最後は、五木寛之さんの「こがね虫たちの夜」
 これは時代を感じさせる小品ですね。まさに若いころの “五木さんの得意技” 炸裂といった出来栄えでした。

 さて、このアンソロジー、幅広いジャンルのさまざまな作品が採録されていて、普段なら決して手に取らないような作品にも出会うことができました。
 予想外に面白いものもありましたが、とはいえ、やはり “合わないもの” は受け付けませんでしたねぇ・・・。




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