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2022年11月の記事一覧

【詩】海に

泳げなくても海に行きたい
歩けないけど山に行きたい
目が見えなくても絵を描きたい
眠れないからせめて
夢がみたいよ今夜はとくに

【詩】空腹

ややこしい味がする
食べ物を食べに行こうよ
美味しいって理解するまで
なるべく時間がかかるような
あれもできない
これもできない
何もできない体と頭を連れて
知らない町を散歩しようよ
ずっと満たされていたんだと
最後にやっと分かるような

【詩】物語

カップのふちに毒を塗ったのは私
何も知らずに飲みほしたのも私

侵略するためにやって来た宇宙人は私
たった一人生き残った地球人も私

勇者も村人も
婚約者も殺し屋も
喜ぶのも悲しむのも

愛しているのも
愛されているのも
みんな私の物語

【詩】夢なら

「こんにちは」
「あっ」
「お久しぶりです」
「夢かと思いました」
「夢ですよ」
「夢なんだ」
「私に会いたいんじゃないかと思って会いに来ました」
「会いたかったです」
「素直ですね、めずらしく」
「夢ならいいかと思って」

【詩】窓

窓はきちんと閉めてほしい
よくないものが混ざり込んでしまうよ
そういう部屋に私も
住んでいるから分かるよ
めったに吠えない犬が吠えている
電灯を点けるよりも早く
流れてくるニュース
誰かに背中を
押される気がする踏切
好きになったら
「好きだ」と言いたい
好きじゃなくなったら
手のひらを返したい
だからあなたがしたことを
裏切りだとは思いたくない
暗くてよく見えない景色を
わざわざ見ようとする人は

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【詩】海岸線

ぼくたちの名前をつなげると
あの海岸線になる
途切れることなんてなさそうな
綺麗で退屈な景色
滑舌が悪い君の
イエスかノーか分からない話し方
「恋がしたい」と思うことと
「死にたい」と思うことは似ている
それ以外の台詞を知らなかったから
ぼくたちの名前をつなげると
あの星座になる
途切れることなんてないと思っていた
イエスかノーかどちらでもよかった
ただその声を
ずっと聞いていたかった

【詩】やさしい日

抱きあう理由は ただ抱きあいたいから
それが許される気がした
春と夏のあいだのやさしい日
じゃれあう子犬たちの乳歯になりたかった
上手に淹れた苦い珈琲になりたかった
退屈なほど単純な愛の歌になりたかった

【詩】そのベルを鳴らして

誰の話をしても殺されたりはしないはずなのに
みんな同じ人を褒めて同じ人の悪口を言う
ここは雑音が多いから
肝心なところが聞こえない
だから雨がふりだしたなら
そのベルを鳴らして
どうか知らせてほしい
嫌いな人たちが
得意げに君の話をしている夢を見たんだ
昨日から耳鳴りがひどくて
肝心なところが聞こえない
だから雨がやんだなら
このドアをたたいて
どうかむかえに来てほしい

【詩】滑らかな世界

早口な人々が言葉をすりつぶして
世界はなめらかになっていく
皺のない脳みそみたいに
美しさと醜さの間に
線を引こうとする図々しい指先
太陽に忘れられた暗い朝
好きな人が「好きだ」と言った歌は
全然好きになれなかった
本当は穴だらけの世界で
ざらざらとした君の肌が
やさしく光っている