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Lou Reedを聴いて眠る完璧な日 【山ごもりの夏休み⑤】

土砂降りにあい、雷鳥にも出会い、キャンプ場の少し手前で雨宿りに山小屋の屋根を借りた。

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カミーノでいつも着ていたパタゴニアのトレントシェルは、加水分解したのと、体重増加につきファスナーが閉まらなくなったのとが理由で、今回は初のワークマンのレインウェア。パタゴニアの値段の8分の1くらいのくせにワークマン もなかなかやるじゃないかと感心しつつ、下半身はボトボトに濡れて冷え切っていたので、山小屋に入って温まることにした。
入ると昨日タブレットで見た映画「春を背負って」の出演者の写真やサインがあった。私の愛するトヨエツがそこにいて、あらそんなところにいたの?と写真にご挨拶をしておいた。

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「カレーしかありませんけど」と言われ、カレーは何回食べたっていいタイプの私は「カレーください!」と言ってボトボトのレインウェアを入り口で脱いで靴も脱いでレストランへ入った。
私の愛用靴、keenのタージはもうボロボロになっていて靴下もびちゃびちゃ。濡れた靴と靴下の不快感でカミーノを思い出す。靴も買い替えないといけないかなぁとちょっぴり寂しい。思えばこいつとは1000km以上一緒に歩いてきている。カミーノで色んな人と出会ったのをこいつとパタゴニアのトレントシェル、モンベルのバックパックだけは知っていたのに、トレントシェルは成仏し、バックパックだって何ヶ所も手縫いで縫い直している。もう潮時だろうか。keenのタージは次にカミーノを歩くことが決まったらまた同じのを買おうと決めた。
山でもコロナの影響は大きく、日帰り入浴をさせてもらえない温泉が多く、お店や山小屋では必ずマスク着用である。
ニコラスとサンジャンピエドポーで買ったネックウォーマーにもなるヘアバンドbuffを首に巻いて歩き、マスク着用の場面では口元をそれで覆うようにしている。この前ニコラスが私とお揃いのbuffで口元を覆っていたのをinstagramで見て真似をしている。

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山小屋で食べる、なんてことないレトルトのカレーはとても美味しかった。アルファ米以外のちゃんと炊いた米を食べるのは久しぶりだ。

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食後にホットココアを飲んだが、スペインのコラカオによく似て甘くて温まる。マシュマロを持ってきているから、明日また来てこっそりマシュマロを入れて飲もうかななんて思う。
そういえば、雨の日にコラカオを飲んで温まっていた時にスタンが私の写真を勝手に撮って笑っていたはずなのに、その写真をもらっていないし、見せてもくれていないことを何故だか急に思い出した。あの写真を彼はまだ持っているのかなぁ。かわいく写っていたらいいけど、なんてちょっぴり乙女な願いを。
窓を見るといつのまにか雨は止んでいた。
ここの山小屋のフリースペースが、カミーノのアルスーアのアルベルゲによく似ていて木の雰囲気が素敵だった。

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山小屋のお兄さんが、日帰りでも入浴していいと言ってくれたので喜んでお風呂に入ることにした。温泉があるというのがスペインのカミーノと違うところだ。
イケメンと浴びる熱いシャワーもいいが、足を伸ばしてじっくり温まれる温泉の方が今は圧勝。びちゃびちゃに濡れたコンプレッションタイツを脱ぐのに一苦労する。靴下も3足しか持ってきていないのに2足が濡れてしまったし、干しても乾くような天気ではない。明日はターミナルで1320円で売っていた靴下を買おうと決めた。
展望風呂に入ってびっくり。
この山に来て初めて夕日を見れた。
雲の隙間から少しだけ、山に隠れていく瞬間を温泉に浸かりながら、壁一面の窓ガラスから見ることができた。
沈む直前に太陽は最後の力を振り絞るように一段と強い光を放つこと、そのあと吸い込まれて消えていくことをミャンマーのバガンで知ったが、今日の夕日もそうだった。沈み終えてからもピンク色の雲がしばらく広がっていて美しかった。
温泉から見たので写真は撮れなかったが、ラッキーだと思った。
土砂降りの日の最後に素晴らしい山小屋にふらりと立ち寄って色んな旅の思い出に浸り、夕日を見ながらお湯に浸かる。こんな完璧な日はないとすら思える私は案外ポジティブなのかも知れない。後ろ向きな過去ばかりを思い出してはいたが、真っ暗な道を歩き、1人ぼっちでテントに戻り、寝袋にくるまって、ルー・リードの『perfect day』を聞いて眠る。
鬱になってもおかしくないようなこの曲を聴いて心が晴れるなんて、過去の旅の思い出が少し私をセンチメンタルに染める一人旅で、この曲を聴いて静かに眠るなんて、まったくもって完璧な一日だと思った。




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