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川湯温泉でメモ。〜ひとり時間と人との交流と〜

川湯温泉のいつもの旅館の温泉は、いつも通りとっても気持ち良かった。
湯浴みを着て河原に降りて露天風呂に入るのだが、混浴だけど、男湯側に1つ、女湯側に1つ露天風呂があるので、何となく暗黙の了解で男女分かれているような感じ。
とはいえ混浴なので、家族連れやカップルなどは性別関係なく一緒の湯に浸かっていることが多い。
時々男湯側が空いてるにも関わらず女湯側におじさんが入っていたりして、湯浴みを着ているものの、ちょっとドキドキなのである。
この日も、大半の人たちが晩ごはんを食べているだろう時間を見計らって入ったので、女湯の脱衣所には靴も服もなく、誰もいなかった。
よっしゃまた温泉独り占め!と意気揚々と河原に降りて女湯側の露天風呂に入って、なんでか知らないけどKing Gnuの「三文小説」を本気の力で歌っていた。
「35歳の少女」のドラマが好きだったから何故か歌える。

この世界の誰もが君を忘れ去っても
随分老けたねって今日も隣で笑うから
怯えなくて良いんだよ
そのままの君で良いんだよ
増えた皺の数を隣で数えながら

なんとなくそういう世界観の気分だった。
頭の中で間奏を演奏していたら、後ろでチャポンと音がした。
岩陰に、岩と一体化したおじさんが1人いた。
ヴィパッサナーはしていなかったが、頭全体に艶があり、光った綺麗な岩のように見えた。
びっくりして、怯えなくていいんだよと歌ったばかりなのに、少し怯えてしまい歌うのをやめて私の中のKing Gnuは消えた。
そしたらおじさんの方が静かに立って男湯側の温泉へと戻っていった。
もう「三文小説」を歌う気にはならなかったが、広々と温泉を堪能。
星が綺麗な夜だった。
飛行機もたくさん飛んでいるのが見えて羨ましく思った。私も飛んでいきたいよ。

しばらくしてから、大人のカップルが2人でやってきたので、女が1人ここにいますよというサインとしてちゃぷんちゃぷんとわざとお湯を鳴らして合図を送り、存在をアピールしておいた。
そして、先人にならって私もお湯からさっと出た。
それから内湯でゆっくりして髪と体を洗ってさっぱりして上がった。


温泉から出て、ホテルのロビーのところに木のテーブルと椅子がたくさん置いてあり、広々とした場所に誰もいなかったので、そこに座って、大雲取越のルートのデータを私の熊野古道ノートに記録した。

インドのダラムサラで買ったノート
2014年から書いている。
漉き紙が良い味わい。


アプリに今日歩いたコースの入力はできているが、熊野古道を初めて歩いた時からこの紙のノートに必ずメモしたり記録を残しているのでボールペンでせっせと書いていた。
基本的にメモ魔なので過去の旅でも旅ごとにノートを持っていって何かとメモしている。
食べたもの、値段、時間、訪れた場所、知り合って交換したメールアドレスとか。近年の海外旅はすぐにWhatsAppかFacebookで繋がるからメモする必要もなくなったが。
スマホになってからはインスタやTwitterを旅ログとして活用するようになったが、それでも紙のノートに記入するのはやめられない。
コロナ禍とともにここのnoteを始めたが、今後海外へ旅する時、noteにも綴りつつ、紙のノートへのメモは続けるのだろうなと何となく思っている。二度手間になろうと、ちゃんと使い分けられることになろうとなかろうと、きっと手書きでメモするのはやめないと思う。
自分の字の癖や大きさやバランス、ささっと書くイラストが自分で非常に気に入っているし、カフェや安宿の共有スペースやベランダや、どこかに居場所を見つけてこれからもどこででも何かを書くのだろうなあと思うし、書いていたいなと思っている。

真剣にノートに書いていると「お勉強ですか?」とホテルの従業員のおじさんが優しく話しかけてきた。
「お勉強」という表現に思わず笑ってしまった。
熊野古道のうんちくについて色々と語ってくださり、人工衛星が飛んでいるのがここの温泉から見えることなど楽しいおしゃべりが続いた。
「熊野古道の大雲取越と果無峠は一番ハードですよ」とおじさんが言うため、どっちも歩いたことあるし、今日は大雲取越を越えてきたことを得意気に私が話し、それとなく私のリュックについているデュアルピルグリムのピンバッジに目をやってみた。


おじさんはそんな私の匂わせのような目配せよりも早く
「なんと!!」
と驚いていた。
「それはアレですね!!(アレです)
どっちも歩いたんですか?凄い!凄いです!スペインも?!え?800km?!うわー!」
と水戸黄門の印籠状態になって控えおろうとしていた。
すっかり水戸黄門になってしまった私は得意気な気持ちを少し隠して少し出して、
「えへへ。歩くのが好きで。」
とよく分からない謙遜をしてみた。
そのおじさんが売店まで行って別の従業員に私の印籠のことを耳打ちしそこでも「えー?!」となり、それが奥の事務所にいた人にまで伝わり、なぜか凄い人扱いされて、集まってこられ、お勉強の続きがしにくくなり、熊野古道ビールも飲みにくくなって、いくつかの質問にお答えしてからそこでお開きにした。
そのホテルの隣にある同じ系列の安い宿に泊まっていたので、宿に戻る時もお見送りされて恥ずかしかった。
ここの宿にはいつも泊まっているのだが、いつものオーナーの若旦那はおらず、従業員のメンバーが変わっていた。
寂しくもあるが、総出で凄い人扱いしていただいたので、新鮮な気持ちになれた。
あのピンバッジをつけていてこんなに凄いと言われたことはなかったので、デュアルピルグリムのピンバッジも認知度が上がってきたのかも知れない。まあそれも熊野本宮界隈のみではあるが。

私の一人旅はそれほど求めていないタイミングでも、時々なぜか賑やかなことになる。
いい人たちに話しかけていただけるフレンドリーさと、変な輩が絡んでこないノンフレンドリーさのバランスは難しいとは思っている。
大体いつも楽しい時間になるのだけど、こちらのタイミングでスパッと切り上げられる引き際の良さというかドライなところに我ながら感心するが、これは海外を一人旅する中で身についたトラベルハックと言えるような逞しさの一種でもある。
今回の旅では、ほぼ一人しか歩いていない熊野古道を何時間も一人で歩いて、写真を撮ったりメモをしたりとひとり時間を満喫しつつ、まだ密を避けて警戒しながらの旅の中でも、バーベキューに誘われたりも含めた、人との交流の楽しさなどを少し思い出させてくれるような時間があった。
そのどれもがとてもあっさりとした短い時間ではあったものの、それはそれで悪くはなかったような気がしている。なんとなく。

続く…

#春の紀州熊野古道旅  でまとめています。


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