ノイア
蚕を茹でたことがある。繭のまま沸騰した湯に入れグツグツと煮た。 虫を茹でた汁は茶色く澱み、形容しがたい異臭がモクモクと家庭科室に広がっていった。その異様な光景は今でも記憶にこびりついている。 蚕(カイコ)は蛾(ガ)の一種で、人間が絹を取るために家畜化した虫。蚕は人の手がないと生きることができない。 7歳の私の放課後の日課は、山に行き人の庭に生えてる桑の木の葉を20枚ほど譲って貰って幼虫に与えること。ビジュの悪い芋虫でも卵から育てたら愛着も湧くというものだ。私は桑の葉をむし
それが普通ですよね。 普通ってなんですか?って話になっちゃうよね。 そうですね、普通なんて無いですもんね。 そう、そうなんだよ。 相手は満足気な顔をして、わかってるじゃんという風に笑った。 くだらん、非常につまらん。 普通という言葉をチョイスしてしまった私も、"普通"をおざなりにしてさも普通ではないものが素晴らしいと言わんばかりの物言いも。 普通 いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであること。だって。 普通の美しさや儚さがわたしは好き。すぐそこに有るよ
風俗産業には足を踏み入れなかったものの、水商売にはとてもお世話になった。 この世界には、水商売(ガールズバー、スナック、キャバクラ、ラウンジ等)専用の派遣サイトがある。 夜職版のタイミーといった感じだ。わたしはそこに登録していた。 また、優良なスカウトさんから自分に合いそうなお店を紹介してもらい在籍したりもした。 一部では崇拝されることもあるが、世間一般的にはあまり良いイメージを持たれていない水商売。でも当時の私には世間様の目を気にする余裕も貯金も、高給を得るための技術も
これは本当に保護者様の字ですか…? 頭の中でそんなシュミレーションが様々なパターンで行われていた。心臓はうるさく音を立て手は汗でぐちゃぐちゃだった。 実際そんな心配はご無用で支払いが済むと笑えるくらいスムーズに手術室に案内された。 口に笑気麻酔用のマスクがつけられ、腕に刺された点滴からツーと28万円が流れ込む。 ・・・うわ、お弁当屋さんで毎日働いて貯めたお金がわたしの体の中に入ってくる。 28万円、バイトでコツコツ貯めたお金。未成年の自分にとっての28万円は大金だった
アバズレみたい。 学生時代に母親から言われた。 鎖骨あたりに紐がクロスした流行りのデザインの服を着ていたから。特別露出が多いものではないけど母の目にはそう映ったらしい。 15歳のある日、こっそりアイシャドウを買った。やらしいものでも無いのにベッドの下に隠していた。母親に見つかると何か言われるかもしれないから。 見つかった____ そして案の定、禁止になった。肌に悪いからとの事だったけど理由はきっと他にある。初めての子育ての中で娘が女になっていく。私が色気づくのが怖かっ
ずーっと忘れられない人がいる。あんま面白くない恋愛の話はしないんだけど、たまにはこういうくだらんつまらん何の役にもたたんノートがあってもいいかなと思って書いてみる。 その人とは2年付き合って、1年ほど前に向こうから別れを告げられた。 適応障害になってしまって毎日泣いていた1番辛い時に側にいてくれて、夜な夜な泣いているわたしに黙って寄り添ってくれた。言葉をくれるとか抱きしめるとかキスをするとかそういうのじゃなくて、ただ隣にそっと居てくれた。職場の人間関係のストレスで蕁麻疹が
セックスしよ これは通りすがりのおじさんにすれ違いざまに言われた言葉。 わたしがイヤホンをつけていたので、聞こえてないと思ったんだろう。3秒後、遠ざかっていく背中を追いかけて後ろから蹴り上げ、そいつの髪を掴んでコンクリートに頭を何度も打ち付けて中身が出るまで、ごめんなさいが言えなくなるまで無茶苦茶にした。かった。でもね、自分がそれをするには大切なものが多すぎる。なんて幸せな人生なんだろう。ひよりたくない、いつかやっちゃったらどうしようね。相変わらず厨二病だねと言って笑って
半年ほど前から嗜好品天国というお店で働いている。たくさんのタイプの人とお話できるお店は、自分のコミュニケーション能力をかなり成長させてくれる。価値観もたまに揺さぶられたりする。 嫌いな人もいなくて助かる。これを言うと嘘だ〜!と思われるけど、これは決して自分が清廉潔白な人間だからというわけではなく、嫌いな人がいない方が生きやすいからそういうスタンスでいるだけ。 自分は人のどこかに人間らしさや可愛いらしさを見出せることが長所だと思っているので、何か自分に害がない限りその人のこと
池袋西口を出ると、必ずスタンバイしてる虫がいる。そいつらは見境なく光に向かって飛んでいき、ブンブンうるさい音をたてながらどうしようもない動きを本能のままにしていてマジで滑稽! 自分は光、奴らは虫。自分は虫が嫌いではないのでそこに居ても「あ、いるな。」くらいにしか思わないけどこちらを目掛けて飛んでこられたら迷惑だよね〜〜 昔から女であることが面倒で嫌いで好きでよくわかんない。女であることで敷居が低く楽しめるコンテンツもたくさんあった、楽もできた、その代わり股から月一で血が出
中学生の時、マイメロのピンクのブラジャーが制服から透けてた。後ろから田中が、色気づいてるよこいつ!とニヤニヤしてまわりの男子と笑っていた。世間一般的にはおかしいんだなと思った。地味でブサイクなわたしが、ピンクの下着を着ていたら。別に好きでもないマイメロのブラは着け心地最悪。周りがキャラクターの下着をつけていたから付けただけ。おかしくないように皆と一緒にしたつもりが、どうやらおかしいことだったらしい。自分の意思と関係なく成長していく胸がすごく怖かった。こんなもの無くなってしまえ
15歳の時、プラド美術館を案内してくれたおじさんの事が忘れられないので綴る。 そのおじさんは、黒いシルクハットにステッキをもっておりチャップリンを彷彿とさせた。奇妙でユーモア溢れる姿はさながらダレン・シャンに出てくる登場人物のよう。常に面白く時に優しく、スペイン語を話せない私を沢山助けてくれた。 案内人のおじさんはズラリと並んでいる絵画を知り尽くしているようで、面白い絵をピックアップし紐解いてくれる。絵に隠された秘密をおじさんがブラックユーモアたっぷりに教えてくれる。登場
ジュンさんという人は、自分の人格の形成に欠かせない人物。その人のことを忘れたくないのでオチなんてないけどジュンさんのこと書こうと思う。本当のこと全部は書きたくないからところどころフィクションで。どこがあっててどこが違ってるかはご想像にお任せします。 上京して10代ではじめてのバイト探しが始まった。井の頭線沿いに住んでいたことに加えて古着やスリーピースバンドが好きで、うっすい憧れから下北沢で働こうと思った。世の中にはマイナビとかタウンワークとか便利なサービスが溢れているにも関
明日は某オーディション、ファイナリストの発表らしいとTwitterで流れてきた。去年の今頃は余裕なフリしてガチガチに緊張していたと思う。 ファイナリストになってみて賞をとったがオーディションが終わった途端自己発信に興味を無くししばらくなにも出来なかった。残った肩書きを使って自分は○○賞で〜と得意気に話せていたけど時間が経つにつれてそれ自体は何の意味も無いことに気づいた。 賞をもらえるとかそうじゃないかとかじゃなくてオーディションの過程で自分が何が得意なのかとかやりたいこと
「地図みたいでいいと思う」 妹が何気なく言った一言でわたしは酷く傷ついた。 妹が言う地図とはわたしの腹の痣の事である。言った本人が覚えているかもわからないような前向きな言葉がキュッと刺さって痛い。 《痣/あざ》 皮膚の一部が、周囲と異なる色だったり状態が違っていたりするものを一般的に痣という。 みんなと違う部分があるというのは想像以上に辛い。 本当のコンプレックスって口に出して言えない。コンプレックスはある?と聞かれても、ちょっと嫌だなと思うくらいのコンプレックスしか言