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だよね、「ドーナツ」ってやつは②

ついつい、筆が進んでしまい、すっかり長くなったので、
記事を二つに分けました。
カミーノさん、触発される素敵な記事を、ありがとう🥰

③DUNKIN' DONUTS
もう何年も前のこと。
この国を、友人と3か月かけて超節約旅行をしたことがある。
当時、車の運転ができない上に(あれ、今とそんなに変わんないか💦)
よくぞあんな無謀・無知としか思えないプランで旅したもんだと思う。

友人宅以外はモーテルに宿泊。移動は徒歩・バスなどの公共機関のみ。
その危なっかしさに、冷や汗が出る。今の自分だったら、絶対やらない。

空港との間に送迎サービスがあるという理由だけで選んだ、
古びて、薄暗い雰囲気のモーテルに、夜遅く到着。
不愛想な受付係の対応にも慣れっこ。あてがわれた部屋にすぐ引っ込んだ。

翌朝。
街に出かける前に、朝陽溢れるホテルの小さなロビーに行った。
そこには、無料・食べ放題の朝食用ドーナツがあったからだ。
腕いっぱいDUNKIN' DONUTSの箱を抱えた受付係の男性が挨拶をしてきた。
昨夜の受付係と、随分違う。
底抜けの明るい佇まい。愛想の良い笑顔。
失礼だが、それまでのモーテルの受付係は、陰鬱な人ばかりだっただけに、
その爽やかさと、丁寧な対応は鮮烈だった。

若い、小柄な体躯の受付係。
彼はいつも、かいがいしく仕事をしていた。
食べ散らかされたドーナツの箱を整理し、コーヒーのディスペンサーの残量と備品をマメにチェックしては、テーブルを拭く。
複数の客グループのチェックアウトにも、すぐに、かつ丁寧に対応する。
合間に私達の「ねえ、朝食ドーナツ、いくつまで食べていいの?」という、
とんでもない質問にも、「いくつでもどうぞ」と鷹揚に答えてくれた。

普段、長居することなどないモーテルのロビーに、
毎朝、小一時間いることが、その街での日課になった。
それは、ドーナツ5つと飲み放題のコーヒーをいただくため。
(食費節約のためとはいえ、信じ難いが、これを2週間続けた。)
そして、受付係の彼とおしゃべりするためだった。

年齢が近いのに、彼は私達の何倍も大人だった。
仕事をしながら、私達の話を実によく聞いてくれた。
同じように在外からこの国に暮らし始め、色々な経験をした彼に、
私達がこれまで経験したことを話し、聞いてもらううちに
全部それは、良い思い出や貴重なネタだと思えるようになった。

毎朝、私達はたくさんのドーナツで満腹になり、
気分も新たに、モーテルのロビーから街へ出かけていった。

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ある日、彼にたずねた。
「あのね、今日は〇〇に行くんだけど、〇番のバスで行けるよね?」
「・・・・・!えっ、公共バス⁈ 君達、車は?」「無いよ。」
彼は絶句していた。ほどなく、何か言いたそうにするのをこらえながら、
丁寧にバスでの行き方を私達に教えてくれた。
それ以来彼は、毎朝、私達がドーナツを頬張っているところに来ては、
「君達、今日はどこに出かけるんだい?」とたずねてくれるようになった。

私達がそのモーテルをチェックアウトする前日。彼に言った。
「今まで、親切にしてくれてありがとう。明日チェックアウトして、
〇〇に遊びに行くから、その近くのモーテルに移動するの。」
「もしかして。荷物持って、バス乗り継いで行くつもり?」「うん」
「わかった。明日は俺、オフなんだよ。モーテルまで送っていくよ。」
「え~、よかった。ありがと、よろしく~」(←無邪気すぎる😖😅)

翌朝。私達は約束の時刻より早く、指定されたホテルの駐車場に行くと、
すでに彼は待っていてくれた。
車に荷物を積むのも手伝ってくれ、出発。

それから1時間半近くの道中。さらに色々なことを話した。
彼は、フィリピンから数年前、ここにいる親戚を頼って移民したこと。
クリスチャンであり、そのお腹に第一子となる赤ちゃんがいる愛妻がいて。
昼は先のモーテルで働く上、親戚の食材屋でのバイトもしていること。
夜はホテル経営学を学ぶために、コミュニティカレッジで学んでいること。
いつか、自分のB&Bを経営したいこと。

彼は直接言わなかったが、実はその日、休みを取ったことがわかった。
おそらく、荷物を持ってバスを乗り継いで移動しようとする私達の身を案じ
車で送っていこうとしたからだと思われた。

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次のモーテルに到着し、荷物を降ろした後。
私達は、彼にガソリン代+お礼を渡そうとした。
彼は「まだ学生の君達から、お金は受け取れないよ」と固辞した。

そして、12個入りのDUNKIN' DONUTSの箱をくれた。
”Good Luck”のメッセージと彼のファーストネームが書かれたその箱には、
ロビーにあるのと違う種類のドーナツとベーグルが並んでいた。

走り去る彼の車を見送りながら、
親切というのは、こういうことを言うのだと知り、胸が熱くなった。

このような厚意も、この国では危険につながる可能性がある。
その夏、私達は、運がよかった。
このように、旅で出会う人のあたたかさを知るばかりだったから。

彼がその後、目標とする学位が取れましたように。
奥様と共に、あの街でB&Bを経営する今でありますように。
”DUNKIN' DONUTS”のロゴを見るたびに、夢語った彼の幸せを願う。

ありがとうございます! あなた様からのお気持ちに、とても嬉しいです。 いただきました厚意は、教育機関、医療機関、動物シェルターなどの 運営資金へ寄付することで、活かしたいと思います。