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地球のどこかでまた会おうとアストルガで約束した夜 【あの彼⑤】

ニコラスと別れたログローニョから1年後また歩き始めたカミーノの旅は、ログローニョで始まり、スタンや色んな人たちと出会って、アストルガという街で終了する。続きは翌年にアストルガから再開する予定だ。

アストルガという街で2人きりでスタンとランチをする約束は、予期せぬことが起こってお流れになってしまった。
そもそもスタンとの昨夜の出来事やランチの約束の方が、
予期せぬ出来事だったんだから仕方ない。

イタリアーノ親子のユーリとディヴィッドと3人でサンドイッチを食べて、シャワーを浴びて洗濯をして、テラスで日光浴をしていたら、サラが来て、
「今日、広場の所のレストランでお別れパーティーよ!」と言いに来た。
始まる時間を聞いたら、もう適当に集まって適当に始めていく感じで、最後だし誰でも声かけちゃおう、というフランクなサラだった。
私も、3週間近くの間よく顔を合わせていた人たちに声を掛けておいて、まだ16時頃だったのでアストルガの街を探索することにした。
スタンはどこにいるのか分からなかったが、きっと誰かから夜のお別れディナーのことを聞いて、やってくるだろうなと思っていた。

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アストルガはチョコレートの町だそうで、チョコレート博物館があった。
もともと「チョコレート」と呼ばれる物が南米にあったけど、香辛料が混ざっていてあまりに苦くてスペイン人の口には合わなかったらしく、そこで、スペイン人のある修道女さんがひらめいて、砂糖を混ぜてみたら予想外においしくなってしまい、今のチョコレートができたらしい。
諸説あるがこのアストルガが甘いチョコレートの発祥の地とのこと。
私は教会で、その見ず知らずの修道女さんに心の中で感謝した。
ありがとう、チョコを甘くしてくれて。
チョコは甘くあるべきだ、ダークチョコなんて問題外だ。
私に虫歯を大量生産してくれたけど、何度も私の心、私の生活を甘くしてくれて救ってくれたのもチョコレートだったよ、アーメン。

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そして、アストルガのチョコレートを買い漁り、
ガウディの作ったアストルガの司教館の前で立ち止まった。
不思議なことにあんなに晴れていたのに、霧雨が降り出した。今日は変な天気だ。
狐の嫁入りやな、といにしえの昭和の言葉を思い起こした。
バルセロナに行って以来、ガウディには一目置いている。
唯一無二のデザイン、世界観。
バルセロナ以外の場所でガウディ建築を見られるのは稀で、カミーノの道においては、レオンとアストルガくらいだった気がする。

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アストルガのガウディを見ながら、
レオンで何故ちゃんとガウディを見なかったのかを思い出していた。
雨が降って、どこにも行けなくなってスタンと2人でバルに取り残された時間のこと。
今となれば遠い思い出のような気がする。
素敵な時間だった。
別れるのがとても悲しくなってきてしまった。
見上げるともう小雨は止んでいた。

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そろそろ誰か集まってきているかな?と思い、
教会の前の広場に行ってみた。
広場の所にあるレストランの店の外に机と椅子が出されていて、
そこにもう何人かが集まっていた。
私とサラとドイツのジョージクルーニーも最終日だったので、
15人くらいでお別れパーティーをしてもらうことになった。
ちなみに、私たちの何人かにはハリウッドスターの別名がついていて、
何か1箇所似ていれば名付けてもらえるシステムで、
私は黒髪なだけでロングヘアでもないのにアンジェリーナ・ジョリーだった。

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空の下でパーティーか。最高だな。
郷土料理にこだわりがちのブラジル人のジョズエに、
ここカスティーリャレオン州の、郷土料理「コシードマラガト」というのが有名だからそれを食べよう、と誘われ、席に座ってオーダーした。
次々といろんな人が現れて椅子と机を店員がどんどん外に運んでくれて、人数は増えていった。

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メグライアンとシンディークロフォード(どちらも60代女性のあだ名)と共に、ブラッドピットことスタンがやって来た。
リュックのベルトを補強するために宿で縫っていた、と笑って話していた。
スタンは、
ずっと追いかけていたエリザベスの隣へ行って、
彼女の隣の空席になっている椅子を持ち上げて、
私の横にわざわざ椅子を持ってきて私の隣に座り、生ビールを注文した。
それから、
私の食べているコシードマラガトを見て、「この変な食べ物、何?」と言って豆をパクッとつまみ食いした。
私はカバンからさっき買ったアストルガのチョコを出して、
ベルギーチョコレートとどっちが美味しいか分からないけどあげる、と言ってスタンに餞別として渡した。チョコ好きのスタンは、「これが日本人の好きなGODIVAか?!」とふざけて笑った。

「ユーリに今日で最後だって伝えたのか?」とスタンが聞いてきたから、
「ユーリに伝えたら『pretty sad』て軽く言われたよ。a littleてことでしょ?だから私もa littleで答えたよ」と素っ気なく私は答えた。
「いや、prettyてa littleじゃないぞ、かなりって意味だぞ」とスタンに言われてびっくりした。
私は海外で「シングリッシュ(寺島しのぶ考案の、心と心のイングリッシュという意味らしい)」で生きているから、細かな英語はスルーしている。
だからprettyって何となく、ちょびっとという意味だと勘違いしていた。
そっか。普通にveryを使えよなユーリも。
調べたらprettyはveryよりはちょっと下らしいけども。
思わず笑ってしまい、
「もうどっちでもいいよ。フフフ。それにユーリをこのディナーに誘ったら、今日はパパと2人で宿でご飯を食べるって断られたし。」
と言ったら、スタンも笑っていた。
その後、少しだけユーリがお別れを言いに顔を出してくれたが、ユーリが私との別れをかなり悲しいのかちょびっと悲しいのかは本当にどっちでも良くて、こうしてスタンがまた隣にいて一緒に笑えているのがpretty happyだと思っていた。
それから、食後にアストルガのチョコを使っためちゃ甘のチョコレートケーキをスタンと半分こして食べた。半分こしたのに2人でおかわりしてもう1個食べた。

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「次の旅のプランはあるのか?」とスタンが聞いてきて、私の行きたい場所の話を興味津々に聞いてくれて、スタンもスペインを歩き終わってからのプランを話した。
スタンは「ベルギーにはいつ来る?」と聞いた。
だけどすぐに「まだまだいっぱい行きたい場所があるもんな」「日本は遠いし、飛行機代はファッキン高いしまずは仕事か」と私に言って
「それに、来年ここからサンティアゴまで旅の続きをしないとな」と、彼はベルギーの話をやめた。

その夜はみんなでビールもワインも何本も飲んでいっぱい笑った。
私の隣に座っていたスタンが途中、
みんなで話しているのに爪を噛んでぼーっとしていたから、
「爪を噛んだらダメだよ」と私が言って、
手を掴んで、酔っ払ったみんなに分からないように
机の下でそのまま手を離さずに繋いだ。
「昨日の雨はひどかったけど、さっきの雨はすぐ止んで良かった」
とかスタンが言ってきたので
「私は雨の日がとても好き」
と言った。
昨夜、大雨の中ずぶ濡れになって走って会いに行った後のことは、
私だって、なかったことにしていない大切な出来事だということがスタンに伝わればいいなと願った。
「俺も雨の日は好きだし、レイニーガールも好きだよ」
と言ってスタンは笑った。それから
「地球のどこかでまた会おう、アンジェリーナ」
とスタンはそう言って、
テーブルの下で繋いでいた手をテーブルの上に持ってきて、
強く握り返してくれた。
私は
「約束だよ、ブラッドピット」
と目を見て言った。
昨夜と同じく綺麗なビー玉みたいな目玉で、
今日は更に真っ直ぐな綺麗な目をしているなと思った。

全盛期のブランジェリーナ気分のおバカな2人を、
酔っ払いのみんなは気付いていなかったのか、
見て見ぬ振りをしてくれていたのかは分からないけど
最後まで残っていたのは結局いつも通り私たち2人だった。

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一人、また一人と去っていく時に、
いつまでもみんなでハグしあって笑った。
今日ここで全員とお別れするのが本当にとても悲しかったのに、不思議なくらい幸せな気分だった。
甘いアストルガのチョコレートが効いたのか、
私にしては珍しく、サヨナラすることよりも出会えたことの喜びに感謝できるハッピーモードで、
Hontanasでの1日に並ぶくらい完璧に近い日だった。
来年また1人でこのアストルガの街に戻り、1人ぼっちから旅を始めるとしてもきっと次は寂しくないと確信できるくらい、私は胸がいっぱいだった。





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