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村長ミルファの苦悩 〜土星〜

サイードは、また異国へと旅立ったと、村の辺境を護衛する官吏が報告してきた。困った息子だ。あいつはどうにも落ち着かない。早く嫁でももらって、村のために働いてほしいのに。兄のシャロフももっぱらサイードには甘い。あいつが自由にあちこち飛び回るの見てるだけだ。

先ほど、海の官吏が「今年の夏のイルカ漁は不漁だ」と伝えに村長の家を訪れた。この村では、夏のイルカ漁で、瓶に塩漬けした肉を冬の備えとしておくのだ。村長のミルファが、異国から持ち込んだ塩漬けの技術を取り入れてから、村の食料事情は安定し、寒い間に狩人たちの帰りをお腹を空かせて待ちわびる子供たちを見かけなくなった。今の子供達は、本当に飢えるということを知らないだろうな、とミルファは昔に想いを馳せた。痩せ細ったシャロフとサイードの飢えと寒さに震えているのをみて、一大決心をした。周りの長老たちはいつも通り狩りにでろと、猛反対だったが、自分の直感を信じ、女房に2人を任せて、塩作りの技術があるという異国へと駆けていき、一年後に戻ったのだ。

ミルファの持ち帰った塩作りは、村の食糧事情を大きく変えた。子供たちが飢えで亡くなることは少なくなり、村人たちの心は安定した。そしてミルファは若くして村長に選ばれたのだ。お腹が空くと気が立って喧嘩や争い事が絶えなくなる。いつまでも星占いに狩や漁の兆候を願っていてはいけないのだ。

ミルファは昔の自分を思い出し、悦に入っていたが、しかし、実際のところ、人口が増えてきた村には、これまでのやり方では、どうしたって食糧が足りなくなってきているのだ。改革が必要なのだが、これまでのやり方を維持しながら、どうやって食糧を増やしていくか、今のミルファには検討もつかないのであった。

土星 蟹座18度 ヒヨコのために土をほじくる雌鳥 7ハウス(DSC合)

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