見出し画像

村上春樹のドーナツ小説におけるドーナツの穴と輪。

いちばんたいせつなことは、目に見えない、とキツネが言いましたが、ドーナツの穴も、そうなのかもしれません。

村上春樹さんの小説には、ドーナツの穴が重要な役割を持っているような気がします。

それは「羊」であったり、「いるかホテル」であったり、「戦前の満州」であり、「昭和十四年のノモンハンでの戦争」であったり、「井戸の底」であり、「図書館」でもあります。

ひとそれぞれに、ドーナツの穴があるのではないでしょうか。

村上春樹さんの小説の中の「ドーナツ」を探してみました。

羊をめぐる冒険

ドーナツの穴を空白として捉えるか、あるいは存在として捉えるかはあくまで形而上的な問題であって、それはドーナツの味が少しなりとも変るわけではないのだ。

講談社文庫「羊をめぐる冒険 上」101ページ

「僕」が製作したコピーに使われた「羊」の写真に対しての理不尽な成り行きについてウィスキーを飲みながら考え、羊を数えます。

羊男のクリスマス

ドーナツ・ショップで働いている羊男が、聖羊祭日せいひつじせいじつにドーナツを食べた呪いをとくために、穴に落ちます。

ここにも「穴」があり、理不尽なことに巻き込まれます。

不思議な図書館

「ぼく」が、図書館の地下牢に閉じ込められてしまいます。「ぼく」にドーナツを持ってきてくれたのが羊男です。羊男が作った揚げたての『かりっとして中身がとろけるようにやわらかい、ほんとうにおいしいドーナッツ』です。

恐ろしい目にあいますが、おいしいドーナツがあったり守ってくれるものもあります。

ダンス・ダンス・ダンス

それから新聞を買ってホテル近くのダンキン・ドーナツに入り、プレイン・マフィンを2つ食べ、大きなカップにコーヒーを2杯飲んだ。

講談社文庫 「ダンス・ダンス・ダンス 上」122ページ

僕は雪の中をダンキン・ドーナツまで歩いて行ってドーナツを食べ、コーヒーを2杯飲み、新聞を読んだ。

講談社文庫「ダンス・ダンス・ダンス 上」

札幌の新・いるかホテルに滞在中にダンキン・ドーナツに通い、羊男に会い五反田くんの映画を観ます。

繋がってて、結び目で。

僕は売店で新聞を二紙買い、ダンキン・ドーナツでドーナツを食べ、コーヒーを飲みながらそれを読んだ(中略)僕はダンキン・ドーナツのピンク電話で五反田くんのマンションに電話をかけてみた。

講談社文庫「ダンス・ダンス・ダンス 下」16・17ページ

渋谷のダンキン・ドーナツ。ダンキン・ドーナツが4回も!

ねじまき鳥クロニクル

僕はダンキン・ドーナツでドーナツとコーヒーを買い、それを昼食がわりにして、一日そこに座っていた。

新潮文庫 「ねじまき鳥クロニクル 第2部予言する鳥編」376ページ

前と同じように近くのダンキン・ドーナツでコーヒーとドーナツを買い、広場のベンチに座って食べた。

新潮文庫 「ねじまき鳥クロニクル 第3部鳥刺し男編」50ページ

新宿西口で、何日も何時間もただ通り過ぎていく人々の顔をじっと見て、やがて赤坂ナツメグに出会います。

すべては輪のように繋がり、その輪の中心にあるのは戦前の満州であり、中国大陸であり、昭和十四年のノモンハンの戦争だった。

新潮文庫「ねじまき鳥クロニクル 第3部鳥刺し男編」338ページ

輪の中心。ドーナツの穴。

周りは繋がっていて、くっついているのに、真ん中はあるのに見えない。
ドーナツの穴は、どこか違う世界の入り口なのかもしれません。

              ◇◇◇◇◇

ドーナツ、作ってみました。ホットケーキミックスで、ミスタードーナツのさくさくのオールドファッションを目指しました。

ホットケーキミックス200g 無塩バター30g練らずに切り混ぜして、全卵1個加え、切り混ぜします。
生地を押してまとめ、切って重ねて押してまとめ、練パイを作るような感じ。10回ぐらい繰り返します。
まとめて、サランラップに包み冷蔵庫で30分以上休ませます。
サランラップの上から生地を1cmぐらいの厚さに伸ばします。
型抜きし、串で線を書きます。
150度の油で揚げます。クッキングシートのまま入れて周りが色づいたらクッキングシートを取り除きます。裏返しにして両方で3分ぐらい。焦げやすいし、ひっくり返すとき壊れやすいので注意!
できました!少し割れてしまいました。
チョコレートをつけました。

さくさくで、美味しくできました!

村上春樹さんの小説のように、理不尽なことがあっても、穴が無でも存在していても、ドーナツの味は変わらないし、おいしものはおいしい。


カミーノさん、hikariさん、Kikkoさんのドーナツの記事からのオマージュです。

ドーナツの輪。つながってる。

ドーナツ、たとえ何があろうと、何が起ころうと、世の中には絶対に必要なものですよね。ドーナツ本体ももちろん素敵ですけど、「ドーナツの穴」という無の比喩も社会には欠かせません。ドーナツはいろんな意味で、世界を癒やします。がんばってドーナツを作り続けてください。僕は常に、ドーナツ・ショップの味方です。

2020年 TOKYO FM 「「村上RADIO ステイホームスペシャル ~明るいあしたを迎えるための音楽」


この記事が参加している募集