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平凡だからこそわが世になっちゃった強さとおもしろさ

NHK大河ドラマの立身出世、下剋上的なもの好きなんだけど天下をとっちゃったあとは、あまりおもしろくない。

栄華はバブルのようでせつないし、権力を手に入れた変わる。いい意味でも悪い意味でも。家康さんの青春時代、純粋だったし。

まだ何者でもない、何かになろうとしている、もがいている、だからこそ若さが美しいのかもしれない。

NHK大河ドラマ「光る君へ」の藤原道長を柄本祐さんがのんびりおっとりと演じていますが、柄本道長も権力を手に入れたらどうなるのか楽しみです。

この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思えば

藤原道長

傲慢な歌と解釈されてますが、実は違うという説が今は多いです。今から40年以上前に書かれたこの本も、この歌は不遜でない、となっているのがすごい。

この世をば 上下 永井路子

藤原道長の生涯を通して王朝貴族社会を描いた歴史小説です。人間の欲望や愛憎の無数のドラマが、鮮やかな絵巻物のように広がっています。

この時代の結婚の形がおもしろい。それ以前からあった妻訪つまどい婚(夫が離れて住み、妻のところに通う)も残っているけど、道長は婿入むこいり婚で、妻方に住み込みます。

女と実家、女と子供がまず核として存在し、そこに夫が迎えられます。家柄の高い女性の婿になることが、出世の第一歩となります。

子どもも、男の子より女の子がよく女の子を天皇の后にし、天皇と姻戚関係になり、摂政・関白という地位に近づきます。

女性がキーパーソンとなる時代というのも壮快です。

姉の詮󠄀子せんし、妻の倫子りんし、紫式部と女性に支えられてあれよあれよと出世していく道長は、ふたりの兄に比べて平凡です。

この道長さん変わらない。高い地位につきたい、とは思っているけど浅ましく愚かに感じないのはなぜだろう。

「なんたること、なんたること」と喜んだり悩んだりおかしみがあり、人間くさく憎めない。

道長さんのお力もあるんだけど、棚ぼた的出世もおもしろい。

疫病、流行病、呪いとこの時代特有の死からも免れて生き残り、娘の彰子しょうし姸子けんし威子いしがそれぞれ太皇太后、皇太后、中宮となって三宮を独占したことを望月にたとえただけで、うれしくって、つい「この世をば」だという。

なるほど、1000ページ以上の道長さんに付き合ってみると、照れくさそうというのに納得します。

若いときから変わらない感じのする道長さん、魅力的に描かれています。

女性の力と死ななかったこと、平凡であることが出世の極意かもしれません。

柄本祐さん、「なんたることか、なんたることか」言って欲しいなぁ。

おもしろかったです。

澤田瞳子さんの解説もわかりやすく楽しめます。

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