未成年のレポート2

これは本当に保護者様の字ですか…?

頭の中でそんなシュミレーションが様々なパターンで行われていた。心臓はうるさく音を立て手は汗でぐちゃぐちゃだった。

実際そんな心配はご無用で支払いが済むと笑えるくらいスムーズに手術室に案内された。

口に笑気麻酔用のマスクがつけられ、腕に刺された点滴からツーと28万円が流れ込む。

・・・うわ、お弁当屋さんで毎日働いて貯めたお金がわたしの体の中に入ってくる。
28万円、バイトでコツコツ貯めたお金。未成年の自分にとっての28万円は大金だった。

点滴中、興奮と悲しさが混ざったようなよくわからない感情になった。

でも後悔はない。ぐちゃぐちゃになるとしたら元々ぐちゃぐちゃな顔か母親の情緒だけ。一か八かで長年苦しんできたコンプレックスが無くなるんだ。そう思うと痛みもお金もどうでも良い。なりふり構っていられるか。

余談だがわたしは整形代を貯めるのに絶対に体を売らなかった。現在までトータルで×00万円ほど課金したがエステやパパ活、風俗の類には手を出さなかった。
体を売ると替えのきかないものを失うと思った。
貞操観念、金銭感覚、精神的負担、身体的負担、様々なハードルが下がる・上がるetc
未成年ながらそれは1度狂うと2度と元には戻らないような予感がしておりその考えは今も変わらず健在している。

手術室
――――――――――
担当医の○○です、よろしくお願いします。

ほろひふほへはいひはふ。
口のマスクと笑気麻酔のガスのせいで上手く喋れない。

手術台の上のわたしはまな板に乗った魚よりも滑稽で、生きるのに必死だった。

では静脈麻酔入れていきますね。

は________

終わりましたよ、起きてください。

うーん…え?

手術、終わりましたよ。

う……なんか気持ち悪いです。

じゃあ少し休みましょうか。
――――――――――

麻酔後手術中
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
らんらららんらんららんららんらん
らんららららんらんららんららんらん

ベッドがどんどん下がっていく、体ごと沈んでいくと言った表現の方がしっくりくるかもしれない。

どこまでも終わりのない穴に吸い込まれていくようなそんな感覚。

横たわったベッドは上昇したり下降したりを繰り返しアトラクションのようだった。

らんらららんらんららんららんらん
らんらららんらんららんららんらん

いつシーンが切り替わったのか分からない。

今度はカラフルなLEDでできた螺旋状のエスカレーターに乗っている。エスカレーターの周りには色とりどりのクマのぬいぐるみのようなものがぴょん、ぴょんと一定のリズムでわたしの周りを回っていた。ちなみにその子達もピカピカ光っていた。

マゼンダ、シアン、ライムイエロー

どきつい蛍光色のLEDで出来たエスカレーターは動いても動いても目的地までたどり着かない。というか出口がない。
見上げると空にはサイケデリックな背景がうねうねと動いている。やけに明るい音楽と怪しいシチュエーションの変な夢。怖いことに今でもまた見たいと思ってしまっている。
LSDやMDMAを飲んだような後の精神的な依存性があるのかなと思った。合法的に飛べてラッキー!

一瞬で終わったのに長い夢を見ているような不思議な体験だった。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

術後は痛みや腫れが1ヶ月ほど続いた。その鈍痛がとても嬉しい。美しくなることの証明みたいで心地よかった。ちゃんと痛みがあることにわたしはすごく安心していた。

だが実際はどうだろう?痛みがなくなっても腫れが引いても芋が料理になったくらいの出来ではないか。お察しの通り整形は魔法じゃない。顔のパーツが1箇所、たかが数ミリ変わったくらいではわたしは人間になれなかったのだ。

もっと変わらないと。

世間の物差しで測られることには慣れていたので例えこれが心の病気と言われても依存性だと言われても良かった。人は、アドバイスじみたことや説教のようなものを言うだけ言って気持ちよくなって帰っていくだけ。そうかもしれませんね、と笑ってあげるけど心の中は無関心。どうでもいい。とやかく言ってくる人達がわたしのことを救ってくれるわけではない。

肯定してくれる人も同じだ。充分可愛いよと言われても、変わらないでと抱きしめられても心に空いた穴は埋まらない。元々完璧主義のわたしだ。リスク大好き、痛み上等。
生きている限りは変わり続けたいと思っている。

わたしはお弁当屋さんを辞め、水商売の世界に足を踏み入れた。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
未成年のレポート終
水商売のストーリーに続く

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