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時系列を触るときに気をつけること〜小説のちょっとしたコツ

小説のちょっとしたコツや小技をご紹介するシリーズ。

今回は「時系列を触るときに気をつけること」です。


時系列とは

小説における時系列とは、出来事の時間的な並べ方のことです。

書く順番と言ってもいいですね。

現在の状況が進んでいくのが普通ですが、ご存じのとおり、創作物ではその順番を変えることができます。

途中で過去の出来事を挿入したり、最初に未来の結末を書いたりすることもできるわけです。


時系列を入れ替えることにはメリットもありますが、同時にデメリットもあります。

時系列を触るなら、それらがわかった上で試みるのがいいでしょう。


主なメリット、デメリットには以下のようなものがあります。

  1. メリット

    1. 見せ場の位置を変えられる

    2. 演出やトリックに使える

  2. デメリット

    1. 読みにくくなる

    2. 過去の回想は退屈になりがち

それぞれ簡単に見ていきましょう。


メリット1.見せ場の位置を変えられる

多くの人にとって、これが時系列を触ろうとする最初の理由だと思います。

物語では、最初に見せ場が来ることはあまりありません。

見せ場は物語が進んだ後半に来るのが普通です。

ですが、それだと序盤が退屈になる場合があるのですね。


そこで、時系列を入れ替え、冒頭に見せ場のシーンを書いて読者を引き込んでおいて、そのあと時間を戻して過去の時点から物語が始まるようにするわけです。

マンガや映画でもおなじみの手法でしょう。

冒頭にラスボスとのバトルシーンがあり、その結末に至った話を最初から語っていく形式です。


エンタメ作品では特に、冒頭にインパクトのあるシーンを持ってくることが推奨されます。

普通の順番なら冒頭に見せ場を持ってこれなくても、時系列を触れば簡単に解決することができるのです。


ただ、この時系列操作は使い古されている印象もあるので、積極的に使うかどうかは難しいところです。

使いどころは見極める必要がありそうです。


メリット2.演出やトリックに使える

時系列を入れ替えることで、驚きの演出やトリックを仕掛けることができます。

ミステリではよくある手法ですね。

現在の話かと思ったら過去の話だったり、別人の話かと思ったら過去の主人公の話だったりと、時系列の入れ替えを隠すことでサプライズを演出できます。


プロット段階でよく練りこめば、作品に大きなひねりを加えることができるでしょう。

また、この手の仕掛けはかなり読者にウケるので、上手く活かせば武器になります。

叙述トリックなども、上手く組み込むと読者ウケはいいですね。


青春ものとか日常ものを書いているなら、普通の話だと読者を油断させておいて、最後にちょっとした仕掛けを入れておくと、ぐっと評価が高まります。

書き慣れてきたら、挑戦してみるのもいいですね。


デメリット1.読みにくくなる

続いてデメリットです。

時系列入れ替えのもっとも大きなデメリットは、読みにくくなることです。


現在の状況が進んでいくのが、読者にとって一番負担が少ないです。

時系列を入れ替えると、現在なのか、過去なのか、はたまた未来なのか、すぐにはわからないので、必ず読者に負担を与えます。

普通ではないことをすると、読者の負担になると考えておけばいいでしょう。


読者の負担を増やすだけの効果があるかどうか、よく考えた方がいいですね。

このような式で考えるのがわかりやすいと思います。↓

  • 読者の利益 = 面白さ ー 読みにくさ

一般化すれば、

  • 読者の純利益 = 得られる利益 ー 読みのコスト

です。


時系列を触ると、読みのコストが上がります。

もちろん、コストを上げても構いません。

ですが、同時に利益(面白さ)を上げなければ、読者に損させることになります。

作者の仕事は読者の純利益を上げることですから、利益とコストの関係は常に意識しておく必要があるでしょう。


デメリット2.過去の回想は退屈になりがち

物語の途中で、過去の回想を挟むことは多いと思います。

よく行われることでしょうが、過去の回想は退屈になりがちだと覚えておきましょう。


当たり前ですが、語っている主人公がいる以上、過去にどのようなことが起こっていたとしても、助かったのは間違いありません。

ですから、回想でハラハラ・ドキドキさせることはできないのです。


何かの説明のために回想を挟む場合もあります。

その説明に回想まで必要なのか、セリフで言うだけではダメなのか、考えてみるといいですね。

読者の興味は常に「主人公が現在どうなるか」であり、過去にはありません。

ですから、可能なら、長々と回想を挟まない方がいいのです。


ここでも上と同じ式が成り立ちます。

  • 読者の純利益 = 得られる利益 ー 読みのコスト

少し退屈でも、過去の回想が、物語に深みを与えると思うなら書いてもいいでしょう。

読者の利益になるなら、多少のコスト増は許されます。


基本は順番に書く

時系列の入れ替えで得られる効果はありますが、基本は、

  • 普通の順番で書く

ことです。

現在から始まり、その状況が進んでいくというごく普通の流れですね。

日常の物事は当然ながら時間どおりに進むので、この順番が読者にとってもっとも負担が少ないです。


安易に時系列を入れ替える前に、普通の順番で処理できないか考えてみるといいですね。

時系列を触らなくても、上手い解決方法があることも多いです。

基本は順番どおりに、どうしても必要なら時系列を最小限触るくらいで考えるのがいいでしょう。


今回のまとめ

小説のちょっとしたコツ「時系列を触るときに気をつけること」でした。

  1. 時系列とは出来事を書く順番

  2. 時系列を触ると、物語の構成を修正したり、仕掛けを作れる

  3. 反面、読みにくくなる

  4. メリットがデメリットを上回りそうなら検討する余地がある

  5. 基本は、現在の状況が進んでいく普通の順番で書く

  6. 時系列を触る前に、普通の順番で処理できないか考える

極端に時系列を触った作品に、映画の『メメント』や『テネット』がありますね。

ヒットしたことでもわかるとおり、時間軸を触るのは、上手くいけば強いインパクトを与えられます。

それではまたくまー。

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