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ハロウィンの寿司屋さん


毎日更新159日目。

今日はハロウィン。

僕には関係のない日のように思われるだろうが、意外と僕はハロウィンが好きなのだ。

みんながコスプレしてる空間って結構楽しいと思うのである。

もちろん渋谷ハロウィンの無茶苦茶する奴とかは大嫌いだが、ハロウィン自体は割と好きなのだ。

というか、昔僕自身コスプレしてハロウィンに参戦した事がある。

今から8年前のハロウィンの事である。


2014年10月。

ハロウィンの前日に高校ラグビー部の友達から連絡が来た。

「明日、クラブに行かへんか!?」

ハロウィンのクラブ。

聞いただけで頭がクラクラする。

コスプレだらけのとんでもない空間になっていそうだ。

しかし「だがそれがいい」と僕は前田慶次ばりに不敵に笑い、「行こう!!」と返事を返した。

何かが起こりそうな、そんな予感がしたのだ。


当時のハロウィンは2018年や2019年のピーク時に比べると、まだ穏やかな雰囲気だった。

コスプレをする人数が増え始めて2.3年ぐらいのそんな時代だった記憶がある。

とはいえ、ハロウィンのクラブに行くとなると何かしらのコスプレをしておく必要がある。

僕みたいな太っちょが素で入って何とかなるような、そんな生易しい空間ではない事は容易に想像出来る。

ただ、本番は明日である。

衣装を買いに行ったりする時間が全く無いのだ。

もし時間があるのなら、僕の長年の夢である「アメリカンポリス」のコスプレをしたかったのだが。

衣装に悩む僕にある閃きが舞い降りた。

"昔コントで使ったお寿司屋さんの衣装を着る"

僕はコンビ時代に八百屋ネタが高評価を得た事に気をよくして、八百屋の類似品を量産しまくるという愚行を繰り返していたのである。

寿司屋さんはその類似品の一つであり、もちろんそんなにウケはよくなく、あえなくお蔵入りしていた。

その衣装を今ここで復活させて、ハロウィンに参戦するのである。

「ハロウィンで活躍出来れば、寿司屋の衣装も喜ぶだろう」

と本物のお寿司屋さんに聞かれたら怒られそうな事を考えながら、僕は寿司屋の衣装を棚から引っ張り出した。


ハロウィン当日。

友達と合流した僕はカラオケで寿司屋さんに変身する事にした。

京都の街にはすでにコスプレをした人達が大勢歩いている。

みんなクオリティが高い。

しっかりそのキャラになりきってるのが伝わってくる。

それに引きかえ。

寿司屋て。

どういう事やねん。

何や、寿司屋のコスプレて。

寿司屋はハロウィンの反対語やろ。

どうしよ、誰かに怒られたら。

お前ハロウィン舐めてんのかって。

いやまあ、怒られる意味もわからんけど。

大丈夫なんやろか。。。


と、ハロウィン当日になって僕はすっかり自分の寿司屋に自信を持てないでいた。

8年経った今、思う。

自分の寿司屋て何やねん。

普通に店について悩んでるお寿司屋さんみたいになってるやん。


まあ、悩んでもどうしようもないのでカラオケに入り衣装に着替える。

友達は何も持ってきていなかったので、その辺で買えるもので何とかする事にした。

久しぶりに寿司屋の衣装に袖を通す。

身が引き締まる思いである。

いや、数年ぶりに復職したお寿司屋さんか。


そうして完成したのがこちら。


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寿司屋、降臨。


どっからどう見ても寿司屋さん。

我ながらよく似合っている。

8年前なので今より痩せてたり若かったりするが、それでも完全に寿司屋さんである。

ただこの写真を見て「これは何をしている時の写真でしょう?」というクイズを出されて「ハロウィン!」と答えれる人は1人もいないだろう。

たぶん「仕事終わり、寿司じゃなくてマイク握りにきた寿司屋さん!」と答えるのが精いっぱいじゃないだろうか。


寿司屋さんへの変身が終われば、後は友達である。

友達は仕事終わりでスーツだったので、出来る事が限られていた。

そこで苦肉の策として、顔を包帯でぐるぐる巻きにし、るろうに剣心の志々雄真実のようにする事にした。

イスに座った友達の顔に僕が包帯を巻いていく。

何だか妙におかしい。

途中から僕は腹を抱えて笑っていた。

友達の志々雄真実の姿がツボに入ってしまったのである。

完成した頃には2人して息が出来ないくらい笑っていた。

「今日はこいつの日になる!!」

僕はそう確信した。

友達がみんなからチヤホヤされるはずだから、寿司屋はフォローに徹しよう。

そう心の中で決めたのである。

しかしこんな言葉がある。

「本番前、身内で盛り上がってる時は気を付けろ」

昔、孔子が言ったとか言ってないとか。

こうして僕達はカラオケを出て、クラブへ向かった。


クラブを目指し、京都の街を練り歩く寿司屋と志々雄真実。

異色の組み合わせである。

そしてしばらく歩いた後についにクラブの入り口に到着した。

いよいよ戦いが始まる、、、!!

緊張しながら僕達は入場した。

ちなみにここでいう戦いとは、もちろん

"パーナン"の事である。

僕達ラグビー部の数名は学生時代から今まで出来もしないくせに事あるごとにパーナンと口にするのだ。

成功率は驚異の0%。

一度も成功した事がないどころか、声をかけた事さえもほとんど無いのだ。

しかしそれでも懲りずにパーナンを掲げるのである。

ただ今回こっちには志々雄真実がいる。

いつもとは違う。

そう思いながら店内を歩いていた時。

「寿司屋や!!」

どこからともなくそんな声が聞こえた。

声の方向を見ると、ギャル数人が僕を指差している。

僕はとっさに

「へい、らっしゃい!!!」と叫び、ニカッと笑った。


さらに店の奥に進むと今度は男女数人のグループが「寿司屋おる!!」と言ってきた。

僕は「へい、らっしゃい!!!」と叫び、ニカッと笑った。

その後も

「寿司屋やん!!」
「へい、らっしゃい!!!」

「寿司屋笑」
「へい、らっしゃい!!!」

「え、寿司屋!?」
「へい、らっしゃい!!!」

「SUSHI!!SUSHI!!SUSHI!!」
「HEY!RASSHAI!!!」


まさかの寿司屋大人気。


寿司屋フィーバー到来。

競合が全くいない結果、目立つ事になり、かなりの人に声をかけてもらったのだ。

気分を良くした僕はチラッと横の志々雄真実を見た。

心なしか元気がない様に見える。

「お前、らっしゃいしか言うてへんな」と憎まれ口を叩いたりしている。

するとゾンビのメイクをしたギャル2人が「寿司屋や」と言ってきた。

そこで志々雄真実は「俺のこれ、どう思う?」と2人に感想を聞いてみた。

するとゾンビの2人はう〜んと考えた後

「怖い」と言った。

包帯ぐるぐる巻きの男がゾンビの女子に怖いと言われる。

その奇妙な光景を後ろで見ていた寿司屋はフッと微笑んだ。


しばらく時間が経った時、僕達は運命の出会いを果たした。

理由は分からないが「寿司屋が大好き」と言う女子に出会ったのである。

いわゆる「寿司屋フェチ」とでも言うのだろうか。

今回のコスプレに関して、願ったり叶ったりな相手である。

僕はカイジばりに「僥倖、、、!!」と天を仰いだ。

こうして僕達は寿司屋好きの女子とその友達と4人でクラブ終わりで飲みに行く事になったのである。

そう。

まさかのパーナン成功である。


居酒屋に入り、席につく。

僕は被っていた寿司屋の帽子を脱いで横に置いた。

すると寿司屋好きの女子の表情が曇った気がした。

まずい!!と思い、僕は帽子を再び被った。

そうなのである。

相手は寿司屋が好きなのであって、僕には全く興味がないのだ。

だから寿司屋の格好をしていないと

寿司屋の魔法が解けてしまうのだ。


寿司屋の魔法って何やねん。

シンデレラみたいに言うな。


飲み始めてからも僕達は苦戦した。

何せ、僕は本物の寿司屋さんじゃないのである。

ブッチギリの偽物なのだ。

「へい、らっしゃい」しかレパートリーが無いのである。

盛り上がるわけがない。

志々雄真実は包帯が邪魔でビールが飲みづらそうだ。

徐々に解けていく寿司屋の魔法。

しかし、僕達は何とか逃げ切った。

最終的に連絡先をゲットし、その場を終えたのである。

危なかったが、結果的には大勝利。

寿司屋と志々雄真実は清々しい気分で朝日を浴びたのである。


数日後。

僕はゲットした連絡先をさらに次に繋げようと色々思案していた。

しかし、どんな風にメールを送ったらいいか分からない。

そこでちょうど一緒に飲みに来ていたコマンダンテの石井ちゃんに相談した。

そして「この前はありがとう!今度また何人かで飲み会せえへん?」みたいなメールを送った。

するとしばらくしてこんなメールが返ってきた。

「そっちが飲み代出してくれるんならいいよ!」


寿司屋の魔法、解ける。


ハロウィンが終わり、寿司屋の魔法は完全に解けていた。

一目で分かる、脈なしメール。

メールを石井ちゃんに見せると珍しく激昂していた。

「何やこれ!」「こういう事言う奴一番嫌いやねん!」

普段の石井ちゃんからは考えられないテンションである。

確かに最終的にこっちが全額出すとしても、先言われるのは辛いものがある。

そして何やかんやで石井ちゃんが僕のメールを考えて代わりに打ってくれる事になった。

鬼の形相でメールを作成する石井ちゃん。

すぐにこんな文面が出来上がった。

「もし一緒に飲んで、俺らが面白くなかったら全額出すよ!
でも、まあ
そうならん自信はあるけどね!!!」


出来上がった文面を見て僕は思った。

きつい、、、


代わりに考えてもらって本当に申し訳ないんだが、きつい。。。

お前誰やねん感がもう凄い。

溢れ出る自信に胸焼けを禁じ得ない。

これを石井ちゃん本人が送ったのならまだいいのだが、一応送っているのはあの寿司屋である。

あの「らっしゃい」しか言わなかったニセ寿司屋である。

あのニセ寿司屋がこれを送ったと考えると、恐ろしいものがある。

お前この前すでにおもんなかったやんけ、と。

しかし、せっかく石井ちゃんが考えてくれたメールである。

それにこれが良い方向にいくかもしれない。

こういう事において、どう考えても自分の感覚より信用なるはずである。

よし、このまま送ろう。

僕はえい!と送信ボタンを押した。


そして。

あれから8年。

未だに返信はない。


こうして2014年のハロウィンは終わりを告げた。

最後はあれだったが、途中は非常に楽しかった。

また何か機会があれば、やりたいものである。



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