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「言い換え表現」に着目すれば,問題文を読まずに2択に絞れる!

❖清水義範著『国語入試問題必勝法』の真

「ピントが外れている文章こそ正解!」
「問題を読まないでも答はわかる!?」
清水義範の小説『国語入試問題必勝法』(講談社)の紹介文です。「出題者心理」の洞察から導くトリッキーな解法には,「さもありなん」と思わせるリアリティがあり,最初に読んだときは腹を抱えて爆笑しましたね。もちろん,サビの利いたパロディですので,これを真に受けて「試してみよう」などという受験生はいません(落ちます)。
ところが丁寧に読んでみると,国語入試問題の真実を言い当てた「解答の着眼」 も書かれていて,こちらは実際の試験でぜひ使ってください。

❖「長い人生」を6字で言い換えた神解答!

同書p.56からその部分を引用します。
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 主人公寿賀子は自分の人生を振り返ってどういうことを考えたか。六字以内でまとめよ。
このむつかしい問題に対し,一郎は即座に解答した。
〈色々あった。〉
「見事だ。句読点も含めてたったの六字で,主人公の人生への思いをまとめきっている」
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この解答が「見事」なのは,主人公の長い人生を超コンパクトに「色々あった。」と要約した点にあります。「要約」は一種の言い換えですが,国語入試問題では,この「言い換え表現」が正解を発見するキーとなるのです。

❖「言い換え表現」に着目して選択肢を刈る!

「言い換え表現」に強くなれば,国語入試問題に強くなれます。問題文を読むことなく選択肢を絞り込め,あわよくば一発で正解に達することさえできます。分かりやすい例で説明しましょう。
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設問:傍線部「涙腺が崩壊した」(X)とあるが,それはどういうことか。
解答:涙があふれ出て止まらなくなった(Y)ということ。
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「涙があふれ出て止まらなくなった」(Y)が「涙腺が崩壊した」(X)の言い換え表現になっています。つまり,X=Yですので正解です。
設問で「傍線部とあるが,それはどういうことか」と問う以上,すべての選択肢に「(それは)Yということ」が書かれます。X=Yであればマル,X≠Yならバツということです。

❖論より証拠,実際に問題を解いてみよう!

実際に,次の例題を「問題文を読まずに」解いて試してみましょう。
例題】
下線部B「クリエイティブな対話」とあるが,これはどのようなものか。その説明として最も適当なものを,次のa~dのうちから一つ選べ。


相手の言葉を正しく理解するだけでなく,相手の意図をより的確に表現できる言葉を模索しながら議論を進めることで,誤解や行き違いをなくして客観的な正しさを保証し,誰もが納得できる明白な表現を生み出すような対話。

相手の言葉を正しく理解するだけでなく,相手が言葉で表現しきれていない意図までも推し量り,隠れた意図を引き出す手助けをすることで,互いの思考を活性化させて共に新しい発想を生み出すような対話。

相手の言葉を正しく理解するだけでなく,論理の正確さにこだわらず議論することで互いの仲を深め,主張を徹底的にぶつけ合えるようになることで,自由な発想で両者にとって未知の概念を生み出すような対話。

相手の言葉を正しく理解するだけでなく,誤解が起こらないよう自分の意見を明確に示して相手の意見とすり合わせることで,双方の利益を実現する道を模索し,どちらも得をするアイディアを生み出すような対話。
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出典:川崎医療福祉大学2022年度学校推薦型選抜後期[B日程]基礎学力確認テスト,第2問の問4,問題文は齋藤孝「コミュニケーション力」。

❖「クリエイティブ」の言い換え表現はbとc

どの選択肢も,それなりに正しそうなことが書かれており,とてもよく練られた良問です。ポイントは,a~dの選択肢に「クリエイティブ」の言い換え表現が含まれているかどうか,最後のフレーズに注目しましょう。
 a:明白な表現を生み出すような対話×
 b:新しい発想を生み出すような対話〇
 
c:未知の概念を生み出すような対話〇
 d:得をするアイデアを生み出すような対話×
「クリエイティブ」に「創造的・独創的」の意味があることは,中学生でも知っています。その言い換え表現としてbとcは該当しますが,a「明白な表現」とd「得をするアイデア」は明らかにダメです。
問題文を読まずして2択まで絞れました。

❖「傍線部の言い換え表現」を本文中に探す

では,bとcのどちらが「最も適当」なのか。残念ながら,ここから先は問題文(本文)に戻って正誤判断をしなければなりません。大原則は「本文に書かれていればマル,書かれていなければバツ」です。
ただ,広大な本文を最初から読み直してチェックするのは苦痛ですし,あまりにも時間がかかり過ぎます。そこで,傍線部を言い換えた文章なり段落なりが,本文中のどこにあるのかを探します。
通常,傍線が引かれた文やフレーズが,本文中にいきなり出てきて消えることはありません。その前に述べられたこと,その後に書かれていることをコンパクト(抽象的)に言い換えたフレーズに傍線が引かれるのです。
ですから,傍線部の言い換え表現は,本文では傍線部の近くに書かれていることが多いのですが,これを参照範囲と呼びます。傍線部(A)の言い換えである参照範囲(C)ですから,当然,A=Cです。

❖手順は1つ,作業は3つ──マッピング解法

そうすると,以下の論理(三段論法)が成立します。
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ⅰ)傍線部(A)を言い換えた「正解の選択肢」(B)はA=B・・・・・①
ⅱ)傍線部(A)を言い換えた本文の参照範囲(C)はA=C・・・・・・・②
①,②より,B=Cであるから,
「正解の選択肢」(B)は本文の参照範囲(C)の言い換えである・・・③
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この論理を1つの「手順」として,そこに具体的な「3つの作業」を設定したものが《マッピング解法》です。
【手 順】  言い換え表現を結びつけて「正解の選択肢」を導く
〔作業①〕傍線部の言い換え表現を選択肢中に探す
     ⇒〈傍線部──選択肢〉マッピング
〔作業②〕傍線部の言い換え表現を本文中に探して「参照範囲」とする
     ⇒〈傍線部──本文〉マッピング
〔作業③〕選択肢の言い換え表現を「参照範囲」の中に探す
     ⇒〈選択肢──参照範囲〉マッピング

❖マッピング解法は“新奇”なものではない

先の【例題】で選択肢をbとcの2つに絞ったのは,〔作業①〕の〈傍線部──選択肢〉マッピングによるものです。このあと,〔作業②〕と〔作業③〕を経て,最終的にbを正解として確定します。
たとえば,選択肢bの「相手が言葉で表現しきれていない意図までも推し量り」は,本文の参照範囲「相手がすべての言葉で表現し切れていない事柄までも,想像力や推測力でつかみ取り」の言い換え,「隠れた意図を引き出す手助けをする」は,本文の参照範囲「『おっしゃりたいのは,・・・・・・ということではないでしょうか』と提案する」の言い換えになっています。
選択肢cが不正解なのは,「議論することで互いの仲を深め」と「主張を徹底的にぶつけ合えるようになること」が本文の参照範囲に合致しない(言い換え表現がない)からです。
以上を基本とする《マッピング解法》を,斬新な解き方=クリエイティブな解法だと主張するつもりはありません。現代文が得意な人であれば無意識にやっている言語操作を,分かりやすく手順化しただけとも言えるのです。

❖マッピング解法の長所と限界

最後に,マッピング解法の長所とその限界について触れておきます。
《長所》
・小説も評論も「1つの手順・3つの作業」で解ける。
・傍線部問題の約8割はこの解法で正解を絞り込める。
・解釈力に自信がない人でも,正答率アップを期待できる。
・「読む分量」を減らせるので,問題の処理能力が向上する。
《限界》
・まれに適用できない設問がある(その場合は明らかに難問)。
・漢字や語句に関する知識問題には対応できない。
・「表現に関する問題」には適用しにくい。

ざっくり言うと,現代文が苦手で満点はハナから望んでいないものの,8割前後の得点を安定して叩き出せるようになれば大満足,と考えている受験生にオススメです。
以上,現場からお伝えしました。