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ラブニコフX
2022年12月16日 13:15
近さは遠さの反対ではなく恐怖と希望は反対ではなくやって来ることと行ってしまうことは反対ではなくそこになにがあろうともH-よ18地区の階段の落書きより目指すべき建物に着いた。その前に立ち、全貌を確認しようとした。縦にやたらと細長い建物は、薄汚れたピンク色をしていた。6階建てのようだったが、最上階辺りは朽ち果てており、内部が露出している。周りに同じくらいの建物がないせいか、まるで街に一
2022年12月9日 19:51
4ここがどこだかわからないけれどもここは私の生きた場所そしてきっと誰かが産まれる場所ここにいることは罪であり幸福でありJ-の61地区の公衆トイレの落書きより私は光を目指して歩いた。スラムが放つ妖艶な光を目指して。思いの外、スラムは近くにあった。さして苦労することなく、スラムまでやって来ることができた。スラムは巨大な防護壁によって守られていた。防護壁といっても、大量の瓦礫を積み上げた
2022年11月25日 21:05
3甘い時間の匂いがする肉と乳の香りであるここで私は生まれ私は死んでいくここでは暖かさが育まれ憎しみが育まれ繰り返す生命の定めが育まれH-に77地区の分電盤の落書きから目が覚めると、ひんやりとした空気に包まれていた。嗅覚が回復してくるとカビとホコリの匂いがすぐに感じられた。起き上がると、あのビルの廊下にいることがよくわかった。もう日が暮れていた。一体何時間ここに寝そべっていたのだ
2022年11月18日 10:09
2私は再び歩き出した。人垣と“SENSE”から開放された私は、焦りとは裏腹に軽やかなステップを踏んでいた。角を曲がろうとしたときだった。“ヤツ”がいた。バグワームだ。バグワームは「生き物」ではない。“SENSE”のバグから発生し、人の脳内の「記憶」によってその形を得る。最初に現れたのは30年ほど前だ。“SENSE”の発信装置の一つにバグがあり、それがそのまま通常の“SENSE”と同じように
2022年11月12日 14:49
1旅立ちかと思えばそれは帰り道でもある始まりのようでいて終わりでもある名前のない子よG-く66地区の壁の落書きより「ようこそ!」大袈裟な身振り手振りを交えながら、古めかしいブルーのスーツで決め込んだ中年男が目の前に現れた。調子のいい口調で男性用育毛剤を勧めてくる。私は首を横に振った。すると男はたちまちに消え失せた。この日も地下坑道は人でごった返していた。そのなかを私は急い