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ゾクゾクと不穏さが入り混じる 今村夏子「むらさきのスカートの女」

今回は、今村夏子さん「むらさきのスカートの女」(朝日新聞出版、2022年)についてです。なんとも言えないゾクゾク感と、不穏さが漂う小説でした。帯の「何も起こらないのに面白い」という言葉はまさに言い得て妙でした。

あらすじ

うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいる。

今村夏子「むらさきのスカートの女」(朝日新聞出版、2022年)p.7

「むらさきのスカートの女」と彼女をひたすら監視する「黄色いカーディガンの女」の話です。「黄色いカーディガンの女」の異常な執着によって、「むらさきのスカートの女」は、少しずつ行動を誘導され、ついには同じ職場で働くことになります。

感想

語り手である「黄色いカーディガンの女」はなんなのか!!とずっと、モヤモヤしました。
あまりにも、自分について語らない・他者との関わりがない。冒頭は、「むらさきのスカートの女」のインパクトに惹かれていましたが、気づいたら、語り手に思いを巡らしていました。

読者は、語り手の「黄色いカーディガンの女」の視点からしか「むらさきのスカートの女」を見ることができない。真実を知っている神の視点のようで、一方で語り手自身が「信頼できない語り手」で。

一見、冷静に監視しているかのようにみえて、読者は「黄色いカーディガンの女」のフィルターを通してでしか、この世界を見つめることができないんです。その捉えきれなさが、面白かったです。

つかみそうで、つかみきれない。わからない感情のまま、ラストをどどどっと突きつけられ、終わってしまったという気分です。

150ページ強で、ひたすら「むらさきのスカートの女」の行動を描くだけなのに、なぜここまで面白いのか…読み応え、満足感抜群でした。


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