見出し画像

人称の基本を知ろう(3)〜人称ごとの内面の書き方

小説のちょっとしたコツや小技をご紹介するシリーズ。

今回は「人称の基本を知ろう(3)」です。

前回の記事はこちら。↓


前回のおさらい

前回は人称ごとに地の文を誰が書いているのかを説明しました。

一人称は人物本人。↓

三人称は人物とは別の話者でしたね。↓


話者の違いによって、情報の出し方には以下のような違いがありました。

  • 一人称

    • 人物が見たもの、聞いたもの、感じたものしか書けない

  • 三人称

    • 人物が知らない情報も書ける


三人称ではわりとルーズにいろいろ書けますが、一人称はカメラに写るもの(音や感触、匂いなども含めて)以外書けないので注意が必要です。

では今回の話をはじめましょう。


人称ごとの内面

内面とは、その人物の考えたことや思ったこと、感じたことなどのことです。

心情描写や内面描写と言ってもいいですし、「心の声」みたいに言ってもいいと思います。


書き方はさまざまですが、地の文にそのまま書く方法と、「〜と思い」「〜と考え」「〜と感じ」といった表現で書く方法の2つが主なものでしょう。

一人称と三人称でどういう違いがあるのか見ていきます。


一人称での内面

一人称での内面描写は単純です。

人物=話者なので、思ったことや考えたこと、感じたことを、そのまま地の文に書けばいいです。

ちょっと書いてみましょう。↓

「う……」
 教室の惨状を見て、僕は息を呑み、立ちすくんだ。
 強烈な吐き気を感じ、思わずよろめいてしまう。(←感覚の描写含む)
 扉に手を触れる寸前で踏みとどまった。
 いけない。指紋を残すわけにはいかないんだ。(←心の声)
 考えろ。このままじゃ僕が犯人にされてしまう!(←心の声)
 僕はえずきながら、猛烈な速度で考えを巡らせた。

もう少し一人称らしい書き方があるのでしょうが、それほどおかしくはないと思います。


内面に関しては、一人称はシンプルなので、特に注意することはないでしょう。

本人の感覚を書けばそれで問題ないです。


三人称での内面

三人称での内面描写はちょっとややこしいです。

なぜかというと、内面を描くときのカメラが2つあるからです。

  1. 人物に憑依したカメラ(憑依型)

  2. 人物から離れたカメラ(背後型)

図にするとこんな感じです。↓

三人称の内面描写


三人称では、人物の背後にカメラがあるのが基本ですが、このカメラが人物に近づいて憑依したようになると、その書き方はほぼ一人称になります。

一方、人物からやや離れたカメラから描写する場合は、距離のある、いわゆる三人称的な書き方になります。


わかりにくいと思うので、簡単な例で見てみましょう。

まずは、人物から離れたカメラで三人称的に書いてみます。

人物から離れたカメラ
 タナカの額を汗が流れていく。
 彼は不快そうに顔をしかめると、乱暴に手で拭った。
 日没までもう時間がない。タナカは疲れた体に鞭打つようにして作業を再開した。

これを人物に近づいて憑依したカメラで書くと、こんな感じになります。↓

人物に憑依したカメラ
 額を汗が流れていく。
 タナカは不快さに顔をしかめると、乱暴に手で拭った。
 日没までもう時間がない。彼は疲れた体に鞭打って、作業を再開した。


あまり良い例ではないかもしれませんが、違いは「人物の中に入っているかどうか」です。

離れている場合は人物の中に入っていませんから、

  • 不快そうに

  • 鞭打つようにして

といった表現で、内面を推測して書くことになります。


一方、人物に憑依した場合は、

  • 不快さに

  • 鞭打って

のように直接的な表現で内面を書けるわけです。

ですから、内面の書き方はほぼ一人称のようになります。


ちょっとややこしいですが、なんとなくわかれば大丈夫です。


三人称の主流は

さて、2つの書き方があるので戸惑ったかもしれませんが、最近の主流は

  • 人物に憑依したカメラ

で内面を書くやり方だと思います。

ですから、まずはこの方法だけわかっておけばいいでしょう。


まとめるとこうなります。

  • 一人称

    • 言動も内面も目にあるカメラから書けばいい

  • 三人称

    • 言動は背後のカメラを基本として、少し離れたカメラから書いていい

    • 内面は憑依したカメラで書く

基本はこうなので、覚えておくといいですね。


……とはいえ、自分がキャラの内面を書くとき、常に憑依したカメラで書いているかというと、ちょっと離して書いている場合も多いです。

ですから、ここは最初の記事でも書いたように「伝われば表現はなんでもいい」の精神を発揮する必要がありますね。

あまり厳密に守ろうとすると書けなくなってしまうでしょう。


内面については、もう1つ押さえておくべき重要なポイントがあるので、それは次回にご紹介します。


今回のまとめ

小説のちょっとしたコツ「人称の基本を知ろう(3)」でした。

  1. 一人称での内面は本人の感覚として書く

  2. 三人称での内面は「憑依型」と「背後型」がある

  3. 憑依型はほぼ一人称と同じ
    したがって、三人称の文章に一人称的な表現が混ざることになる

  4. 背後型は内面を推測して書く

  5. 三人称の主流はおそらく憑依型

  6. とはいえ、背後型が混ざっても違和感はないので、あまり厳密ではない

厳密に守ろうとすると書けなくなるので、主要なルールをわかった上で、読者に伝わりやすく、自分が書きやすい方法を模索するといいですね。

続きはこちらです。↓

それではまたくまー。

(2023.3.20追記)
タイトルをわかりやすく修正しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?