見出し画像

[詩集]あのひと

あなたの後ろの冬の気配だけ
ずっとずっと感じるよ
空想だけひとり歩きの
ひとりぼっちの世界はきっと
一年、二年、百年と
寂しいことに変わりはないけど

影だけのあなた、影だけの僕、
すれ違う時は二人の気配
泡沫の砂の上に立ち、
ただ話したい、話したい

ここですべてに別れを告げても
あなたが居たことに変わりはない
また笑いたい、笑いたい

ここにライター一つだけ



詩集 あのひと




アドベンチャー

勘が冴えたこの夜に 転がる雨に気が付いた
闇夜の眼差しに含まれた
光の世界はアドベンチャー
僕の影踏む過去の誰かと隣り合わせに歩いた道に
迷い出した鼓動とあの人の気配。

僕の夜、出来うること、そのすべてを話しても
足りない理想の海に靴のまま浸かってみても
僕の世界を破れずに、飛べないことを分かっても
透明な羽根纏う、そういう気持ちでいたい

行けば行くほど、後ろの騒めきが気になる
この夜の俊敏は寝言の跡地を走り出す
行けば行くほど、朝靄は
いつもの場所に差し掛かる
この旅の到来は、眠りについた日を通り抜け
空白に塗りたくる手の平を躍るあの未来

連綿の日々は炎天 声が全速力で突き抜ける
川縁を描く、青い昼間を急ぐ
微かに笑う高架下、頬に足る斬新を
叢雲むらくもを仰ぐユーモアと流れ流れ夜が来る

行けば行くほど、後ろの騒めきに色落とす
この夜の1秒はきっと言葉の奥底を轟く
行けば行くほど、朝靄は
いつもの場所で振り向く僕を包み込む
蒙昧を飛び出す

勘が冴えたこの夜に 転がる雨に気が付いた
闇夜の眼差しに含まれた
光の世界はアドベンチャー
耳に入る音楽は 転がる雨に名を付けた
闇夜の眼差しに含まれた
光の世界はアドベンチャー


露光

遠い場所で咳を一つするあなた
それを朝が1時間早く来る合図とか
大きな視点で考えてみて、暇をつぶす夜
同じく遠い場所で咳を一つする自分は
さらに1時間、朝を早くする

山道をカーライトで下るように息をする
それは夜の独り言、あなたに対しての独り言
もうすぐ家が見えてきて、あなたのことも
じきに見えてくるだろう、そんな夜を重ねていく

轟音は希望の形をしている
あらゆる意味に輪郭を付けた夜の独り言
あなたに対しての独り言
もうすぐ空は白い気配で、
眠りの中のあなたの影も
じきに見えてくるだろう、そうして朝が来る

迷いと世界を行ったり来たり、
迷いと世界を行ったり来たり、


雨の轍

雨の轍消えた此処で
かの日の紅
忘れられないくらいの銀世界の虹
思い出した
君の話一つ聞かせて
嘘でもいいから
君の顔浮かび出した
アスファルトに立つ

ごめんね、そこで言葉の渦に
僕は回って夜な夜などこか
遠くの朝の踊る薫り
そこに居るからそこに居るから
カーテンの前で蹲る僕が重なる地平
君の話一つ数えて
日常の朝


雨の轍消えた此処で
かの日の儚い
忘れられないくらいの黄金の束を
思い出した
僕の話いつの間に翳り
本当の挟間
君の顔浮かび出した
雨上がりに立つ

ごめんね、そこで言葉の渦に
僕は回って夜な夜などこか
遠くの朝の踊る薫り
そこに居るからそこに居るから
カーテンの前で蹲る僕が重なる地平
灰色の壁の向こう
日常の朝


雨の轍消えた此処で
かの日の紅
雨の轍消えた此処で
かの日の儚い

雨の轍消えた此処で
かの日の紅
雨の轍消えた此処で
かの日の儚い


題名のない...

通り過ぎた
ほむらみたい、赤い、赤い雲
夜の帷と
花の見える川面へ
きっと僕の言葉は泥濘
行ったり来たり、行ったり来たり
それでも伝えたいな
伝えたい


題名のない…
題名のない気分は
今を逆再生して
すべてやり直しそう
題名のない…
題名のない寝言に
例えば、例えば
誰かを思い浮かべて


鮮やかに、鮮やかに
土手から見えたスターマイン
そうきっと知っていたはず
布団に入る前に
電柱、その先を照らす窓、眠る空
そうきっと知っていたはず


題名のない…
題名のない気分は
歌を逆再生して
違って聴こえてきそう
題名のない…
題名のない独り言に
例えば、例えば
意味を任せて

題名のない…
題名のない気分は
今を逆再生して
すべてやり直しそう
題名のない…
題名のない寝言に
例えば、例えば
誰かを思い浮かべて

例えば、例えば
誰かを思い浮かべて
色紙の隅に
書き出してみて


フレンドリー

ひとりぼっちを上手く消化できずに 
仕様のない悲しみだけ浮き彫りになる
底が抜けたらもう止まらない 
どこまでも行けるのか
夜が近付いていく 
暗い気分に暗い気分を上塗りして
物憂げな素振りを髪に隠して、ひたひた歩く

激しい銀河の慟哭 暗闇を帯びてそっと包んだ
達筆な月の輪郭を 続く山々を目でなぞった
ひとりぼっちの世界は まるで広くて 何でも置ける
でも寂しさと比例する 空回りの期待も膨らみ続けて

僕の話はすべて嘘さ
そう言って、いっそ手放したら
誰のことも気にせずに居られるから
ひとりになりたくないのに矛盾しているな

疲れても羽を休めず 心の上の灯火が
より轟轟と焚ける方向へ
まだ絵に描いた気持ちで駆ける
確かな鼓動と感覚を掴んで 
風は内から外へ沸きでる
心だけこの時代を先取りしていく

固い地面はまだ夜の蒙昧 最後方の中にいる
より深々と街は翳って
見えない灯りの鉱脈がひそむ
頭では出口があること分かっているのに
そこから早く出たいのに 
矛盾をどこかで重ね、重ね

激しい銀河の慟哭 暗闇を帯びてそっと包んだ
達筆な月の輪郭を 続く山々を目でなぞった
ひとりぼっちの世界は まるで広くて 何でも置ける
でも寂しさと比例する 空回りの期待も膨らみ続けて

踊る言葉たち 僕に見せてほしいよ
可能性の彼方まで 追っていく 追っていく
踊る言葉たち 僕に見せてほしいよ
可能性の彼方まで 追っていく 追っていく
闇と


日蝕

とりあえず一人を貫く
一人は、それは気楽だけれど
色々とすり減ることがある

仕方ないとばっさり捨てた過去は
まるで煙のように薄暗い
星は点々と
月の名の船は終着へ

通り過ぎた記憶はまるで
近くて遠い道すがら
見つめるガラスは鏡になって
立ち竦む僕と日蝕を写し

枝垂れ柳のように街を灯す
照明の中を汗ばみ急いだ
幼気な月とたがう明日の風は
心の波間をゆらす

おおよその幻と影を踊らせた指で
今までに呟いた言葉を弾いた。
忘れた約束の続きは夜へ向かい
塔のように見据える月に思い出そう

仕方のないとあっさりとけた過去は
ここで火のように暖かい
星は閃光を
月の名の船は早朝へ

通り過ぎた記憶はまるで
刹那の桃源郷
見つめる鏡はガラスになって
立ち竦む僕と日蝕だけ浮き出る


春の名前

軋んだ冬のブランコに名前を落としてきたらしい
そのまま遠くへ来たもので、心配そうな君
隅々まで名前のある世界にもうすぐ春の兆し
浮かない顔をする君にも、そのうち春は来るからさ

心配しないで、道は延々と柔らかい言葉だけ映すけれど
君の中では、そういうことじゃないだろうことを分かっている
君の名前を見つけることが宿命なんだと思っている
春の兆しを見つけたときは孤独ではないと思ってほしい

今、目に入る甲高いノイズを抜け出して
空回りの街の混沌、掻き消してみせるから
君の心が映す悪夢をここで忘れられるように
ネオンの中で望みだけを照らし出すから

おののかないで、道はそこから柔らかい方角を示すけれど
君の中では、そういうことじゃないだろうことを分かっている
君の名前はずっと昔の冬の景色を漂っている
春の兆しを見つけたときにイニシャルがふと浮き上がってくる

今、目に入る甲高いノイズを抜け出して
空回りの街の混沌、掻き消してみせるから
君の心が映す悪夢をここで忘れられるように
ネオンの中で望みだけを照らし出すから

過去を回想する、その中に君は居るんだ
ここで記憶を書き起こしたら
見えてくるんだ、君の記憶も、

加速する夜の轟音に思い出す君の記憶は
紛れもなく僕を色めく春だったんだ

君の名前を見つけることが運命なんだと思っている
一人だけの春の日に名前を呼びあえるよう


桟橋

桟橋に船が着く頃
夜は徐々に熱帯
眠りの横にながる風を聞き
残る季節を指で数える

この生活の路線図は
膨大でまだまだ端のない
どこまでも道を描ける
そう駆け抜けていく

星羅の夏を響くあの日、花火の音
羽をゆらす鈴虫と隣り合わせ

桟橋に船が着く頃
夜は徐々に薄白を帯び
水面に映る顔を見て
髪が伸びたことに気付く

この生活の路線図は
壮大でまだまだ知らない
どこまでも声は駆ける
そう駆け抜けていく

星羅の夏を響くあの日、漣の音
街の隙間を縫う意味と隣り合わせ

朝陽が昇り
次第にとけ込み
夜の片鱗を持ち寄り
そう駆け抜けていく

朝陽が昇り
次第にとけ込み
夜の片鱗を持ち寄り
そう駆け抜けていく
桟橋に船が着く頃


ラストシーンの向こう側

僕らの最深部のあの夏は欲しがったって手に入らない
最初から無いものだって思った方がいっそいいのかと思ったりもしたよ
よくある話を積み上げたその何気なさを振り返ることしかできないのだと

自転車に乗ってどこまでも行けそうさ
風に髪を泳がせて、全力で息を吐いたあの人の背はあの時のまま
段々自分だけ大きくなって、街と変わって、

あれから何年目の夏だっけ すっかり世界は別の物
時には恍惚とした日々に笑ったりもするけれど
記憶の中のあの人は僕に振り返らずに
眩しい後ろ姿だけを見せてはとけ込んでいった

僕らの最深部のあの夏は欲しがったって手に入らない
ラストシーンの向こう側に気付けば僕は居たみたいだよ
よくある話を手元に寄せたその何気なさを振り返ることも寂しいのだと

紙ヒコーキを飛ばしてどこまでも行けそうさ
心はいつも海岸沿い、音の無い凪のように緩やかで
段々自分だけ波打って、波打って、やがては変わって

あれから何年目の冬になるっけ すっかり世界は別の物
時には雪ふる道のりに笑ったりもするけれど
その分記憶のあの人は薄れていってしまうから
眩しい後ろ姿だけ靡かせてはとけ込んでいった

あれから光の青い方ずっと追っていたんだって
すっかり世界は別の物 それでも視界は前に伸び
あの人の居る遠くの街との縫い目が解けてくれますよう
ラストシーンの向こう側にも愛を込めて

僕らの最深部のあの夏は欲しがったって手に入らない
ラストシーンの向こう側で僕らまた会えたらさ
自転車に乗ってどこまでも行けそうさ
風に髪を泳がせて、全力で息を吐いた
あの人の背と



今回はすべて新作の詩集になりました。

前回と同じく、それぞれの詞における主人公の内面を起こした文章が多めです。

そして主に冬と春をテーマにした文章で構成しました。

今回は年内最後の詩集になります。
閲覧ありがとうございました!

他の詩集はこちらから見れます!




遠い汽車は海岸沿い、あなたを乗せて走り出す
背中にゆれる葉桜の春を影のように落としては
どこまでも見送ったのは、言いたかったことを
言葉よりももっと近付いて伝えたかったから

それは伝わらない、きっと伝わらない、
僕のとっくに錆びついた心の蓋をしずかに開けたのは
紛れもないあなた、紛れもないあなた
車窓にゆられて眠りにつく頃、外は夕凪

今此処で、春の空気をようやく感じる、春の空気をようやく感じる
サイダーみたいに透明な泡が弾けだしていく春の空気を
頬いっぱいに吸い込んでみた
君の街へと、汽車と駆け抜けていく萌芽の風よ

右左に踊る絵空事、胸に秘めているんだ、長らく
いつしか砕けて消えてしまう未来の裏で
再会のコードを弾いているんだ、おそらく
君の街へと、君の街へと、

それは伝わらない、きっと伝わらない、
僕のとっくに錆びついた心の蓋をしずかに開けたのは
紛れもないあなた、紛れもないあなた
宵闇に眠りにつく頃、僕は朝凪

今此処で、春の空気をようやく感じる、春の空気をようやく感じる
サイダーみたいに透明な泡が弾けだしていく春の空気を
頬いっぱいに吸い込んでみた
君の街へと、汽車と駆け抜けていく萌芽の風よ

駆り立てる春の空気は、春の空気は
頬いっぱいに吸い込んでみた僕とあなたの
境界線に、境界線に
夢に似た輪郭を描いて、空に溶けだす東雲色

遠い汽車は海岸沿い、あなたを乗せて走り出す
背中にゆれる葉桜の春を影のように落としては



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?