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『世界 魔法道具の大図鑑』制作の舞台裏/訳者の山崎瑞花さんにインタビュー。

希代のコレクターにして魔法使いのマラクルーナ氏が、世界中の魔法道具を集めて一挙に公開した本『世界 魔法道具の大図鑑』。本書で翻訳者デビューをはたした山崎瑞花さんにお話をお聞きしました。制作の舞台裏をご紹介します。(聞き手・編集部)

魔法道具フォト

▲イタリア語の原書と日本語版を手にした訳者の山崎瑞花さん

不思議な魔法書に一目ぼれ
無我夢中で訳した3カ月

――原書『Il Grande Libro degli Oggetti Magici』をお見せして、翻訳のご相談をしたのは昨年の6月末頃でしたね。ご覧になったときの感想はいかがでしたか?

 本当に突然、まったく思いがけないときに、不思議な魔法書が私のもとに舞い降りてきたという感じでした。マルコ・ソーマ氏の美麗なイラストが妖しいオーラを放っていて、見事に一目ぼれしてしまいました。かねてより、世界の神話や伝説に関心があったので、「何が書いてあるんだろう? とにかく、ぜったい読みたい!」と興奮しました。

――気に入っていただけてよかったです! 魔法道具が210個もあるうえに、道具が登場する作品も200作以上あるので、調べ物だけでもかなりの労力だったのではないでしょうか。

 はい。いざ訳者として巻末の文献リストから読みこみ始めたら、あまりも多彩な品揃えを前にして幻術が消え失せたと感じて、すさまじいプレッシャーで血の気が引きました。

――時間的な制約もあるなかで、苦労されたことや楽しかったこともあるかと思いますが、訳し終えてみていかがですか。

 正直いってまだ、「翻訳書」をものした、という自信はありません。無我夢中で文献リサーチにあたり、ミニコラム(大量の魔法道具の紹介文)を超速攻でまとめて、それをマラクルーナ氏に語ってもらっただけですから……。

――口調や文体を試行錯誤したすえ、マラクルーナ氏になりきって訳されていましたよね。魔法道具の紹介はスペースの制約があるので、そこに収まるようにまとめるのも大変だったかと思います。

 新米の訳者としては、本書の作者であるバッカラリオ、オリヴィエーリ両氏だけでなく、出典本の著者や、その翻訳者、愛読者の方たちにも深い敬意を払いながら、訳出することに心を砕きました。

 厳しい時間との闘いの中で極限状態に陥って、特に作業が集中した一か月間は、横になっても、まともに眠ることができませんでした。正直いって、SFやホラーやオカルト系とは今までほとんどご縁がなかったので、未知の世界の扉が開きました。そのあと、これからの目標として敬愛する方々とのかけがえのない出会いや、旧友との再会などのご褒美がやってきて、「偶然に見せかけた必然」を実感しています。

 しかも、こんなに美しくて楽しく、すばらしいメッセージが込められた豪華愛蔵本でデビューできるなんて、本当に幸せで、いまでも魔法にかかっているのでは? と疑ってしまうほどです。

「真鍮のベッドノブ」で
時空間を行き来したい!

――個人的に気に入っている魔法道具はありますか?

 私のお気に入りの魔法道具は、ベッドルームにある「真鍮のベッドノブ」です。

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 往年の“歴女”である私にとって、時空間を自由自在に移動できる道具は、のどから手が出るほどほしい至宝ですし、新米魔女のミス・プライスとも情報交換したいと思います。
 大化の改新の頃の大和朝廷、平安時代の空海の根本道場や大内裏の陰陽寮、中世ドイツ、ビンゲンのヒルデガルドの修道院、15世紀末のフィレンツェ共和国などなど、ぜひとも視察に行きたいです! モンテルキでマドンナを描いているピエロ・デッラ・フランチェスカや、石峯寺の庵にこもった伊藤若冲や、ル・カネの別荘の庭にいるピエール・ボナールとマルトにも、会ってお話しがしたいし……。

――夢がふくらみますね(笑)。ご自身では、なにか魔法道具をお持ちですか?

 うちには残念ながら「魔法道具」は無いのですが、たまに魔界よりお届け物をいただきます。その中で、私を文芸翻訳の世界にひきずりこんだ、すご腕アイテムの近影をご披露いたします。

すご腕アイテム 2

▲わが家の魔性のモノたち

いつか、自分らしい音色を響かせながら、
読者の心を動かせるような本を紹介したい

――マラクルーナ氏の世界観を生み出した、著者のバッカラリオ氏とオリヴィエーリ氏、絵を担当されたソーマ氏にはどのような印象をお持ちですか?

 本書は壮大なスケールのプロジェクトで、関わったひとすべてが、それぞれの忍耐力と犠牲的精神を振りしぼって、困難なお役目を果たしたのだろうと拝察いたします(少なくとも、私はそうでした…)。 

 バッカラリオ氏によると、魔法道具をリストアップした当初は、本書の巻末リストの3倍の長さだったそうです。オリヴィエーリ氏は神話・伝説集や民話を愛読する文学的なコレクターとして情熱を注ぎ、ソーマ氏は過去の文献をあたって図像学的な調査を行い、芸術作品において魔法道具がどのように表現されているかを探求し、一つひとつを制作されたそうです。
 私は3氏それぞれの独創的な発想や、情熱的な探求心に感嘆しながら、偉大な魔法使いたちの「使い魔」として、ひと夏の修練を積みました。

――最後に、これからの抱負をお聞かせください。

 国際的な見識を広げることが人生のテーマである私にとって、外国語で書かれた本を「講読」する動機は、異国の文化や著者の思念を深いレベルで追体験する醍醐味にあります。そして「翻訳」とは、自分の持てる知力で読みこんだ体験を、自分の言葉で解釈する作業であり、原書は「楽譜」、訳者はそれを演奏する「プレイヤー」のようなものだと理解しています。
 いつの日か、自分らしい音色を響かせながら、多くの方たちの心を動かせるような本をご紹介できるようになれたら、嬉しいです。

 最後に、さまざまな分野においてご指導いただいた先生方や、温かく応援してくださる家族や友人・知人、そして本書の読者の皆様にも、心より感謝申し上げます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました!

文  ピエルドメニコ・バッカラリオ、ヤコポ・オリヴィエーリ 
絵  マルコ・ソーマ  日本語版監修  小谷真理  翻訳  山崎瑞花

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【NetGalley会員レビューより】

・レビュアー 540565  (私のおすすめ度 ★★★★★)
あれもこれも時空を超えた魔法の世界。大好きな世界観である。
特筆すべきは、それぞれの部屋からウォーリーを探すようにアイテムを見つける楽しさ。
そして絵のトーンもどこか不思議な感覚になる。
冒頭にある間取り図みているだけで秘密の部屋を案内されているようだ。
この館の主は、魔法使いのライモンド・ゼービオ・マラクルーナ。
稀に見る魔法アイテムコレクター。
あっこの話知っている!
思わずニンマリしてしまった。


・メディア関係者 475393  (私のおすすめ度 ★★★★★)     タイトルからしてワクドキの本書。伝説や物語の中に登場する魔法道具がライモンド・ゼノービオ・マラクルーナと名乗る人物の館には所狭しとコレクションされています。マラクルーナ氏がどのようにしてこの道具と出会い、この道具にはどのような力があるのかが美しいイラストと共に紹介。あまりにも堂々と紹介されているので、本当にあるのではないかと思うほど。伝説や物語を知らずとも楽しめますが、知っているともっと楽しめます。「どんなお話だったっけ?」と思っても大丈夫。巻末に「所蔵品リスト」があり、あなたも氏と同じように魔法道具をたどる旅ができるようになっています。氏のリストから次の知の書物を探し出し、手にした時……あなたは氏の魔法にかかっているのかも?