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「鳥かごのハイディ」完結済み 全23話

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ラクロスの双子、エレノアとチャーリーは幸せに暮らしていた。姿はそっくりでも、性格は正反対。せっかちで右利きのエレノアに、不器用で左利きのチャーリー。一歩先を行くエレノアをチャーリ…
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「鳥かごのハイディ」第一話

「鳥かごのハイディ」第一話

プロローグ
 ハイディー、エレノア。

 八月のグランダッド・ブラフから見る、ミシシッピ川の渓谷と、青々と生い茂る木々の緑。その境界線の向こうには、手を伸ばせば届きそうなほどの真っ白くて大きな雲と、透き通った青空が見えるわ。
 青と緑の境界線を自由に飛び回る野生の鷲が、今のわたしには眩しく見える。このシーズンの、グランダッド・ブラフ・パークって、こんなにも観光客で賑わってたかしら? 
 たった一年

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「鳥かごのハイディ」第七話

「鳥かごのハイディ」第七話

Haze

(2)

 エレベーターホールに着くとレベッカの姿はなく、既に戻ってきていたアガサと鉄柵の前に立つ警備のモーヴィーが二人で話し合っている。
「おかえり! アガサ」
 名前を呼ぶと、ようやくわたしの姿に気がついたアガサはすぐにモーヴィーとの会話を切り上げてこちらへと歩いてきた。
「ごめん! モーヴィーをからかってたら、あなたがいることに気づかなかったわ」
「へえ?」笑顔で答えるアガサに、

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「鳥かごのハイディ」第十話

「鳥かごのハイディ」第十話

第三章Smoke(1)

「チェックメイト!」
 わたしのビショップを弾き飛ばしたエレノアは、嬉しそうにナイトを掲げた。
「なんで? エレノアの真似をしてるのに、なんでいつもわたしが負けちゃうの?」
 チェスのルールなんてまったく知らなかったし、駒を置く場所さえ正確には知らなかったけれど、天気が悪くて外で遊べない日には、エレノアは率先してチェスを引っ張り出してはわたしを相手に大勝ちを決め込んだ。

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「鳥かごのハイディ」第十一話

「鳥かごのハイディ」第十一話

Smoke
(2)

 誰かがわたしの名前を呼んでいる。

「チャーリー? チャーリー?」

 名前を呼ばれるたびに、心が苦しくなる。

「チャーリー?」

 ……アガサ?
 我に返った途端、息をするのも忘れていたかのように苦しくて大きく息を吸い込んだ。必要以上に膨らんだ肺が痛み、今度はむせるように咳き込んで萎んでいく。
「チャーリー? 大丈夫? 落ち着いて水を飲んで!」
 アガサがわたしを抱きか

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「鳥かごのハイディ」第十八話

「鳥かごのハイディ」第十八話

第五章String(1)

 青白い蛍光灯がチラチラと足もとを照らす。真っ白な廊下は薄暗く、少しだけ不気味に見える。
「なんでギターまで持ち出す必要があるのよ? まるで家出じゃない!」
 小声で文句を言うアガサに、わたしも小声で答える。
「だってママの大切な形見なんだもの、置いてなんていけないわ。持ち歩かないと不安よ」
 ギターケースを抱えて、アガサの後ろを泥棒のようにコソコソと気配を消しながら廊

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「鳥かごのハイディ」第二十二話

「鳥かごのハイディ」第二十二話

第六章KOOL

 雲一つない、澄み渡ったラクロスの青空の中を、大きな翼を広げた野生の鷲が、自由気ままに、赤と青の境界線を行き来している。新しい年の十月の中頃、再びわたしたちはあのレンガ造りの古ぼけた小さなダイナーに集まって、当時飲むことのできなかったホットレモネードを啜っていた。
「まったく! いつまで待たせるつもりなのよ? これだからアーティスト気取りの奴って嫌いなのよ!」
 待ち合わせの時刻

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