マガジンのカバー画像

詩日記

736
日記的詩
運営しているクリエイター

2023年10月の記事一覧

夢の中の雨

夢の中の雨

昨日から降り続ける雨は
一向に止む気配が無く
兎にも角にも降り続けている

止まない雨は
アスファルトを濡らし
屋根を叩き
銀杏を落とし
寒気を連れて
蒔いた種を流す

そんな雨の日は
一日中部屋の灯りをひとつも灯さず
朝起きてから夜眠るまで
ひたすらに詩集を捲りゆく

途中栞を挟んで
レースカーテンを開けて窓の外を眺めたりして
アーモンドナッツやクルミを食べたりして
深煎りの苦い珈琲を濃く淹れて

もっとみる
たまたま

たまたま

冬が寒いのも

夜が暗いのも

海が深いのも

たまたま

夜吹く風が涼しいのも

燃ゆる炎が暖かいのも

流した涙が冷たいのも

繋いだ手が温かいのも

たまたま

古いアパートの和室の一輪挿しの薔薇が美しいのも

住宅街の電信柱の横に咲いたたんぽぽが可愛いのも

花屋で買って父に贈った紫陽花が忘れられないのも

たまたま

今日が今日であるのも

わたしがこの世界に産み落とされたのも

あなた

もっとみる
岐路

岐路

日が巡りゆく度に
生きる道と
死にゆく道
との岐路に立つ

どちらが生きる道で
どちらが死にゆく道なのか
それはわからない

雀が薔薇の木の枝に乗り歌う
銀杏の葉が秋風に吹かれ揺る
川の水面に秋陽が薄く煌めく

手掛かりはそれくらいで
日がまた次の日へと巡る直前で
なんとか一歩を踏み出すと
たまたま生きる道

そうやってたまたまが続いて
また今日この瞬間も生きるか死にゆくかの
岐路に立つ

眠らない街

眠らない街

男女の集いが狭い歩道を広く使って派手な宴を開いている。一週間たった五日間の頑張りを讃えるには些かやり過ぎではないかと思いながらすり抜けようとすると声の大きい男性と肩がぶつかる。ぶつかったことにも気づいていない相手にそれとなく頭を下げ宴の邪魔にならないように去る。二人以上で横並びになって歩いている人間たちは肩を寄せ合いとても楽しそうで一人で歩いている人間たちは肩を窄めてとても哀しそうで私は後者。本当

もっとみる
夜、眠れないときは。

夜、眠れないときは。

窓を開けて空を見上げ星をひとつ見つけよう。

窓を開けたまま息を吸って息を吐こう。

深煎りの珈琲をうんと濃く淹れてゆっくり啜ろう。

歌詞のない音楽を流して耳を澄まし何度か聴こう。

詩集を一編ずつ小さな声に出して読もう。

心に残った詩を一編真っ新なノートに書き写そう。

またひとつ深く息を吸って吸った分息を吐こう。

目を閉じてすばらしき世界を祈ろう。

名前の知らない花

名前の知らない花

初めて
生まれて初めて
花を買った
駅から帰る途中で花屋に寄って一輪だけ

花を買って帰る理由はなかった
気づいたら花屋に立ち寄って
目に留まった花を買って
帰路に着いていた

花を持って歩くのも初めてだから
少し恥ずかしくて
いつもより道の端の方を
少し良いことをした気分になって
いつもより背筋を伸ばして
歩いて帰った

帰ってから花瓶がないことに気付いて
ペットボトルに入った飲みかけの緑茶を飲

もっとみる
秋と冬

秋と冬

秋といっしょに縁側に寝そべり

柔らかくて温かい秋陽の毛布に包まれて

ごろごろまったり日向ぼっこ

薔薇の木の枝に止まった雀の唄声に耳を澄まし

詩を読むようにゆっくり瞼を閉じる

眠気に誘われて夢への扉を開く

夢の入口から出口を探しながら彷徨う

夢の途中で非常扉を開けて瞼を開く

抱き合っていた秋はもうそこにいない

代わりに閑かな暗い冬が隣に立っていた

貧しい日々

貧しい日々

電車で杖を持った老婦に席を譲っても
ごみ収集場のごみが荒れてるのを綺麗にしても
自動販売機の下に落ちていた百円を交番に届けても
日本語の話せない観光客に道案内をしても
毎晩眠りに就く前に目を閉じて平和を祈っても
生活は一向に善くならない

一体何をすれば
一体何を頑張れば
一体全体何を祈れば
生活は善くなるか

服も買わず
働き
飯も食わず
働き
風呂も入らず
働き
働いて働いて
それでも暮らしは

もっとみる
絶望した顔で希望の光を探した

絶望した顔で希望の光を探した

その日はたしか金曜日で
発車直前の電車に飛び乗るとかなり混んでいた

空いていた前寄りの車両に移り座席に座ると
向かい側の車窓に自分が映るのが見えた

車窓に映る自分の顔は
何か大切なものを失った後の
絶望に伏した顔だった

他の座席に視線を移せば人間たちが
掌に乗る四角い画面の先に広がる狭い世界の前で
嘆いたり
笑ったり
憂いたり
喜んだり
騒いだり
溺れたり
死んだり
していた
皆々絶望してい

もっとみる
光

光を探していた
昔、幼い頃に兄と見た光を

その光は
地球より大きいのに祖母に買ってもらったサッカーボールより小さくて
空より遠いのに幼稚園より近くて
風より速いのにお下がりの三輪車より遅くて
太陽より明るいのに裏山に作った秘密基地より暗くて
その光を秋から冬に移りゆく季節に毎年探していた

探しても見つからなかったその光は探すのをやめた年の秋の夜、寝床に就いてから突如瞼の裏に現れた

その日はと

もっとみる
トースト

トースト

スマートフォンを左手に
トーストを右手に
持って食べる朝ごはん

弾力ある芳ばしい小麦の味は
ブルーライトに照らされて無味となる

焼けて溶けたバターの香りは
インターネットの風に吹かれて無臭となる

お皿の上のトーストは2枚ともなくなっているのに
何も食べた気がしない

空腹を満たすため
また一枚食パンを焼く

失敗は成功のもと

失敗は成功のもと

失敗してもだいじょうぶ
またつくりはじめられるから

失敗してもだいじょうぶ
つぎにつなげられるから

失敗してもだいじょうぶ
たのしいとおもえるから

失敗してもだいじょうぶ
だいじょうぶ

失敗のピースを捨てずに集め続ければ
いつか成功のパズルが完成するから

失敗の火を消さずに燃やし続ければ
いつか成功の花火が打ち上がるから

失敗の星屑を見逃さずに追い続ければ
いつか成功の星座が見つかるか

もっとみる
いつか

いつか

いつか海の向こうへ旅に出よう

いつか山の天辺に登ろう

いつかトンビのように空を飛ぼう

いつかウミガメのように海を泳ごう

いつか友だちにごめんなさいと握手しよう

いつか母にありがとうと花を贈ろう

いつか図書館で借りたままの随筆集を返そう

いつか図書館の棚に忘れたままの栞を取りに行こう

いつか

いつかはいつ来るのだろう

いつ来るかわからない来ないかもしれないいつかを

路地裏でじっ

もっとみる
地下に潜む喫茶店

地下に潜む喫茶店

これは駅前ビルの地下に潜む喫茶店での話。

十月中旬のとてもよく晴れた日で、
平日にも関わらず人出は多く、
駅から公園へと続く道は表通りも裏通りも、
道幅一杯に沢山の人間と数匹の飼い犬で溢れていた。

人混みと大きな音と急かされることと
シチューに入ったさつまいもが嫌いな彼は
逃げ場を探していた。
北口から南口へ、踏切のこちら側から向こう側へ、人のいない方へいない方へ歩き続けた。

人のいない方に

もっとみる