見出し画像

短編連載小説 長い夜7

ダム湖にも2本の川が流れ込んでいて、
護は小さい方の川沿いの道を選んだ。
そこからは舗道が途切れデコボコの土道だった。
パンクしたら困るので、石ころに気を付け自転車を押しながら歩くと
8件ほどの集落が見えてきた。どの家も山にへばりつくように建っていた。
護の祖父の家は下から二番目だった。
「聡さん。じいちゃんの家によって荷物の整理をしよう」
聡は声を出さずに頷いた。
護の祖父の家には、その時ばあちゃんだけが留守番をしていた。
他の家族は、葉タバコの収穫に出ていた。
孫が友達と二人で
自転車でここまでっ来たことに最初驚いていたが、
もうそういう年齢になったのだということを
にこやかな笑顔で認めてくれた。
そして護の採集した石を見ながら、偉いなあと頭を撫でた。

聡はと言えば,先ほどから胸がドキドキしていた。
どうしてそうなるのかは分からなかった。
縁側に腰を掛けて、冷えた黄瓜を食べさせてもらいながらも
なんとなく落ち着かない自分の気持ちを持て余していた。

「じゃあ聡ちゃん、そろそろ行ってみようか?」
護も昨日のことを忘れてはいなかった。
石拾いに適した川は他にもあったのに、
あえてこの川を選んだのは、2人の胸の内に
叔父が口にした「母ちゃん」という言葉が疼いていたからだ。

5歳だった聡にとって、「死」と「消」は同じことだった。
が、小学6年生になった彼には、その違いが理解できた。
だが、どうすればいいのか、ずっと決めかねていた。
そんな聡の気持ちを見越したように。護が背中を押した。

「せっかく来たんだから、家だけでも見たら?ねえ、聡ちゃん」
「うん。家だけな」
息子2人を置いて、家を出た母が、再び嫁いだという家は、
川沿いの道からさらに急な坂を登った、山の麓にあった。
坂道を登っていると、まず二階建ての家が見え、
その横に、同じくらいの大きさの納屋があった。
山から降り注ぐようにアブラゼミの鳴き声が聞こえていた

          長い夜8に続く

今回もみもざさんのイラストです
この小説にぴったりでした
ありがとうございます


#短編小説
#連載
#母の嫁ぎ先
#少年時代
#熟成下書き
#私の作品紹介

この記事が参加している募集

熟成下書き

私の作品紹介

この度はサポートいただきありがとうございました これからも頑張りますのでよろしくお願いします