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小さな奇跡が転がっている道 【ルピュイの道⑤】

ルピュイの道の歩き始めの初日は、暴風雨、あられ、雪にやられた散々な天気だった。
今までの歩き旅カミーノの中でも1、2を争う悪天候で、山の上の開けた道では岩にしがみつかないと飛ばされそうな暴風を浴びたり、口を開けていたら口の中が膨らんで破裂しそうなレベルの暴風を浴びた。

そして朝目覚めたら、白銀の世界に変わっていたので、どうしたもんかと迷ったが、宿の人のアドバイスを参考に、山道のゾーンをバスでスキップして飛ばすことにした。ワープである。

バスの窓から見た景色はこんな感じ。
雪が積もっている山道を歩く想定をしていなかったから、バスで進むことにして正解だったと、本来歩くはずの道の景色を見ながらそう思った。

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なんせ寒すぎる。
それにトレッキングシューズを履いているとはいえ、雪用の装備は持っていない。スペインを800㎞歩いた旅の時は、何が何でも乗り物に乗らずに歩き通すということにこだわり、灼熱の日も吹雪の山も歩いてやり遂げたのだが、今回はそこにはこだわっていないから、これで良しとした。

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しかし、この歩かずにバスに乗って飛ばしたゾーンは絶景ポイントだったらしく、大平原から見渡せる景色が美しいらしかった。真っ白でグレーな景色だったから、どうせ歩いていても見られなかったとは思うが、ちょっぴり残念。

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およそ60kmちょっと。歩きだとおそらく3日間分の行程を、バスで1時間ほど乗って飛ばしたら、すっかり雪山ゾーンは越えて、景色が、いや季節すら全く変わって、晴れ間が広がっていた。
Les Quatre Cheminsという場所で何となく降りて、15㎞くらい先のNasbinals(ナスビナル)という、唯一名前を堂々と読めたし覚えられた町まで歩くことにした。

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この草原の真ん中を歩く道が1本通っていた。

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ちなみにこれは川の写真ではない。
歩くべき道である。
これはさすがに歩けないと思い、私の前を歩いていた巡礼者のグループも立ち往生していた。
昨夜吹雪だった地域もあれば豪雨だった地域もあるらしく、この辺りは道が川になってしまっていた。
フランス語で書かれた私が持っているのと同じガイドブック「ミャンミャンドゥードゥー」を真剣に読んでいるフランス人グループの近くで、私も神妙な顔で混ざる。この先も歩けないから、車道を歩いて迂回すべきだという意見でまとまったらしく、雨のひどい草原のゾーンだけ、この時のフランス人メンバー御一行プラス私プラスアメリカ人1人は、仕方なく車道を歩くことにした。

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車道に向かうまでの道で朝ごはん。
バゲットのサンドイッチをかじりながら歩いた。

それから車道沿いを、ビュンビュン走る車におびえながらまた降り出した大雨の中を怯えながら歩き、また正規のルートに戻った。

そして小さな町のカフェに入り、雨宿りがてらホットココアを飲んで温まった。
このカフェには、先程の増水した道というか川で、はまってしまい半泣きになっていた私を助けてくれたアメリカ人の巡礼者アルと、フランス人のティエリたちがいて、仲良くなった。
ティエリがナスビナルという町まで歩くと言い、自分たちの宿の予約のついでに、私の分もフランス語で今日の宿(ジット)を予約してくれた。
感謝、感謝。
結局、毎日、歩いている途中の休憩に立ち寄ったカフェなどで、その時に出くわした誰かに便乗して、その日の宿の予約をTELでフランス語でしてもらうということが続いた。
今回の旅の寝床は、毎日が人任せで面白かった。
いや、面白いではなくありがたいである。

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雨が強くなってきたら猫と一緒に雨宿りをしたり、

靴が中までびちょびちょになり半泣きでカフェに入ると、「靴を乾かすマシンがあるよ」と言ってくれたフランス人男性がいて、「アイラービュー!」と思わず口から出そうになったり(出たような気もする)、

小雨になって歩いていると、お腹が空いた頃に雨が止んで、急に道のそばに座れる場所が出てきて、朝、宿の人が作って持たせてくれたお弁当が予想外においしかったり、

また雨が強まってどこか雨宿りの場所を探したら小さい名もないような教会を見つけて、中に入るとなかなか味わい深かったり。

もしや、これが奇跡というやつか?という連続。
それがカミーノの旅なのである。


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そして15時頃、ナスビナルという町に入り、ティアリが予約してくれた宿に到着。雨は止んでいた。
15㎞歩いて本日のゴールである。

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この旅を通して毎日ともに過ごし、とても仲良くなったフランス人のイザベラとはここの宿で出会った。
雨でびしょ濡れになったイザベラが、遅れて私のいる部屋に突然飛び込んできて、「ハイ!」と笑顔で挨拶してくれた時の濡れてくりんくりんになった髪の毛がとてもかわいかったのと、そのあとすぐに部屋の窓から2人で一緒にナスビナルの教会の屋根を見たこと。
初対面でなぜか絶対気が合いそうな気がして、夜、カタコト英語で話し込んで、ハイジの屋根裏部屋みたいな部屋で一緒に眠ったこと。

そのことがとても思い出深い。

ルピュイの道の旅を、マガジンにまとめました。
時々思い出して書きます。




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