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センス・オブ・ワンダーを探して ~生命のささやきに耳を澄ます~

先日“プーと大人になった僕。”を鑑賞してきました。感想を一言でいうと、「プーさんはマスター オブ タオイズム」。大人になり仕事中心の忙しい毎日を送っているクリフトファーロビンに「大切なモノ」を届けるプーさんたちの大冒険という子どもでも分かりやすいストーリーですが、台詞がとにかく深くて大人が観てもいろいろなことを感じる作品でした。今回の推薦書は、映画の中でも重要なポイントとなっている幼少期の体験について書かれた、“センス・オブ・ワンダーを探して”です。

本書は生物学者の福岡伸一先生と、作家でテレビの司会者としても活躍する阿川佐和子さんの対談集で
「私たちにとって子供時代というのは一体どんな意味をもっていたのか?」という問いは生物学の問題だというところから始まります。

福岡先生が、ロシアを旅した時に訪れた生物学研究所で続けられているキツネを家畜化しようとする試みの中で、本来、野生のキツネは人間に慣れなくて人間が近づくと、吠えたり、威嚇して嚙みつこうとしたりするのが一般的なところ、研究所で選ばれた家畜化したキツネたちは、人を見るとしっぽを振り、近寄ってきて、そのまま人間に抱かれても平気だったという。これは研究者たちが野生のキツネを訓練してこのように飼い馴らしたのではなく、ここのキツネは生まれつき人間を恐れない。その理由はたくさんのキツネの中から人間を恐れないキツネを掛け合わせていったからで、さらに繰り返していくうちに不思議なことがわかったそうです。
それは「人間を恐れない」という性質に合わせて、白い斑紋の毛皮になり、耳が垂れて、顔が平たく「子供っぽい」外見になる。生物学用語でネオテニー(幼形成熟)という言葉があって、外見以上に子どもの期間が延びるとそれだけ柔軟性や好奇心に満ち、探索行動が長続きすることで、学びと習熟の時間がたっぷり得られ、キツネの研究でもヒトを恐れず、むしろヒトに好奇心をもち、ヒトに馴れるようになったキツネは知性的で、ヒトの言葉を理解し、わざと隠したものを探すことも簡単にできるという。

本書のタイトルにもなっている、「センス・オブ・ワンダー」はレイチェル・カーソン著の同名タイトルで、神秘さや不思議さにワクワクする感性という意味で、レイチェル氏はこんな言葉を残している。
“子育てに悩んでいる親たちは「あの鳥の名前すら知らないのに、どうやって子どもにセンスオブワンダーを刺激するような教育ができるだろうか」と嘆きの声をあげるけれども、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要じゃない。子どもたちが成長の過程で出合うことが知識や知恵を生みだす種子だとしたら、情緒や感受性はその種子をはぐくむ土壌のようなもので、子ども時代はその土壌を耕すときだ。”
そして、阿川さんから教えてもらった翻訳家の石井桃子さんの言葉がもっとも心に残った言葉だと福岡先生は言っていて“子どもたちよ。子ども時代をしっかりとたのしんでください。おとなになってから、老人になってから、あなたを支えてくれるのは子ども時代の「あなた」です”と子ども時代にいろいろなもののオーラを浴びることがその人をずっと支えていくとありました。

“子ども時代に余白を楽しむ時間を”という章の中で「本を読んだ後に何もしない時間がどれほど大切か。」とあり、“昔の子どもには本を閉じてからボーッとする時間があったけれど、今の子どもは次のスケジュールが入っているから、その前に読んで脳みそに残るものは知識と情報でしかなくなる。そこから新しい引き出しを作る時間がない”と問題提起されていたけれど、プーさんじゃないけども、「“なにもしない”を“する”」ことはとても大切なことだとも教えてくれる本書。秋の夜長にあなたのセンス・オブ・ワンダーを思い出してみてはいかがですか?

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