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答え合わせをして、安心して納得するということ

トライアスロンをやっているから、あなたは体力あるでしょ?と勤め先の園長に言われたことがあります。トライアスロンと仕事なら仕事の方が疲れます。

別荘があるから、結婚しているから。

あの人は独身だから、あの人は子どもがいないから。
離婚しているから、働いていないから。若いから。年だから。

人それぞれのはずなのに、勝手に決めつけたり、そうだと思い込んだり。

人は安心したい、納得したいという答えあわせが好きです。正解なんて
ないのに。

どうしても生きている   朝井リョウ


鬱屈を抱え生き抜く人々の姿を描いた、6つの短編集。

『健やかな論理』にぞくりとしました。

離婚歴あり、マッチングアプリで知り合った年下の彼氏ありの35歳の佑季子はニュースで目にした死亡者のSNSアカウントを特定することで、安心感を得ている。

〇〇だから××、という健やかな論理は、その健やかさを保ったまま、やがて鮮やかに反転する。

「満たされていないから他人を攻撃する」はやがて「満たされている自分は、他人を攻撃しない側の人間だ」に反転する。おかしいのはあの人で、正しいのは自分。健やかな論理に則って、安心したいし納得したい。だけどそれは、自分と他者を分け隔てる高く熱い壁を生み出す、一つ目の煉瓦にもなり得る。

わたしもやっちゃってました。『健やかな論理』どっちもどっち。反転しょうが正転であろうが、同じだ。

自分と他者に、幸福と不幸に、生と死に境目などない

死とはかけはなれている明るくなにげないつぶやきと、死亡のニュース。

少しだけ死にたいと少しだけ生きたい、生きたいのは会いたい人がいるから。生の反転と死の反転は同じだ。

あなたはわたしだし、わたしはあなたで、反転しているし、流転も、暗転も明転もある。

すこやかはしたたかなのかもしれない。


万城目学さんが解説で、書店でのエピソードを披露していました。

百田尚樹さんが「私の作品だけ売れますように!」と書いてあったのに対して「私の作品以外も売れますように!」と朝井リョウさんが書きこんでいた、とありましたと。

すごいな。本を読まなくってもこれだけでも朝井リョウさんのファンになってしまう。

「それ、おかしいでしょう」と声をあげ、他者を考える。だからこそこんなにも苦しくもがきながらも生きている人たちをリアルに活写し、とどけることができるのだなと思いました。


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