ラブニコフX

映画と街中華を愛する映像ディレクター。ドキュメンタリー映画を中心にレビューしてみたり、…

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映画と街中華を愛する映像ディレクター。ドキュメンタリー映画を中心にレビューしてみたり、時事問題について思考実験してみたり、映像編集のコツを解説してみたり、なんとかかんとか。あと連載小説はじめました。

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  • 「記憶は甘味な終末への道」

    SF短編小説

最近の記事

『エブエブ』を制作した「A24」とは一体??おすすめ作品ベスト5

今世界で熱狂的なフォロワーを生んでいる、アカデミー賞7冠映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、通称「エブエブ」。この映画を制作したのは「A24」という会社である。2012年に設立されたA24は、映画製作と配給を行う会社で、インディペンデント映画界で急速に有名になった。業界のベテランであるダニエル・カッツ、デヴィッド・フェンケル、ジョン・ホッジスによって設立されたA24は、わずか10年足らずの間に、同社は映画界に大きな影響を与え、広く批評家の称賛を浴びるま

    • 『エブエブ』の監督 "ダニエルズ"のおすすめ作品3選

      今年のアカデミー賞で7部門のオスカーを独占し、今世界中でブームを巻き起こしている「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」 、通称「エブエブ」。本作の監督と脚本を担当としたのは「ダニエルズ」という、2人のダニエルだ。 ダニエルズとは、監督・脚本家コンビであり、ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートの二人からなるチームである。彼らは映画、ミュージックビデオ、CMなど幅広い分野で活躍しており、独特のユーモアと斬新なアイデアで多くのファンを魅了している。 では、そん

      • 「ポスト・クラシカル」の進化

        ポストクラシカルは、伝統的なクラシック音楽への反発から20世紀後半に登場した、驚くほど多様で多彩なジャンルである。クラシック音楽の要素をエレクトロニック、アンビエント、エクスペリメンタルなど他のジャンルと融合させ、独自のサウンドスケープを生み出し、多くの人々の心を掴んできた。今回は、ポスト・クラシカルの歴史に触れ、このジャンルを形成した主要なアーティストや楽曲を紹介する。また、新進気鋭のアーティストを紹介し、現在の音楽シーンにおけるポスト・クラシカル意義とは何なのか、考察して

        • 「トリップ・ホップ」のDNAは今も生き続ける

          皆さんは「トリップ・ホップ」という音楽ジャンルをご存知だろうか。おそらく、今の20代以下の世代は「?」なワードだろう。 トリップホップは、90年代初頭にイギリスのブリストルから生まれたジャンルで、ヒップホップ、エレクトロニカ、ソウルフルなメロディーを独自に融合させ、催眠的でアトモスフェリックなサウンドを生み出し、今もなおコアなファンの心に響いている。 今や過去の遺物とも思われがちだが、昨年もBurialが新曲を積極的にリリースするなど、未だにその流れは途絶えていない。 今回は

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        • 「記憶は甘味な終末への道」
          5本

        記事

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(最終回)

          近さは遠さの反対ではなく 恐怖と希望は反対ではなく やって来ることと行ってしまうことは反対ではなく そこになにがあろうとも H-よ18地区の階段の落書きより 目指すべき建物に着いた。その前に立ち、全貌を確認しようとした。 縦にやたらと細長い建物は、薄汚れたピンク色をしていた。6階建てのようだったが、最上階辺りは朽ち果てており、内部が露出している。周りに同じくらいの建物がないせいか、まるで街に一つだけ高くそびえる天守閣のように見えた。

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          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(最終回)

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(4)

          4ここがどこだかわからない けれどもここは私の生きた場所 そしてきっと誰かが産まれる場所 ここにいることは罪であり幸福であり J-の61地区の公衆トイレの落書きより 私は光を目指して歩いた。スラムが放つ妖艶な光を目指して。 思いの外、スラムは近くにあった。さして苦労することなく、スラムまでやって来ることができた。スラムは巨大な防護壁によって守られていた。防護壁といっても、大量の瓦礫を積み上げたものでしかないが。 正面から入ることはできない。私の体はすでに右半身はすべて変形

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(4)

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(3)

          3甘い時間の匂いがする 肉と乳の香りである ここで私は生まれ 私は死んでいく ここでは暖かさが育まれ 憎しみが育まれ 繰り返す生命の定めが育まれ H-に77地区の分電盤の落書きから 目が覚めると、ひんやりとした空気に包まれていた。嗅覚が回復してくるとカビとホコリの匂いがすぐに感じられた。起き上がると、あのビルの廊下にいることがよくわかった。もう日が暮れていた。一体何時間ここに寝そべっていたのだろうか。 妻の顔を思い出した。急に体の重みを感じた。自分はここにいてはいけない

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(3)

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(2)

          2私は再び歩き出した。人垣と“SENSE”から開放された私は、焦りとは裏腹に軽やかなステップを踏んでいた。 角を曲がろうとしたときだった。“ヤツ”がいた。バグワームだ。 バグワームは「生き物」ではない。“SENSE”のバグから発生し、人の脳内の「記憶」によってその形を得る。最初に現れたのは30年ほど前だ。“SENSE”の発信装置の一つにバグがあり、それがそのまま通常の“SENSE”と同じようにある人の脳にローディングされた。バグは脳内をスキャニングした後、その脳と生命体を

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(2)

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(1)

          1旅立ちかと思えば それは帰り道でもある 始まりのようでいて 終わりでもある 名前のない子よ G-く66地区の壁の落書きより 「ようこそ!」 大袈裟な身振り手振りを交えながら、古めかしいブルーのスーツで決め込んだ中年男が目の前に現れた。調子のいい口調で男性用育毛剤を勧めてくる。 私は首を横に振った。すると男はたちまちに消え失せた。 この日も地下坑道は人でごった返していた。そのなかを私は急いで歩いた。 地下坑道はどこまでも延々と続く。人混みも途絶えることはない。あの「終

          【連載小説】「記憶は甘味な終末への道」(1)

          【映画レビュー】「私の帰る場所」(Netflix)

          本作はアメリカを舞台に、家を失ってホームレスとしてクラス人々にカメラを向けたドキュメンタリー作品。 老若男女、様々な理由で路上生活者となった人々のインタビューを中心にまとめられている。 Netflixで公開中。 「帰る場所がない」ということ 彼らの共通点は、家が(一時的にでも)ない、もしくは過去になかったことがあるというところだ。 家は、生活の基盤、土台だ。 仕事や人間関係を獲得していくうえで、家という「帰るべき場所」があるということが、いかに重要かを思い知らされる。

          【映画レビュー】「私の帰る場所」(Netflix)

          「民主主義VS独裁主義」が陥りかねない大きな”落とし穴”

          今、アメリカのバイデン大統領主催で「民主主義サミット」が開催されている。 オンライン形式のこの会合のなかで、バイデン大統領は「世界中で独裁者が力を増し、人権侵害は拡大している。」と危機感を示した。 さらにハリス副大統領は「民主主義が現在、脅威にさらされている」と続ける。 念頭にあるのはもちろん中国(サミットには不参加)であることは間違いないが、たしかに今、世界にはアフガニスタンや北朝鮮のような独裁主義国家が、ここ半世紀のなかでもかなり力を増してきている用に思える。 実際、

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          200円のポカリこそ、最も高価なもの。

          まだ小さかった頃、 小学生低学年の頃だが、自分の夢は「2リットルのポカリを買って旅に出ること」だった。 今思い出すと笑ってしまうが、その時の自分にとっては2リットルのポカリ、 金額にして200円ほどだろうが、それが「夢」でさえある高級品だったのだ。 お小遣いはほとんどもらっておらず、100円のジュースさえ自分で買うのが難しかった。 だから、200円のあのどデカいポカリを豪快にがぶ飲みすることを憧れた。 沢山歩いて、沢山汗をかいて、大量のポカリを喉に流し込む。 それが夢だ

          200円のポカリこそ、最も高価なもの。

          「AIとの共生」に潜む2つの問題点

          日経電子版にこんな記事がでていた。 AIが人口減少・労働人口の現象に対する解決策となるとの予測がでている。職を失う可能性のある労働者側の反発は必至だが、しかしそれは繰り返されてきた歴史でもある。 逆に、AIの普及はAI技術者といった雇用を新たに生み出す。 確かに労働人口の現象は今の経済システムを考えれば問題であり、出生率を爆発的に上げる方法はおそらくないので、AIはその有効な解決手段としてもはや無視できない。 「AI脅威論」はもはや時代遅れの発想、であるという。 しかし

          「AIとの共生」に潜む2つの問題点

          【映画レビュー(後編)】「ボクたちはみんな大人になれなかった」 〜90年代は輝いていた!?〜

          本作で主人公(森山未來)が美しい記憶として思い出すのは90年代中盤。 ルーズソックスで女子高生が渋谷の街を闊歩し、ノストラダムスの予言をバカにしながらも、どこか時代の徒労感も相まってそれに真実味を感じてしまう世紀末。 原作者がどういう想いで描いたかは別として、この映画が今制作され公開されたのには戦略的な思惑があるだろう。 というのも、今世は90年代ブームだそうだ。 ルーズソックスが再び流行っているというのには驚いた。 ブームは周期的に巡るというが、まさかあのダボダボ感

          【映画レビュー(後編)】「ボクたちはみんな大人になれなかった」 〜90年代は輝いていた!?〜

          【映画レビュー(前編)】「ボクたちはみんな大人になれなかった」

          ウェブサイトで連載中から話題となり、2017年に書籍化された、燃え殻さんの半自叙伝的小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が映画化。 出演は森山未來や伊藤沙莉、東出昌大、SUMIRE、篠原篤など。 ※以下ネタバレ含む ストーリーとしては、日々を漫然と過ごして行きている会社員の男が、ある日20歳のときに付き合っていた彼女がFacebookの「友達ですか?」に現れ、そこから記憶が蘇っていく・・・というもの。 いわゆる「遡る系」で(そんなジャンルがあるかは知らないが)、現

          【映画レビュー(前編)】「ボクたちはみんな大人になれなかった」

          「否定」を否定してしまうこと

          「論破」とかロジカルシンキングがもてはやされる時代だ。 人に話すときは論理的に!と、本屋のビジネス本コーナーには強めの言葉が並ぶ。 結論を先に!PREP方で話して!とかなんとか。 選挙では、野党に対して与党批判だけしててもしょうがないから対案を出せ、とよく言われる。 先日行われた立憲民主党の代表選で新たなリーダーとなった泉氏も、就任演説でしきりに「批判だけでなく対案を出せる政党に変化する」とアピールしていた。 確かに、頭ごなしに否定することは簡単だし、誰にでもできる。 そ

          「否定」を否定してしまうこと