2020年3月福島取材⑭/常磐線全通の日
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<続き>
3/14。東日本大震災以後、9年ぶりの常磐線全通の日。
朝からローカルニュースはこれ一色、全国ニュースでも朝も夕方も夜もNHKで報道された。お祭り騒ぎだ。違和感を感じつつも、これが地元の声だろうなとも思う。僕自身、代行バスがなくなって6国を走れなくなる寂しさはあれど、これで取材が格段にしやすくなるのは事実。浪江までの移動時間が1〜2時間短くなるのだから。
複雑な感情を胸に、宿を出ていわき駅へ向かった。
始発は朝5時台でかなり早いので、僕はその次、第二便のいわき駅6:09発の電車に乗ることにする。
「6:09 HARANO-MACHI」の表示が新鮮だ。
まだ早朝、いくらマニアといえど、そんなに乗ってこないだろう…そんな僕が甘かった。
いつもならいわき始発のはずの電車が、ホームに行っても来ていない。あ、いわき以南から電車が来るのか、どれどれ…電車がホームに入ってくる。中を見ると、既に座席は全部埋まっていた。
半ば呆れながら、ボタンを押してドアを開け、電車に乗り込む。窓から写真を撮ろうと思いドアの側に立つ。みんな、カメラを構えて車窓の風景に興味津々だ。電車に揺られ、Jヴィレッジ駅に停車。Jヴィレッジ周辺のホテルに泊まったのだろうか、昨日も見かけた鉄ちゃんが何人か乗り込んできた。
富岡駅で何人かの乗客が降りた。住民らしき人はここまでほとんどいなかった。乗客はほぼ全て常磐線全通のこの日を目指してやってきた鉄ちゃんだ。いつもならここで終点だが、この日はここからも電車が動く。これまでは歩いて見ていた風景が、電車の中から見える。不思議な感覚に襲われた。楽になるな、と思いつつ、もう自力では六国は走れないな、と寂しくも思う。
富岡を過ぎてから、僕は人目も気にせずに線量計を取り出した。電車内の線量がどこまで上がるのか、調べなければ。線路上は入念に除染をしたばかりだし、代行バスよりスピードも速いので、そんなには上がらないだろうけど。夜ノ森が近づくにつれ、車内の線量は微妙に上昇し始め、0.4を超えた。
夜ノ森駅に着くと、電車には乗らず、車でやってきたメディアがテレビカメラを構え、何人もホームに立っていた。しかし、向いてる方向は電車ではない。
ホームの上で派手なヅラを被った人たちが、奇妙な踊りをしながら笑顔で常磐線全通を祝っている。僕にはあまり理解できないが、一つの象徴ではあるのだろう…その姿をカメラに収めていたのだった。
強烈な違和感を覚えつつ、この人たちは駅周辺のバリケードだったり実際の空間線量等は絶対伝えないだろうなと思いながら、そのメディアに向かって僕はカメラを向けた。
夜ノ森駅と大野駅の間、新しく出来た道路。周辺には何が建つのだろう。
熊川。
間も無く大野駅へ。
ところで、メディアは夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺が避難指示解除と伝えている。しかしそれは誤解を生む表現だ。実際に避難指示解除され人が暮らせるのは、夜ノ森駅の西側だけ(2017年3月にすでに解除済み)で、夜ノ森駅東側、大野駅、双葉駅周辺には人は住めない。立入規制が緩和されただけだ。
大野駅到着。ここで下車する。
双葉駅でのセレモニーが10:45スタートということをアワプラのHさんから聞いていたので、その前に大野駅周辺を見てみようと思った。この日の天気予報は昼前から雨が降り出すと聞いていたので、その意味でもちょうどいい。
大野駅についてみて、まずホームの上をはじからはじまで確認。ホームから帰還困難区域のゲートが見える。そしてホーム上の線量は、一番人が利用するであろう中央部付近は0.3μSv/h、しかしはじっこへ行くと、0.6μSv/hを簡単に超えた。ホーム上からして「放射線管理区域」だった。
真新しい改札を抜けて駅の中へ。ここは無人駅だ。Suicaをかざす場所があるが、18切符で来た僕はそのまま通り過ぎる。
駅構内にはカメラを抱えた僕みたいな物好きが何人か。マスコミらしき人もいる。
とりあえず東口へ降りてみる。向こうに見える公園は立入禁止だ。
大野駅周辺はバリケードばかり。TVメディアは双葉駅前ばかり映していたが、「帰還困難区域」の文字が見えると都合が悪いのだろう。
廃墟が見える。立入規制緩和だというのに、そのままなのか。
町役場まで5km、徒歩70分と言われたってなあ…
東口ロータリーへ出るなり線量計の数値が上がる。0.5を超え、0.8、0.9、1.0μSv/h…真新しい鋪装で、きれいに整備された駅前で1.0μSv/hを超える。
あのスーツケースの人はどこへ行くのだろう…
見慣れた看板だ。
そしてこの写真の反対側にはこのバリケードがある。何度も双葉郡に通っているが、僕は「通行できません」と書かれた看板はこのバリケードのことを指してるのかと思った。
交番も立入禁止。
大野駅東口ロータリー周辺にはバリケードが張り巡らされ、公園も立入禁止、9年前のまま放置された廃墟…なんだこれは…帰還困難区域であることを示す看板がいくつもあるが、東口の目の前の上り坂はそのまま行ける…?
僕は何も考えずに、反射的に坂を上っていった。
実はここは「車のみ通行可」だった。7枚前、信号のそばにあった警告看板は、この道のことを指していた。僕はそのことに気付かずに坂を歩き始めてしまった。
駅前ロータリーからあの信号に直行した場合、この警告看板には気付かない。というか、信号の下にバリケードも何もないのだからいけると思うのが普通だろう。
夢中でシャッターを切りながら、手元の線量計がどんどん上がっていく。1.5を超え、2.0を超え、道路の周りはバリケードばかり。
僕はここでマスクを装着した。
バリケードばかりの周りの風景と高すぎる空間線量。なんかおかしいぞ?と思いながらも警告のような看板も出て来ない…そしてT字路へ。
T字路。実はここを右に進めば、6国の最も線量の高いエリアまで歩けてしまう。この次の日、15日に電車で僕に声をかけてきた少年がいたが、彼は何も知らずにここを進み、6国まであと200mというところまで行ってしまった。手元にあった線量計は7.45μSv/hまで上がったという。
後日、大熊町役場に、ここにも警告看板を置くように要望したが、ちゃんと対策がなされたかは改めて確認しなければわからない。
<続く>
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