文脈くん
努力が時に命がけだ、という人は、成功とは何かという事を理解していない
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努力が時に命がけだ、という人は、成功とは何かという事を理解していない

文脈くん

ちょっと前に徳島からスタンフォード大学に合格した松本杏奈さんに関連してインターネット上で騒ぎが起きていた。

いわゆる徳島スタンフォード事件である。

この事件に関し、高須賀さんという医師の方が、Books&Appsでこんな記事を書いた。

この記事が、少なからず炎上した。炎上したのは、高須賀さんに、重大な「事実誤認」があるからだと思う。

まず、世の中には松本杏奈さんに対してこういう批判がある。

「お前が努力だと思っているものは、努力でもなんでもない」
「単に恵まれた人間の自己賛美に過ぎない」
「自分が恵まれた人間だという事をちゃんとわきまえてからモノを言え」

それに対して、高須賀さんはこんなふうに反論した。

「恵まれていたって、成長は痛い」
「恵まれていても、努力は全然ラクではない」
「己の中に背水の陣を敷く」

各論の詳しい内容は元記事を当たっていただくとして、高須賀さんは一貫して「努力は難しい」と言う。そして、それは「恵まれた環境だからできるわけではない」と言う。

その例として、エチオピアのマラソンランナーの話を取り上げた。エチオピアのマラソンランナーは、才能で走っているように思われがちだが、実は命がけで、それこそ「背水の陣」で走っている。それは、この本に書いてあると言う。

だから、やはり努力はだいじなのだと高須賀さんは言う。

しかしながら、高須賀さんのこの言には、重大な事実誤認がある。

まず、「エチオピアのランナーだって努力している」という話だが、近年、この考えはむしろ科学的に否定され始めている。詳しくは、ビル・ゲイツも推薦したこの本に書いてある。

また、サンデル教授のベストセラーになったこの本では、教育が進歩した結果、実力は努力ではなく才能で決まる割合がどんどん高まってきていると書かれている。

そのため、今は努力ではなく、運(才能)による格差が広まりつつあるのだ。

こうした最新の科学的見地を総合すると、今の世の中は才能>環境>努力となっている。なんと、環境でさえ、それほど大きな要因ではなくなっているというのだ。そのことは、この本に詳しく書かれている。

だから、努力の素晴らしさを説いたりするのは、あまりにも時代遅れと言わざるをえない。高須賀さんは医者らしいが、それならなおさら「非科学的」のそしりは免れないだろう。

「努力よりも環境や才能」ということは、ぼくの実体験とも合致する。ぼくは、幸運にもベストセラーを一冊だけだが出すことができた。しかし、そのために努力したかというと、そんなことはない。この本は、ほとんど努力することなく、楽しく書くことができた。

その一方で、ぼくがぼくの人生で全く努力しなかったというと、そんなわけでは全然ない。ぼくにも、とても努力した経験があった。それは、「モテる」という分野においてだ。

ぼくは、昔から女の子にモテなかった。しかし、女の子にモテたいという気持ちが強かった。だから、モテるためにめちゃくちゃ努力した。あるときなど、モテるために15キロダイエットしたほどだ。

ところが、結果は全くといっていいほど変わらなかった。死ぬほど努力して、15キロダイエットしたからといって、モテるということにはならなかった。それどころか、皮肉なことに減量したら、「顔が怖くなった」と言われ、以前よりモテなくなったくらいだ。

そんなふうに、現代は「『努力がだいじ』ということの嘘が暴かれた時代」といっていいだろう。それなのに、努力を称揚する松本さんや高須賀さんの発言は、あまりにも時代遅れだし、また無神経ともいえるだろう。

ぼくは、サンデル教授の言うように、これからの時代は「才能に恵まれたからといって、優遇されすぎるのは良くない」という考えがだいじだと思っている。そこには、バランスを取るための富の再分配や、皆が幸せになれるような社会制度が絶対に必要だ。

一方で、これからはどんな人でも「自分の才能を見つけ、それを伸ばす」という生き方がだいじになるのではないかとも思う。まずは家庭や学校が、そういう教育することが必要だ。

ぼくは、幸いにも本を書く才能があった。だから、ベストセラーを出せた。本を書く仕事をしていて、本当に良かったと思う。

しかしこれが、例えば「アイドル」の仕事をしていたら、大変なことになっただろう。死ぬほどの努力をしても、きっとちっとも人気が出なかったはずだ。そうして、今頃は路頭に迷っていただろう。

そんなふうに、これからの時代は「才能の重要さ」を認識し、それを見つけ、伸ばすという考えがもっと広まるべきだと考える。また、そこにおいて人々も、自分のやりたい仕事よりも、自分に才能の合った仕事をした方がいい——という考えも広まればいいと思う。
もちろん、好きなことをするのは自由だが、それはあくまでも趣味程度にとどめておいた方がいいのではないか。ぼくは、実体験からそんなふうに考えている。

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ぼくは以前、『マンガの歴史』という本を編集した。その際、編集者として過去から現在に至るまでのマンガの知識を深めるため、大量のマンガを資料として読み込んだ。

しかしこれも、けっして努力したわけではなく、好きでやったことだ。だから、ちっともつらくなかった。その際、ぼくがすごいと思ったおすすめのマンガはこちらです。


おしらせ

今度、「第8回岩崎夏海クリエイター塾」という私塾を開講します。こちらでは、ダイエットについての議論もしていますので、ご興味のある方は、よろしければこちらの記事をご覧ください。

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