記事一覧
【短編小説】大きくて切ない
「映画、面白かった?」
彼女はそう言って、コーヒーがなみなみと注がれたカップにそっと唇をつけた。草原を撫でる息吹のように、ふうと息を吹いて立ち上る湯気を押しやる。僕の答えなどどちらでもいいようだった。彼女が二度息を吹きかけ、その黒い液体を口に含むのを待ってから僕は「つまらなかった」と言った。映画を見る前に彼女へ言ったように、人間が演じていると思うとどこに感情移入すればよいか分からなくなるのだ。
【短編小説】クリスマスホーリー
愛じゃなかったのだろう。分からない。形が変わり果てただけなのかもしれない。腐っても鯛という言葉があるように、それも愛なら、私は愛として受け取らなければいけなかった。
12月の初めに彼と別れた。彼はそれが誠実さであると信じているかのように私に告白した。あの時と同じようにじっと私の唇ばかりを見ていた。状況が上手く飲み込めなかった。赤く塗った唇だけがひとりでに笑い、言葉を発した。それは私の言葉では
詩集「水に浮かぶ愛」
手紙
君を見ていると好きな子への手紙を思いだす
結局、何も書けなくてぐしゃぐしゃにして破り捨てたんだ
僕は字が汚かった
きっとそれが原因な気がする
寂しさ
寂しさには慣れた、と私は声にだして言ってみる
しかし寂しさからの返事はない
我慢できるって意味なのと付け加えみた
あなたと出会ってから原因不明の寂しさに襲われることはなくなった
原因明白な寂しさになったから
あなたにあだ名をつけ