見出し画像

生活力ゼロおじさんvs洗濯槽のカビ


1人暮らしを始めて約2年。

ようやく家事にも慣れてきた。

信じられないかもしれないが、最初は洗濯するのも苦戦していたのだ。

今となっては何に苦戦するのか分からないが、当時はとにかく必死だったのである。

35年間実家で暮らしたおじさんの生活力の無さを舐めてはいけない。

そんな生活力ゼロおじさんの前にこの度新たな敵が登場した。

それは「洗濯機の中」に潜んでいた

ここ数回、洗濯をした時、洗濯物にかつおぶしの様な茶色の何かが付いてる事があった。

僕は最初それを見た時

「あれ?ポケットにかつおぶし入れてたかな?」と不思議に思った。

しかし、僕はポケットに直にかつおぶしを入れるほどまだ落ちぶれてはいない。

人間、ポケットに直にかつおぶしを入れる様になったらいよいよである。

というわけで、洗濯物に付いてるのは何か分からなかったが「まあいっか」とスルーした。

僕は基本かなりのいわゆる「気にしい」なのだが、何故かたまに少年マンガの主人公の様な能天気さを発揮してしまう事がある。

そしてそれが必ずいつも悪い結果をもたらしてくるのだ。

数日後。

洗濯をした時、またかつおぶしが付いていた。

何となく前回より増えている気がする。

しかし僕は「まあいっか!それよりメシだメシ!オラ、腹減ったぞ!」

と少年マンガの主人公ぷりをさらに強めた。

そしてさらに数日後。

白いTシャツや白いタオルにかなりはっきりとかつおぶしがこびり付いていた。

まるで誰かが洗濯中の洗濯機の蓋を開け、パラパラッとかつおぶしをふりかけたかの様である。

お好み焼きやないねんから。

僕は「まあいっか!それよりメシだメ、、、」と言いかけた自分の頬を自分でビンタし、とりあえず調べてみる事にした。

答えはすぐに出た。

かつおぶしの正体、それは

「洗濯槽のカビ」である。

洗濯槽のカビ、何か聞いた事がある。

ていうかむしろよく聞いている気がする。

アリエールのCMで戸田恵梨香が毎回言っている気がする。

この何か「サビだけどっかでよく流れてて聞いてただけの曲が何かのタイミングでこの曲やったんや!て分かった瞬間の気持ち良さ」と同じものを僕は感じた。

ああ、これか!この曲が洗濯槽のカビか!ああ、そうか!知ってる知ってる!

みたいな。

ただテンション上がってる場合ではない。

何とかしなければ。

僕はドラッグストアに足を運んだ。


するとすぐに「洗濯槽クリーナー」という商品を見つけた。

めっちゃ簡単。

人生楽勝。

テキーラ持ってこい。

僕はあまりにも簡単に解決アイテムを見つける事が出来たため、人生を舐めてみた。

まあ、とにかくこれを使えばいけそうである。

早速購入し、帰って使ってみる事にした。

値段は何と200円。

めっちゃ安い。


家に帰り、説明を読む。

電源を付けた状態の洗濯機に本製品を全て入れ、水を上まで溜めて、通常の洗濯モードを選択し、最後まで行う。もしカスが残ってる場合はすすぎを2回ほど行う。

この様に書いていた。

普通の人なら「え、それだけでいいんや!めっちゃ簡単!」となるだろう。

しかし生活力ゼロおじさんはというと、、、

遠い目をして悲しみの表情を浮かべていた。


大切な人を失った後の大沢たかおの顔である。

僕が何故たかおの顔、いやFace of たかおになっていたかというと

「水を上まで溜めて」この部分がどうやったらいいのか全然分からないのである。

水を注入するにはどうすればいいのか。

そもそもそんな機能あるのか。

全くわからない。

何せこの洗濯機、貰い物なのである。

主食コーヒーのイケメンおじさんから引き継いだ物なのだ。

だから基本的な操作しか分からないのである。

普通の人なら貰ってから色んな機能を試したりするのかもしれないが

生活力ゼロおじさんは違う。

そんなフロンティアスピリッツは全く持っていない。

逆ナポレオンと呼んで欲しい。

だから水を上まで溜める方法なんて分かるわけないのである。

とはいえ、そんな事を言ってる場合ではない。

このままでは毎回洗濯物にかつおぶしが付いてしまう。

それを見た関西人が

「うわ、あの人服にかつおぶし付いてるやん!え、てかあれ服というかお好み焼きちゃうん!ソースとマヨネーズかけたれ!」

となっては困る。

東京に住んで2年。

僕は早くも関西人に偏見を持ち始めていた。

まあ何にせよ、とりあえずやってみる事にした。


洗濯機のスイッチを入れ、クリーナーを全て投入する。

もう後には戻れない。

そして問題の水溜めである。

一瞬洗面所の水道から水を汲んできて入れる方法も考えたのだが、何か違う気がする。

考えた結果僕は通常洗濯コースの最初の方にする給水を何回も繰り返す事で水を溜める事にした。

スタートボタンを押す。

すると勢いよく水が出てくる。

ある程度給水されるとそこから洗濯機が回り出し、洗濯を始めようとする。

そこを一時停止するのである。

そして一回止めてから、え〜止めてから、、止めてから、、、

僕は遠い目をして悲しみの表情を浮かべた。


Face of たかおである。

一時停止をしてからどうすればいいか分からないのだ。

どうすれば最初の給水に戻れるか分からないのだ。

苦悩の結果僕は一回電源を切る事にした。

分かっている。

こういう時、電源を切るは一番やってはいけない事。

しかしこれしか方法がないのだ。

方法が一つしかない時、いつだってたかおはそれを選んで突破してきたのだ。

僕は電源を切った。

そしてもう一度電源を入れ、スタートボタンを押す。

これで給水が始まれば、、、


ピピッ


エラー表示が出た。


「うああああああああ!!!」


僕は叫んだ。


砲丸投げの選手の様な雄叫びをあげた後、気を取り直してもう一度同じ事をやってみる。

ピピッ。

エラー表示が出る。

ちょっと選ぶコースを変えてみる。

ピピッ

エラー表示が出る。

他も色々いじってみる。

ピピッ

エラー表示が出る。

「うああああああああ!!!」


僕は再び吠えた。

めっちゃイライラする。

このままでは何人砲丸投げの選手がいても足りない。

てか、横の部屋の人から苦情きそう。

僕はとりあえず落ち着く事にした。

そして今まで押してなかった毛布コースを押してみる。

すると勢いよく給水が再開された。

どんどん溜まっていく水。

一気に最上段まで溜まる。

どうやら毛布コースは水を他のコースより使用するため、上の方まで溜める事が出来る様である。

これで何とか水溜めは成功である。

僕は遠い目をして、達成感に満ちた表情を浮かべた。

これもまたFace of たかおである。


水さえ溜めれば後は自動洗濯コースを選択し、終わるのを待つだけである。

めっちゃ簡単。

人生楽勝。

テキーラ持ってこい。

人生を舐めながら、ドラムを回転させている洗濯機のフタを開けて、中を覗いてみる。

!?

凄い量のかつおぶしが舞っている。

こんな事になっていたのか、、、。

ヤマキもビックリである。


とりあえず後は洗濯機に任して、僕は布団に寝転がりゴロゴロする。

YouTubeなどを見て時間を潰す。

洗濯のゾーンが終わり、次はすすぎに入った様である。

シャーと排水している音が聞こえる。

そしてガタガタと揺れ始める。

ん?

何か音が変である。

何か空で回っている様な。

僕は急いで一時停止を押し、洗濯機のフタを開ける。

開けて中を見た瞬間、僕は

右口角だけを上げニヒルな笑みを浮かべヤレヤレという表情をした。


Face of 渡部篤郎である。


洗濯機の中は空になっていた。

全て排水されている。

底にはかつおぶしの残党が張りついている。

ここから空で回り続けんの?

え、何の為に?

てか、潰れへん?

様々な疑問が湧いてくる。

このまま続けたらまずい気がする。

しかもかつおぶし底に張りついてるし。

僕はもう一度水を溜める事にした。

なみなみと注がれる水。

自動洗濯コースを選ぶ。

動き始める洗濯機。

それから約20分後。

僕は空の洗濯機と底に張り付いたかつおぶしを見て

右口角だけを上げニヒルな笑みを浮かべヤレヤレという表情をしていた。


Face of あつろうである。


何故同じ事を繰り返したのか。

自分でもよく分からない。

とにかくどうすれば終わるのか。

どうなれば終わりなのか。

そして最も重要な事。

洗濯槽クリーナーがすでに排水されてしまってるという事。


そう。

1回目ですでに洗濯槽クリーナーは無くなっているのだ。

どうしたらええねん。

洗濯槽クリーナー早々に無くなってもうたやないか。

ここからは丸腰で戦わなければいけない。

一体どうすれば。

と絶望する僕の目に洗濯機のメニュー上のある文字が映る。

そこには「槽洗浄」と書いてある。

な〜んや。

あるんやないの。

専用モードあるんやないの。

最初からこれ選んだら良かったやないの。

僕は意気揚々と槽洗浄を押す。

なみなみと注がれる水。

その水を見て僕は思った。

わしゃダム運営してんのか!?


さっきからどんだけ水使うねん!

これ水道代、大丈夫か!?

めちゃくちゃ水使ってんぞ!


とはいえ槽洗浄モードは順調に進んでいる。

もう水道代は諦めるしかない。

ここは槽洗浄モードに任せよう。

そう心に決めて僕は布団に寝転んだ。

それから3時間後。

僕は洗濯機の前に立っていた。

洗濯機には「残り9時間」と表示されている。

僕は遠い目をして、ニヒルな笑みを浮かべていた。


Face of たかお&あつろうである。


いや、残り9時間て!

どんだけ時間かかるねん!

日付け変わるやないか!

てか、終わる頃にはバイト行ってるし!

どおせえっちゅうねん!

こんなもんやってられるか!


僕は槽洗浄をストップし、普通の洗濯モードに変えた。

もうめちゃくちゃ。

これぞ生活力ゼロおじさん。

生活力ゼロおじさんが何かしようとすると、こういう事になるのだ。

こうして3度目の自動洗濯が始まる。

洗濯ゾーンを終え、すすぎに入る洗濯機。

排水して空で回ってる音が鳴る。

もうどうにでもなれ、とヤケクソの僕は止めない。

回転を一旦止め、再び給水する洗濯機。

もうどうにでもなれ、とヤケクソ、、、

給水?

給水すんの?

そう。

ようやく僕は気付いた。

すすぎはもう一度給水するのである。


僕が焦って止めてしまっていただけなのだ。

何という致命的ミス。

こういう事をいつもしてしまうのだ。

何事も焦りは禁物である。

それから10分後。

洗濯槽はピッカピカに輝いていた。


それを見て僕は「うお〜すっげ〜!ピッカピカに輝いてんぞ!!」と少年マンガの主人公ぽく言った。

こうして生活力ゼロおじさんの長い戦いは終わった。

かなり遠回りした様な気がするが、終わり良ければ全て良しである。

そういう事にしておこう。


戦いを終え、僕は改めて思った。

「生活力を上げたい、、、」


この記事が参加している募集

スキしてみて

100円で救えるにっしゃんがあります。